だから素敵! あの人のヘルシートーク:伊集院光さん 冗談企画から真実

1998.10.10 37号 4面

TBSラジオの「日曜大将軍」「VPS」のディスクジョッキーとして、おしゃべりが好調な伊集院光(いじゅういん・ひかる)さん。一八三センチの長身に負けない肉付きの良さで現在の体重は一三〇キロだが、ちょっと前アレッと思うほど横幅が縮まった姿を披露したのは記憶に新しい。あれはいったい何だったのだろう。この方は自分の体重を自在に操れる特技を持つ人なのか。そうだとしたら本気でやせたい時のために、ぜひそのノウハウを紹介していただきたい……と、スタジオにおじゃました。

二年前、確かに五ヶ月で体重を七〇キロ落とすダイエットをしました。キッカケはラジオの周波数です。ニッポン放送のパーソナリティー時代はオーディションで「僕はこの放送局の周波数と同じ体重です!」と売り込んで以来、一二四・二キロにほぼ体重を合わせていました。

ところがその頃TBSラジオの番組を始めたのでスタッフが「今度はウチの周波数、九五・四にして」という企画をもってきたのが始まりです。で、どこまでいくかと。ええ、スタートの時点ではなんと一五〇キロあったのが最終的には八〇キロになりましたね。

方法は簡単。食事は週に一食、それで一日に二キロ泳いで時間があったら自転車に乗っていました。まあ、過激ですね。ドクターがついていてどこでドクターストップがかかるだろう、というような感じで。もともと面白さが勝負のラジオの企画ですから、不真面目なものですよ。「ダイエットなんぞ、身体が健康でなくてもいいんなら誰でもできるわい!」って具合で始めたものですから。僕は巨漢で仕事をしているので、標準体重に対する憧れというのではない。いまのところ、肥満で健康上マズい数値が出ているというわけでもないし。

だから一般の方の参考になるものじゃないです。だけれど、ああこれだけは本当だな、もしまた自分が身体のことを考えて本当の意味でダイエットをする時が来たら、これをポイントにすればいいんだなというのはわかった気がします。

自転車はいいですよ。江戸橋から目白に行く間に椿山荘があってその前の坂がえらく長くて急なんだけれど、あそこを一回も降りないで上がれた時は快感があったなぁ。子供の頃、初めて自転車に乗れた時のようなね。あと一息というところで足をついたり、ギアを重くしてみたりと、いろいろやってみるのはゲームみたいな面白さがありました。

結果的に運動になっているんだけれど、やっている時は運動しようなんて心がけなくても楽しくできる。そういう自分にぴったりの方法を作ること、これがいいんじゃないのかなぁ。自分にぴったりの散歩コースを作ること、散歩コースという言葉もないくらいのサイクルを作ること、サイクルを作ろうという意識もないくらいのコースが出来上がっていく頃にはもうそれは十分長続きしますね。気をつけたいのはそれを食べ物と組み合わさないようにすること。おいしいものを食べにどこかに行くというのがたぶん一番パターンにしやすいんです。これを避ければ、世の中にはお金をかけなくても面白いことがいっぱいあるんだという気にもなると思います。

「食べないようにしろ」の方で、だから「一週間に一食」としたのはまったく一般の方にはお勧めできません。僕の場合は「蓄え」があったから(笑)、問題はなかったですけれどね。

逆に頭の切れはめちゃくちゃ良かったですよ。飢餓状態に置かれている方が「闘わなければ」という意識になるからでしょうか。それイコール「仕事をしなければ」ですからね。アイデアも浮かぶし、何しゃべってるのかわからないけれど後でテープ聞いてみると面白いんです。一種のトランス状態という境地でしょうか。それは僕のようなしゃべり手を仕事にしている者がみんな目指しているところ、何年かにいっぺん体験する境地みたいな。ランナーが感じるという「ランニング・ハイ」に近いのかな。「ダイエット・ハイ」「ハングリー・ハイ」というか。ただそれを越すと今度はストレスがたまって何を言っても面白くない、イライラする状態になるでしょうね。

食べ物の情報って、いますごく多いですね。でも僕の場合は、「パリの五つ星です」とか「ナントカ風の赤ワインソースがけ」とか、そういうのは「そんなの旨くて当たり前じゃないかぁ! 旨くなかったら詐欺だぁ!」と思っちゃいます。「うわあ、これは」という感動はないです。期待を越えることはないし、まずければそんなに高いのにとハラがたつ。でも逆に豆腐とか蕎麦とか何の主張もしていないようなものが旨かったときは「世の中にはこんなものがあるんだなぁ」と思いますね。

この前も番組でジャムの旨いのを食べさせてもらいました。長野でペンションをやっている人が作っているものですが、ちょっと聞き古した気さえする無添加とか無農薬とかいう言葉も、ああ、こういう物のことを言うんだろうなと納得しました。旬の時しか作らないから発売日も値段も「このくらい」としか言えない、「原料が豊作になればもっと安くなるかもしれないし……」という奥さんの済まなさそうな態度がすごく良かった。マーケティングの人が考えたんでもない、「時価なんですっ!」でもない。そういうことも含めて味に集約されている感じがして「なるほど、だからおいしいんだ」と。

最近ではもうひとつ、これは僕にとってちょっとした食い物革命だなというラーメン屋さんに出会いました。ラーメンなんて言うと、グルメ番組の流行り物の代表でよく登場するけれど、そんなのとは全然違う。おやじさんがすごい薬膳マニアでね、ちょっとスープの色が濃いかなというくらいの全くシンプルなラーメンなんだけれど、その味ときたらしょっぱいとか甘いとかいうんじゃなくてとにかく旨いんです。

究極的に人間の身体にいい物だけを探していくとそれが一番旨いものになるという。その代わりちょっと手を抜くとダメになる、材料も残ったら使えなくなるものばかりだそうで、そのラーメンを食べに行くには前日に予約しないと食べられない。でもそういうやり方ならお客の量も適度に調節できて、グレードが保てますよね。だからその店の名前はナイショ。

番組でも食べ物の情報は注目の集まるところなんですが、グルメブームに乗ってもてはやされているような料理人さんはイヤですね。そんな威張ることはない、料理人はおいしいものを作るのが当たり前なんだと思っている人を僕は探し出してほめてあげたいと思っています。だって、食べることってやはり楽しいから。

●プロフィール

1967年、東京生まれ。卒業を前に高校を三年で中退し三遊亭楽太郎氏に弟子入り、「お笑いの基礎を教わる」が自分の落語に限界を感じ転向。その後、ニッポン放送の「伊集院光のOh!デカナイト」で人気パーソナリティーに。故伊丹十三監督「スーパーの女」「マルタイの女」では演技の実力も披露した。

現在のレギュラーは、TBSラジオ「日曜大将軍」「VPS」、TXテレビ「ゲームWAVE」、NHK「WEEKEND JOY」など。

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