百歳への招待「長寿の源」食材を追う:くず(葛)

2001.10.10 74号 11面

高齢化時代の到来である。くずととうがんは中国や日本では古くから薬食とされ、しかも効果は大きく身体にやさしい食品として人気が高い。食べやすく味の点でもお年寄りに向く。料理の範囲も意外と広く、要研究である。

(食品評論家・太木光一)

くず(葛)は中国や日本の山野に自生するマメ科の多年草でアメリカやヨーロッパではみられない。日本には万葉集や古今集で登場するが、大和の国、栖(くず)地方で根からでんぷんをとりくず粉として売られたのでその名前が広まった。

古来から、くずほどいろいろな面で利用されていた野草は少ない。食品としてみれば、つるの先の新芽や若葉・花を食べる。新芽と若葉は4~5月ごろ、伸び始めたつるの先の柔らかい部分を摘む。

花は8~9月ごろ、八分咲きのものを摘みとる。また生のまま油で炒め煮や、和え物・煮びたしもよく、特有のコクが楽しめる。花は三杯酢・酢みそ合えなどに利用される。

くずは中国でも広く栽培され、河北・河南・山東・安徽・江蘇・浙江・広東ほか多くの省で産出される。温度が暖かく、湿度の高い地方が適地とされている。

日本と同様に鮮食され、くず粉・くず干しなどに利用される。くず粉をとろみとして利用するのは広東料理のみで紅焼粉葛などに利用されている。

中国ではくずの根を葛根(ゲーゲン=かっこん)と呼び、葛根素(ピエテリン)ほか数種の成分を持つため漢方薬材にして重視している。この効用主治は透疹止瀉・除煩止渇・煩熱消渇・泄瀉・高血圧・心臓病などによいとしている。

そして薬理作用として(1)循環系統(2)解脛系統(足のすね)(3)降血糖作用(4)解熱作用に優れている。中薬大辞典によると、日本産の葛根についても全く同様の効力が期待されると記されている。また臨床報道として高血圧治療・冠心病治療・眼底病治療などにも好結果がみられたと報道している。

現在でも葛根は庶民の薬剤として使用され、解熱・鎮痛・脳冠状血管血流増加作用・降血圧作用・循環系統的作用・女性ホルモン作用に効果大とし、人気の高い薬材となっている。

日本では、漢方でいう葛根湯がカゼ・発汗・解熱作用に効果ありとして江戸時代から現在に至るまで愛用者がみられる。現在でもファンが多く副作用のない飲みやすい薬として利用。また肩こりや筋肉のしこりをとるのにもよく、このほか糖尿病・高血圧、狭心症などにも有効とみられ、伝統的な庶民の医薬と呼べよう。

落語のオチで江戸時代、漢方医が万病に対して「それでは葛根湯を進ぜよう」と言うという話があるが、実は優れたオールマイティーに効く薬剤であることが最近の薬学で立証されてきた。しかも飲みやすく価格も割安。

くず粉は生津止渇・清熱除煩・治煩熱・口渇・酒渇病ほかによく効き、少し蜂蜜か生姜を加えると一段と効力は高くなる。手軽で副作用もなく飽きることもない。高齢者の保健のため日常の愛用がすすめられる。

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