あの山登ろこの指とまれ:「超回復」って何でしょう
スポーツ人口というのは、年に一度でもそれをやれば人数に数えられるそうだ。だから登山でも年に一回しか行かないという人もたくさんいることだろう。そういう人に限ってせっかくの一回だからと有名な高い山に行きたがる。一時間ほど歩くだけで三〇〇〇メートルの頂上に立てる乗鞍岳(三〇二六メートル)ならまだしも、やはりそれ以外の高い山ともなると、登りも下りもかなりの体力を要求されるのが当たり前である。
身体や心を休めに来たにもかかわらず、ついつい張り切り過ぎて疲労困ぱい。やっとの思いの登山をして体力に自信を失い、「もう自分には山登りは無理だ」と、やっぱり年一登山に終わってしまうという話もよく聞く。でも心配無用。なぜって疲れることはあなたの体力増強にとって、必ずしも悪いことばかりではないからだ。
筋肉が強くなるプロセスは、激しいトレーニングによって疲労した筋肉に、適切な栄養補給と休養を与え疲れを回復させると、筋肉はもともとあった力より強くなる、というもの。これを「超回復」と呼び、この時運動を繰り返すと体力が向上するのだと考えられている。超回復を起こさせるためには、まず運動をして疲れなければならない。それもいい汗をかいた程度ではなく、非日常的ともいえる本当に「疲れた~ッ」という運動が必要となる。
めぐり巡ってやっと本題に戻ってきたが、つまり、滅多にしない登山に行って疲労困ぱい状態のあなたは、超回復を起こす準備が終わったところ。あとは上手に身体を休ませるだけということになる。休むといっても横になって寝てしまうのではない。ザックを下ろして身軽になったら、疲れた筋肉をストレッチするようなクーリングダウン、整理運動が必要だ。本格的なストレッチをすれば一番だが、それもなかなか大変なので、簡単な方法をお教えしよう。
少し左右に足を広げてゆっくりしゃがみ込む。そのまま数秒間止まったら、またゆっくり腰部から先に持ち上げるようにして足を伸ばし、上体は前に曲げたまま力を抜いてダラッとする。これを三~四回繰り返す。その後、足に滞った血液を、上に戻してあげるつもりで、足首からふくらはぎ、膝関節、股の付け根まで、下から上へ両手でさすり上げる。これを五~六回。これだけで重く感じられていた下半身がずっと楽になるに違いない。
要するに、疲れた後でもさらに軽く身体を動かしてから安静にした方が回復が早く、上手にやれば超回復もするということを覚えておこう。さらに体力増強は、超回復しているときに運動を繰り返すことが必要。だからやっぱり、年一回の山歩きじゃなくて、月二~三回は山へ行こうではないか。
(日本山岳ガイド連盟認定ガイド 石井明彦)