検証と対策 サンマ・サバなど漁獲量制限へ 日本の漁業を考える
「頭が良くなる」「善玉コレステロールを増やす」。健康志向のいま、若年層にもサカナ好きが増えている半面、年々魚の数は減っている。原因は乱獲? 環境汚染? 様々な問題を背景に、日本のいや世界の漁業が揺れている。それを受け水産庁では、サンマやサバなど六種類の魚に対し来年から漁獲量の制限を決定した。価格の上昇を懸念する声も少なくない。「安くておいしくって、ヘルシーな大衆魚」が高級化して、われわれの手から遠いのいてしまうのだろうか。はたして食卓への影響やいかに。
「魚はどこに行っちまったんだろう」。年々乏しくなる海の資源を目の当たりにし、今回の制限はやむを得ないとみる漁業関係者は少なくない。タラコでおなじみのスケソウダラは、その漁獲量がピーク時(1975年)の三〇〇万トンから比べると、今やその一〇分の一程度まで減っている。
主な原因はやはり乱獲。その影響は数量減にとどまらない。小樽市漁協の金井氏は「全体的に魚体が小さくなってきている」と語る。魚の数が減り、魚たちがみな若いうちに産卵するようになってきたためだという。
今回漁穫制限が決まったのはマアジ、マイワシ、スケトウダラ、ズワイガニと、われわれにもおなじみの六種。これらはハマチなどの養殖やマグロなど大型魚のえさとして使用されるため、水揚げ量が多くの総漁獲量の半分を占める。いわば日本の漁業の中心的存在。
◆とるだけの漁業から「育てる漁業」へ
欧米諸国には、漁獲高の制限を導入している例は多く、日本国内でもすでに地域ごと、漁協ごとに自主規制をして資源確保に取り組んでいるところもある。
「ある日突然の豊漁よりも、いつもほぼ安定した量の魚がとれる状態が理想。とるだけの漁業でなく海を守り育てる漁業へ、変わっていくようです」と金井氏。
水産庁では水産資源を長期的視点から確保するために、今年7月に発行した国連海洋法条約に基づき、10月にも漁獲量を政令で定め都道府県に通知、来年1月1日から制限を開始する。
では「制限」とは具体的にどのように行われるのだろうか。水産庁企画課によれば「(1)船の馬力を下げる(2)網を小さくする(3)とる魚のサイズを決める(4)メスを避ける、など方法は状況によりいろいろ。“乱獲”と聞くとマキアミ漁法を廃止すればよいと思われがちだが、需要と供給のバランス、漁業の人手不足問題など、いまやマキアミなしでは日本の漁業自体が成り立たない」という。極端な制限は漁業関係者に与える影響も大きいとし、初年度はこれまでの実績並みに、二年目から徐々に上限を下げる方針だ。
◆「消費者への影響はほとんどない」
今回の制限の対象となるのはハマチなどのえさになるような成長途中の小さな魚なので、一般消費者への価格の影響はほとんどないとのこと。が、進行中の大衆魚の価格破壊へ歯止めがかかることにはなるだろうとみられている。
いま一般の魚店に生で並んでいる魚は、ほとんど日本近海でとれたもの。しかし干物や缶詰など水産加工品の原材料は輸入モノが使われる比率が増えている。さらに、このままでは「大衆魚」が高級化し、輸入モノが出回る率が高まる日も近い。
「近海の魚は、その国の宝。限りある資源を守るには国民一人ひとりの理解も必要です」。長期的な視野にたった資源確保・環境保護への取り組みは始まったばかりだ。