外食の潮流を読む(74)従業員教育に熱心なラーメン企業が、ラーメン職人の企業を買収した狙い
東京・新宿の歌舞伎町に「焼きあご塩らー麺 たかはし」という繁盛店がある。2015年にオープンした11坪の同店は、11時から翌5時までの営業で一時、月商1400万円を売り上げた。そして、18年に至近距離にある通称ゴジラビルの裏手1階にも出店した。これらの店を展開するのはヒカリッチアソシエイツ(本社/東京都中央区、代表/高橋夕佳)で現在、東京と神奈川に同ブランドの直営店を8店舗擁している。
同社の事業展開は12年7月に代表の高橋氏が夫と2人で東京・茗荷谷にラーメン店を開業したことに始まる。新潟出身の高橋氏は、故郷で慣れ親しんでいた「あごだし」のラーメンが東京にないことを知り、このスープ作りに奮闘、世界で展開する野望を抱いてその第一のステージとして歌舞伎町に挑んだという。
以来、同社では従業員教育に傾注するようになった。高橋氏はこう語る。
「ラーメンは国民食として不動のものですが、個人店の集合体であるということが業界としての課題。また、従業員を採用しても定着しにくい。これは個人店ほどキャリアパスが見えにくいからです。当社では従業員が当社を経験することによって、そのスキルがどこに行っても通用する市場価値の高い人材にしていくことをミッションとしていて、教育カリキュラムをかなり作り込んできました」。
その同社が、4月1日にラーメン店を3店舗展開するRaイノベーションの全株式を取得した。Raイノベーション代表の山口裕史氏はラーメン職人として知られる人物である。創業店舗の「らぁ麺 やまぐち」は13年1月、ラーメンの激戦地である東京・西早稲田にオープン。当時こってり系が全盛であったが、あっさり系の鶏清湯(とりちんたん)で参入。たちまち繁盛店となり、ミシュランのビブグルマン(5000円以下のお薦めレストラン)に6年連続で選ばれている。
ヒカリッチアソシエイツの高橋氏はそのような山口ワールドを日頃からリスペクトしていた。高橋氏と山口氏はラーメン店経営者の集まりを通じて親交を持っていたが、今年の年初の集まりで高橋氏は山口氏から「自分はオーナーシップにこだわりがなく、料理人として高みを目指したい」ということを聞かされた。山口氏の志向性は、高橋氏が目指しているラーメン業界に革新をもたらすために必要なファクターだと考えるようになった。山口氏が目指しているものは料理としてのラーメンを高めていくことであり、高橋氏はラーメン業界における教育的環境の精度を高めることである。この両者がラーメン業界に抱く志の熱さは一致していて、大きなシナジーを見込めると判断した。そこでヒカリッチアソシエイツはRaイノベーションの全株式を取得した次第である。
現状の総店舗数は11店舗と少ないが、科学と芸術性を併せ持つポテンシャルが非常に高い外食企業が誕生した。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。














