元気インタビュー 料理研究家・飯田深雪さん 92歳の長寿学

1995.12.10 3号 4面

日本は四季があって環境がいいでしょ。恵まれているから感謝の気持ちを忘れているのよ。何でも「あって当たり前」と思っている。

北欧では一ヵ月に三日しか陽の照らない月もある。それでも日本人より大きくて立派な体格です。どうしてかというと、食べさえすれば陽に当たっているのと同じ栄養効果のある食べ物がその国で穫れるから。それは人間がしたことではないですね。日本の柿も、人間が売るためにつくったものと、自然になったものとでは味が違う。それこそ大自然の業ですね。そういうことに気付かないと人間って精神が安定しないの。大きく目を見開いて物事を考えないとダメ。それができないのは不幸です。

感謝という気持ちがあると次から何でもありがたくなってくる。心配がなくなる。私は、講義を通じてそのことを若い人たちに教えているのです。

フランス料理を教え始めて四七年になります。親子三代にわたっていて、今では曾孫が通っているという人もいますよ。

絶えず本物を、新しいものを教えるために今でも常に勉強しています。パリから本を何冊も取り寄せてね。今本場の傾向はどうなっているのか、そしてそれを日本の材料といかに合わせるかと考える。同じフランス料理でもバターや生クリームは減らして日本人の口に合うように何回でもやり直す。それから皆に教えるのです。フランス料理の良いところは取り入れ、その土地に合わせたものをつくる。

昔の人も言ったでしょ。「旬のものを食べろ」って。その土地にできるものをその時期に食べるのが一番おいしいし、身体にもいいのです。

私はね、少食なんです。本当においしいと思うものだけ食べる。まずいものは食べないの。おいしいと、胃液も唾液もたくさん出る。すると吸収も消化も良くなる。

洋食が身体に悪いとか、和食の方がいいだとか言う人がいるけれど、全然違う。私は洋食の方が多いけれど健康です。おいしく食べればいいの。でも好き嫌いはいけないわね。

私はある時、足が痛くて立てなくなっちゃった。それで何か足りないものはないか考えた。私は酸っぱいものが涙がでるほど苦手で、これだと思って一番酸っぱいレモンを絞って、はちみつと混ぜて飲んだのです。そうしたら嘘のように治っちゃった。アルカリが足りなかったのね。それから四〇年間欠かさず飲んでいるわ。

一二歳から四二歳までテニスをしていました。戦争で何もできなくなってしまったけど、それで骨が鍛えられた。八二歳の時に骨折したのだけれど、お医者様に一〇代の骨だと言われたわ。

八〇過ぎて骨折すると六~八週間入院なんだけど、私は一週間と三日で退院。二ヵ月後に講義ができるほど回復が早かったの。急に運動しても遅い。食事の摂り方も若いうちから続けてやらないと…。年をとった人に言っても遅いわね。若い人に語りかけないと意味がない。

「百歳元気新聞」に期待しているわ。私は自分の生き方を、料理の道を通じて若い人に教えているの。素直に受け入れられる人は幸せがくる。将来みんな年をとるんですからね。

料理研究家。アートフラワー創始者。一九〇三年10月、新潟県生まれ。外交官の夫と過ごした世界各地での生活体験をもとに、西洋料理と自ら創案したアートフラワーを戦後いち早く人々に教える。

現在東京・中野区に「深雪スタジオ」を開校。料理、アートフラワーをはじめテーブルセッティング、国際教養マナーなどの講座を開催。主な著書「食卓の芸術」「洋風家庭料理」「アートフラワー入門」など一二〇余冊。

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