食べ物漫遊:香港飲茶の影の立役者は
“食は広州にあり”という有名なことわざがあるが、これは中国の友人の話では“生在蘇州・穿在杭州・食在広州・死在柳州”という古いことわざの一フレーズということである。その意味は「風光明媚な蘇州で生まれ、杭州産の優雅な絹織物の衣服をまとい、うまい広東料理を食べ、死したら柳州産の銘木で作った棺桶に入りたい」というのだそうである。まあこれは中国各地の名産品・名物などを並べ立てたものであろうが、中国人の一生の願望とされている“福・禄・寿”よりは現実的であろう。
さて“食在広州”であるが、これは何といっても広東省よりも、その軒先を借りている香港に軍配が上がるであろう。何しろ香港は世界のフリーポートとして、またアジアはもとより世界の金融市場をも牛耳る土地柄なので、金のあるところ世界の美味、珍味が集まるのは経済の原則である。このような背景をもとに香港は世界一の料理天国となったのであろう。
また何といっても“医食同源”のお国柄であるから、地元、広東料理はいうに及ばず、北京、四川、上海と、ありとあらゆる名物料理がそろっている。
中でも香港の名を世界的に広めたのは、お茶を飲みながら点心、小菜を食べる「飲茶」であろう。「飲茶」はもともとは広東省のお茶を飲む方法であるが、現在ではもっぱら食べるという意味合いが強くなっている。
お茶は、香港では主にプアール茶が好まれている。プアール茶は烏龍茶や鉄観音茶などと同じく半発酵茶であるが、その発酵形態が少し変わっていて、仕上げの段階で茶葉に特殊な細菌を付着させ大きなカメなどに入れ、土の中深く埋め込み発酵を促進させたものである。そのため独特のカビ臭さがあるが、当たりが柔らかくマイルドな風味なので香港人の好みに合うのであろう。またプアール茶は保存の状態が良ければ古いお茶ほど値打ちがある。古茶にはびっくりするような値段のものがある。
わが国の食品法(?)は、このようなお茶の賞味期限は二年ということになっているが、役人などというものはどうも杓子定規な考え方をするものである。良いワインは年代物が尊ばれるように、中国茶なども品質によって賞味期限が延長できないものであろうか。
香港人はどのくらいお茶を飲むかというと、飲茶などの際、点心、小菜などをたらふく食べながら、湯飲みなどでは小さすぎるとばかり、大きなコップでガブガブと飲んでいる。とにかく中国茶は余分な脂肪を分解し、消化も助けるということなので、これも理に叶った飲み方なのであろう。
余談だが十数年前、香港へ旅行した際、数人の友人たちと朝の8時から午後2時まで延々と飲茶を食べ続けたことがあるが、これは脂肪分解作用や消化力のあるプアール茶のお陰と思っている。
日本人には少し馴染みのないプアール茶であるが、試していただきたい中国茶の一つである。