西太后のおやつ(点心) 舌の悦楽と滋養の誘惑

1998.04.10 31号 20面

西太后(一八三五~一九○八)、中国清の第九代皇帝咸豊帝の側室。性格果敢、政治的野心旺盛にして数々のライバルを排し清朝末の事実上の独裁者になった、この国の歴史上まれにみる悪名高き女性は、また大変な食道楽でも有名な人だったという。

毎日二度の正餐にはいつも数十種類メニューを用意させた。とくにアヒル、小豚、羊などの蒸し焼き、あぶり焼きが大好物で、これらの料理は必須科目。

グルメの面目躍如とたたえられるエピソードは、彼女の先祖の地である満州・奉天に行幸した時のことだ。黄金色にいろどられた一六輌編成の専用列車のうち四輌を厨房列車とし、かまど、調理器具、食材などすべてを積み込んだ。そしてその車中でいつもの宮廷と同じく、数十種類を並べた一日二回ずつの正餐とティータイムを、列車をストップさせて専属の楽隊の演奏つきで楽しんだというから、何とも大変な話だ。

しかし中国の歴代の権力者のすごいところは、食道楽といっても単に舌の悦楽を追い求めただけの美食家にとどまらず、人類の野望である不老長寿をめざし究極の健康食を志向したところだ。

例えば秦の始皇帝の秘薬、則天武后の秘酒。これはと認めた食医の調合による生薬配合の料理の数々。その目的が、できるだけ長い間権力をにぎり、この世の贅を味わい尽くすためだったとしても、その執念、情熱には脱帽と言わざるを得ない。則天武后は、そのために亡くなる八○歳まで更年期がなかった、というくらいなのだから。

西太后はこの則天武后にあやかろうとしていたのかもしれない。強引、強烈なところでは天下に負けるところなしの西太后のこと、もちろんこの分野においてもたくさんのエピソードとメニュー集を残していってくれた。ヘルシーブームの昨今の需要からいったらありがたいことといえる。

写真は牛乳を煮詰め固めたお菓子「烙乾」。豆腐のスープのニンニクのせである「口磨豆腐脳」。冷麺ゴマダレソース「清官涼麺」。冬瓜と貝柱の「干貝川冬瓜」。北京式大根餅ミートパイ「羅蔔絲餅」。山●子ゼリー「五種点心」。高貴な紫米と蓮の実の粥「紫米蓮子粥」。

これらは、西太后が食べた代表的な点心(おやつ)の材料には、健胃、強心、止血、利尿、沈静等の作用があるたくさんの生薬がバランスよく配合されていたという。不老長寿、永遠の若さと美貌を非望するならば、一度試してみる価値はあるかもしれない。

(取材協力 台湾・台北市 「京兆伊」)

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