ロバ選手の身体を作ったエチオピアンパワーの源
日本人にとってのコメと同じように、エチオピアの人々が主食として欠かせないのが、「インジェラ」。クレープのような蒸しパンで、酸っぱい味。鉄分がレバーと同等量含まれる。カルシウム・食物繊維も豊富なヘルシーパンで、“裸足のアベベ”で知られるマラソンのアベベ選手も、もちろん大好物だったという。
インジェラの原料は、アワやヒエと同じイネ科の穀物・テフ。穀粒が小さく、一〇〇粒集めて、やっと小麦一粒の重さになる。「テフ」とはエチオピア語で「紛失」を意味する言葉で、この粒を落とすと探し出せないことによる。
インジェラの作り方は、まずテフを粉に引いて水で溶き、よくかき回して薄い糊状にして、そのまま二~三日おいておくと発酵してくる。これにさらに水を加え、浅い土鍋の上に直径五〇センチほどの円形に薄く広げて薪で焼く。焼き上がりは灰白色で、その表面には発酵のために大小無数の穴があいている。発酵にかける時間の長さによって、甘く芳香のあるもの、うんと酸っぱいものとができ、家庭によって好みの味があるという。
テフは、エチオピアが起源で、紀元前一〇〇年にすでに存在したという。もう一つ、エチオピアが起源といえば忘れてはならないのが、コーヒー。紀元前九〇〇年頃、エチオピアの南部カフェ州で発見され、その呼び名がカフェに由来しているという。エチオピア産のコーヒーは優雅な芳香と酸味で高い評価を受け、高級品として扱われている。
一〇世紀前後にイスラム世界の著名な医学者ラージーが「古来エチオピアに原生したブンの種実を砕いて煮出した汁液ブンカムは、一種の薬として胃によい」と書いている。ブンとは、コーヒーの木とその種実の原始名で、ブンカムはその生豆を乾燥し、煎らずに砕いて煮出した麦わら色の液体のこと。ちなみにエチオピアでは、コーヒーのことを「ブンナ」と呼び、いまでもすり潰した豆にそのまま湯をそそぐ方法でコーヒーを飲む。
インジェラなど家庭料理を食べたあと、ゆっくりとていねいにいられたコーヒーを、みんなでいただく。エチオピア流ヘルシーは、そういった時間がもたらす癒しの効果も大きい。
(取材協力=エチオピア大使館、エチオピアレストラン・クイーンシーバ、UCCコーヒー博物館、太木光一氏)