「隠れ家レストラン」が求められる今(1)客の思考
「隠れ家風」飲食店は昔からある。住所非公開だとか、メディア出演一切お断りなど店の情報を知らせない店だ。「ご縁」のある人だけが客として迎えられる。しかし今はそれだけではなく、メディア出演可能だが目立たない場所にある店や会員しか入店できない店なども「隠れ家風」な店として人気となっている。
利便性が求められる現代社会において、ある種の不便が伴う店をあえて求める消費者心理は何なのだろうか。自分だけが知っている優越感なのか、発見した時のワクワク感からか、ほかには何が?
隠れ家レストランとはなにか
隠れ家レストランと聞くと、人目につきにくく、知る人ぞ知る店というイメージだが、近年そのカテゴリーは広い。まずは完全に「知る人しかわからない」を貫く“真っ当な”隠れ家レストランだ。住所・連絡先が非公開、紹介制や会員制のため知っている人しか予約ができない。次に、住所は公開しているがわかりにくい場所でひっそりと営業していたり、店の前に看板が無いなど店に入ることに躊躇してしまう隠れ家風。そのほか、夜中の数時間だけの営業だとか、週末のみの営業といった限られた時間帯でしか店を訪問できなくしている店なども現代の「隠れ家風の店」といえるだろう。
都内に3店舗運営しており、現在全国いくつかの県にも新たに店舗を増やしている「恵比寿フラワーパーク」は、完全会員制、住所非公開のバーだ。コンセプトが面白い。店内は花に囲まれており、花を愛でながらオリジナルカクテルを飲むのだという。また、会員を募集する時期も限定されており、一定人数の客数を保ちながら確実な営業を始めている。
加えて最近は、全く隠れていないのだが、「隠れ家風」をコンセプトにしている店もある。例えば店内が薄暗いとか、紹介制や会員制にしているだけで、隠れ家的要素があるとされる。「隠れ家レストラン」で検索をすると、多くの「隠れ家がコンセプト」な店が挙がってくる。隠れ家〇〇などと店名に隠れ家を打ち出している店も少なくない。
隠れ家レストランの特徴としては、大体においてフロア面積が狭く少人数制をうたっているのだが、席数がそれなりに多くある店もあって、暗い照明だとか全席個室だとか、入口が狭いなどで隠れ家演出をしている場合もある。
特別感が優越感に
子どもの頃にかくれんぼをしたり、秘密基地を見つけて遊んだりした経験を持つ人も少なくないだろう。密ひそかな場所を見つけると気分が高鳴る感覚は、子どもの頃に誰しもあるが、大人になっても潜在的な欲求として継続しているのかもしれない。SNSなどにより、検索すれば苦労しなくても楽に情報が得られ、世界中の人に「公開」される現代だからこそ、「自分だけ」、もしくは「限られた人だけ」が知っているということに、逆に付加価値を感じるのではないだろうか。自分だけという特別感が「優越感」につながるのだろう。
不便であることの魅力
また、利便性を追求した商品や生き方も多い中、多少不便であることが逆に魅力にもなっている。人間は、行列してから食べると、並ばないで入店した時よりも一層おいしく感じるのだという。隠れ家レストランも同様な心理なのかもしれない。
隠れ家が放つエンターテイメント
さらにエンターテイメント性にも着目したい。バブルの頃は、テーマレストランの業態が流行っていた。ジャングルや監獄をイメージした店、仕掛けのある店など、エンターテイメントレストランとも呼ばれ、飲食だけではない別の高揚感をもたせたものだった。そうした店は少なくなったものの、現代の隠れ家風レストランは、隠れ家という裏の顔の隠微な雰囲気がある種のテーマレストランであるし、店に着くまでもがすでにエンターテイメント。店の演出にもなっているのだといえそうだ。
共通認識、価値を持つ安堵感
隠れ家風の店のメリットはある程度客層が安定する安堵感にもあるのではないか。その店に縁あって“めでたく”入店できた客という段階で、ある種同一な興味を抱く人間同士である。店内の客はある種の共通認識、価値を持つ関係性だともいえる。安心しやすい空気感が流れるように思う。
隠れ家レストランは、非日常を演出していると思うのだが、客にとっては、高揚感があるが、強すぎない。安心感もあるが日常ではない緊張もある。「非日常の度合いが程よい場所」なのだと感じている。
客とっての利点ばかりを挙げたが、隠れ家レストランに課題は無いのか。また、店にとってはどうなのか。次回は店側の隠れ家レストランの利点について考えてみようと思う。
(食の総合コンサルタント 小倉朋子)