花の年金生活・理想を現実に変える法 名刺なんかいらない
ミスター巨人軍長嶋茂雄氏は人と名刺交換をしたことがないという。世紀のスーパースターは「顔」で生きているのだ。しかし、一般の私たちは自分の顔だけでは通用せず、「名刺」の力に頼ってしまう。
「退職して不便に感じるのは、定期がないことと名刺がないこと」と元サラリーマン氏は言う。名刺がないと、上手に自己紹介することができず困ってしまう人が多い。つまり名刺依存症候群だ。どこに遊びに行くのでも必ず名刺を持ち歩き、仕事にプライベートに、一番便利でラクチンな自己紹介グッズとして名刺を活用してしまう人を指す。
初対面の人との会話さえ自分の仕事の話ばかりで、名刺の力を借りなければ遊びもできないという会社人間は何かあった時に自分の「顔」で処理できず、会社の名刺に責任をなすりつけてしまう。
そういう人は、仕事を辞め、頼るべき名刺を失うとどうなるだろうか。退職の日を迎えると同時に、毎日通っていた職場がなくなる、給料がなくなる。同僚や部下もいない、肩書が通用しない、そして長年愛用してきた「仕事用」名刺は無用のチョウブツとなる。
定年退職後だけの話ではない。今の時代、ある日突然リストラで職を失うことだってなくはないのだ。
中高年の再就職についての企業アンケートで、ズバリ採用したくないタイプとは、「前職時代の栄光が忘れられないでそれを自慢する人」「前の会社を基準にして今の会社を批判する人」だという。
過去の栄光にぶら下がらず、本当の自立ができている人こそが企業の求める中高年。会社へ依存心を捨てて自分の「顔」だけで世を渡って行けるかどうか、その人の真の実力が試される。
つまり退職後こそがその人の本当の勝負の時なのだ。
◆働き盛りは制服を脱いでから JR奈良井駅・駅長の原信雄さん
名刺に頼らずに生きるというのは本当の意味で自由になれるということ。現役を引退してはじめて仕事に生きがいを感じ、真の実力を発揮し活躍する人も増えている。
長野県木曽郡JR奈良井駅。ここの駅長は駅員の名刺とも言える制服を着ていない。江戸の町並みの面影を今も残す木曽路の奈良井宿は、老若男女に大ウケの観光スポット。
古い木造の駅舎がどこかなつかしい雰囲気を漂わすこの無人駅で、一年中絶えない観光客を温かく出迎えてくれるのが、駅長の原信雄さんだ。
駅長がいるのに無人駅とは? そう、実は原さんはボランティアの駅長さん。この駅は一時過疎化が進み無人駅となったが、近年の観光客の急増で、JRが駅の管理役のボランティアを募集したのだ。
「別にJRの制服を着ていなくても、この窓口に座っていれば皆さん私が駅員だとわかってくれますから大丈夫」という原さんは今年八四歳、朝は7時から夕方5時まで、年中無休でこの駅を守って今年で一三年目だ。
前職はJRとは無関係の普通のサラリーマン。「定年退職となっても働けるんですから幸せですねぇ。でも、同じ働くんでもサラリーマン時代とは全然違います。生活がかかってないのがまず違う。ボランティアなので賃金は一切出ないし、光熱費すら自分持ち。だからと言って手を抜いてるわけでは決してありませんよ。逆に現役時代より一生懸命仕事をしています。たぶん会社のためでなく自分のために働いているという実感をもてるからでしょうね」と語る。
当初老人クラブの仲間五人で始めたが、今は二人だ。「仲間がやめるとき一緒にやめようかと思ったことも。でも家にいても何もないけど、ここには電車が毎日くるでしょ。町の人の毎日の通勤の顔、旅の人の期待に満ちた顔が元気のモトになるんです。雪が降ってもヤリが降ってもここへ通ってくることが長生きの秘訣だと思っています」と柔らかな笑顔で話す。
現役時代の競争の世界から解き放たれ、会社人間から脱皮することで、真の自由人として第二の人生を生き生きと過ごす。精神的な働き盛りを迎えるのは、定年退職後なのかもしれない。
◆戦慄!女子高校生の名刺ゲーム
今、女子高生の間では名刺を持つことが大ブーム。そしてサラリーマンと交換した名刺を使って世にも恐ろしいゲームをしているという。彼女たちはなぜ名刺を持ちたがるのか。彼女たちにとって名刺とは何を意味するのだろうか。
和紙製、色つき、顔写真入りと、名刺は多様化している。そしていまや、パソコン、ワープロ、シール、プリントごっこやハンコを駆使した手作り名刺が高校生の間で大流行。その名刺は名前、住所、電話番号‐‐のほかに、ポケベル番号が記されているのが特徴だ。血液型や誕生日などを付け加えて渡すこともあるという。
彼女たちにとって大切なのは、名刺の枚数。たまった名刺の多い人ほど友だちが多いことの証明なのだという。名刺を持つのは、「自分はこんなに友だちが多い」ということを周りにアピールするためと、また自分自身の孤独感を解消するためなのだ。
さらに彼女たちは、サラリーマンとも名刺交換をし、オトーサンが泣いてしまうような名刺を使ったこんなゲームをして遊んでいる。そのゲームとは、集めた名刺を友だちと比べあい、会社の知名度、人物の肩書によって勝敗を決めるという名刺ジャンケンゲームである。
「『部長』って『常務』よりエラいの?」「たぶんね」「じゃ、私の勝ちネ」……。うーむ、おそるべし女子高生。日本人の名刺依存症候群はここまで広がっているのだ。