元気が育つスッポン牧場 身体の芯からあつくなる
「ホーイ、また一匹、家出してきてるぞ」。群馬県赤城山麓でスッポン養殖業を営む堀江正人さんのもとには、こんな迷子通報が寄せられる。
もと牛舎を改造して造られたスッポン舎には、大小二つの水槽とふ化場があって、ここには一万五○○○匹を超えるスッポンが住んでいる。
なかにはヤンチャ者がいて、わずかなすき間から脱走を決行する。ソイツを近所の人がつかまえても、結局扱いに困って堀江さんのところに連れ戻されてくるのだ。
養殖池の水温は年中二八度に保たれている。訪れたのは寒い日で、スッポン舎全体がモワーと湯煙に包まれていた。
スッポンは一夫四妻が標準で(さすが!)、5月以降が産卵期となる。一回の産卵数は二○数個。卵はピンポン球より小さく、黄身ばかりで白身は少ない。一つ一つ池から掘り出し、ふ化場に埋めかえられる。三~四歳になると食べ頃となり、生きたまま出荷される。
スッポン舎に隣接して、堀江さんが自らの手で建てた山小屋風の料理屋がある。すっぽんのコースでは食前酒として美しいルビー色(生き血)とエメラルド色(胆汁)の二種が登場。この胆汁は、一○○ml集めるのに大人のスッポンを六匹も要する。また、とびきり新鮮なものしか飲用には向かず、牧場直営店ゆえ味わえる逸品である。「これ飲みャ身体の悪いとこ何もなくなっちゃうよ」と堀江さん。ほろ苦くさっぱりした味、まさに大人向けのカクテルだ。
囲炉裏ではスッポン鍋がぐつぐつ。鍋にダシ汁と酒をいれ、内臓を除いたスッポン肉を数時間煮込む。途中アクを丹念にすくい透明な汁にし、塩で味を整え仕上げにクコの実を散らすのが堀江流。この汁をそのまま常温に置くと、煮こごりができる。スッポンにはコラーゲンなど動物性タンパク質が豊富。また上質のアミノ酸やカルシウムも多く、食べると全身の細胞に生気を与える。「これは太もも」「ここは首」。堀江さんが穏やかな声で部位を説明してくれる。最後のおじやを食べる頃には、身体中の血管が踊りだすような力がフツフツと沸いてきた。
●取材協力=すっぽん茶屋・丸正(電話027・288・6093)