滋味真求:鴨善(東京・築地) 溜りしょう油の旨い鴨焼き

1998.01.10 28号 18面

“鴨ネギ”という言葉は誰でも知っているが、なぜ鴨とネギなのか、その関係を分からずに使っている手合いが多い。

昔から鴨とネギは食べて相性の良いものと相場が決まっている。いまでは鴨肉はあまり食べなくなったが、昔は鴨、キジ、山鳥は三大美味野鳥であった。表面的には四つ足は食べなかった江戸時代にあっては鴨肉は美味の代名詞であった。中国では鴨の字はアヒルのことだが、鴨の親戚筋に当たる北京ダックは世界的美味であり、フランスなどでは鴨は食いしん坊の垂涎の的である。

我が国では冬のシーズンともなると、宮内庁主催の鴨猟が越ケ谷の鴨場で行われるが、これほどうまい鴨を一般ではなかなか食べる機会が少なくなった。これは鴨料理が高いからである。高級(?)フランス料理屋や野鳥焼きの看板を掲げた専門料理屋では青頚だ、グリーンヘッドだ、などと能書きばかり言うが、いざ勘定となるとこれがまた驚ろくような値段である。

「懐を気にせず旨い鴨焼きを食べたい」と思っていた矢先、鴨焼き、鴨鍋の旨い「鴨善」という店が築地の横丁にあった。店は築地二丁目にある名代の蕎麦屋「さらしなの里」ビル三階にあり、交通量の多い新大橋通りをちょいと横丁に入っただけで隠れ家的な静かな店構えである。

店主の赤塚昭二さんはもとは下の「さらしなの里」の若旦那だった。日頃から鴨は旨いものと思っていたが、蕎麦屋ではせいぜい鴨南ばんに使う程度なので、旨い鴨肉を気軽に食べられる店が出来ないものかと考え、鳥肉問屋の協力を得て良質のフランス産鴨肉供給を確保し、三年前に「鴨善」を開店したとのこと。

鴨焼きを食べたが、これがまたすこぶる旨い!溜りしょう油と大根おろしで食べるのだが、この溜りしょう油がなんとも濃厚な、といって甘ったるくない深みのある味。肉の中に血液を若干含んでいる鴨肉の旨みを引き出し、絶妙な取り合わせである。店主の話では「この溜りしょう油があったからこそ鴨善の開店に踏み切った」とのこと。溜りしょう油は江戸時代と同じ醸造法で造っている信州の醸造元から取り寄せている。

鴨のほかに山梨産のキジ、青梅産の軍鶏、フランス産のうずらと鳥好きにはたまらない店である。鴨焼き一五○○円、キジ焼き一一○○円、鴨焼きコース三五○○円、鴨鍋コース四五○○円とすこぶる良心的価格。酒は日本酒の地酒とフランスのいいワインがある。

椅子席三六席。小部屋一○席。営業時間午前11時30分~午後2時(丼物昼食)、午後5時~午後9時。休日・土、日、祭日。住所・東京都中央区築地二-二-七。電話03・3541・7325。

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