医食同源のふるさとを訪ねて 漢方人間ドッグ中国・西安体験記
漢方医学、薬膳、医食同源のふるさと中国・西安を訪れたのは晩秋の10月24日。三日間の「漢方人間ドック」を体験するためだ。ご存知、陜西省西安市は中国西北部の中心都市。中国三〇〇〇年のうち一〇〇〇年間首都であった最古の都市で、かつて長安と呼ばれていた。この西安はローマへ続くシルクロードの出発点であり、漢の武帝が西方へ使者を送り、揚貴妃と玄宗皇帝が愛を語り、「西遊記」の三蔵法師はインドへ旅立ち、仏教教典を持ち帰った。日本からは盛んに遣唐使が送られ、百人一首に名を残す阿部仲麻呂は唐でその生涯を終えたことでも有名。また、空海、円仁、最澄、円珍など日本の僧も数多く訪れており、西安は日中友交の原点だ。きっと、唐を訪れた日本人は漢方、薬膳の知識を持ち帰ったに違いない。
漢方医学は、今から四〇〇〇年前の黄河流域から発祥し、中国古代の哲学に基づいて、歴代の医師の膨大な臨床経験によって立証された中国の伝統医学という。初めて体験する「漢方人間ドック」とは、何をどうするのか、期待と不安のなかではじまった。
24日は成田から上海経由で西安には夜の8時30分に着陸。バスで西安南郊外のホテル・唐華賓館まで約一時間。翌25日はこのホテルをバスで午前8時30分に出発。西安の西郊外にある「長安帝神病院」(西安市丈八東路甲字一号三号楼)は、約30分のところにあった。この場所はジョウハッコウと呼ばれ、昔は皇族や貴族たちの保養地として利用していたというだけあって、約一〇万坪の敷地は緑が豊かで、鳥が飛びかっていた。
「帝神病院」の院長は、中国の食習慣を研究している中国経典栄養研究所の所長・劉大器(リウ・ターチー)氏。先生は中国、香港、日本の各地で漢方の講演をしているというから日本語はうまい。会議室に通されるや、「生水は絶対に飲まないでください。また、ホテルとこの病院の往復をしてもらい、外出は禁じます」と。日本人はすぐ体調をくずすため、「人間ドック」としての正確な診断ができないというのだ。
三日間の日程表が配られる。驚いたことに午前9時から午後5時30分まで、漢方医学の基本だという問診、脈診、舌診、耳診、経絡(血液の流れ)診断、総合診断を六人の専門医があたるほか、気功、蒸(ムシ)、推拿(マッサージ)、鍼灸、耳圧のスケジュールがビッシリ。漢方医学はこういうものかと二重の驚きだ。昼食は敷地内の別棟の食堂で食べることになった。
先の六項目の診断の結果は、医師同士の討論会の上、治療方針が決定される。劉先生は「漢方といえばただ単に歴史や伝統の医学であると誤解されている部分がある。中国の伝統医学は、一人ひとりの病める人間として、患者を総合的に考え、患者の訴えを一つひとつ聞き取ることから診断や治療を行う。そして、患者の全身的な体質や歪み、病気に至る過程や原因を追及し、そのバランスを整え、歪みを解消し、人間が本来持っている自治癒力を増強し、最終的に病気を根治しようと考えている。また、すでにかかった病気だけではなく、予防医学の立場から病気になる一歩手前の状態を防ぐことも漢方医学の基本です」という。
さて、記者への診断三日間の結果は“良好”とでた。ただ、「日本へ帰ったら、精神的、肉体的に身体を安定させることが主目的の気功を毎日三〇分しなさい」と劉先生。心の平穏やストレスの解消などの達成に効果があるというのだ。
特に、感情の乱れが内臓に悪影響を与えると考える漢方医学は、「誰もが簡単に行え、副作用の心配がまったくいらない一番の健康法」と。
気功にはいくつかの種類があるが、日本各地で同好会が誕生していると聞く。健康になるのなら薬に頼るよりよいのかもしれない。この帝神病院では、日本人が過去二年間に五〇〇名以上、「漢方人間ドック」を体験したという。西洋医学万能の中で、漢方への関心が高いことを物語っている。
(「百歳元気新聞」記者T・M)