ヘルシー企業の顔:カルピス・武藤高義代表取締役社長
今年創業八五周年を迎えるカルピス(株)。「創業以来、人の健康を常に考えてきたのがわが社の原点」と語るのは、同社の武藤高義代表取締役社長。常に明るく元気、笑顔を絶やさない。「会社に行く時、一度もイヤな顔をせず家を出るので、家族に不思議がられている」と仕事を楽しむ一方で、家庭も大切にする。社長に就任して二年目の今年から“健康”を基軸とした事業の中期経営計画を打ち出すなど“元気なカルピスに、元気な社長あり”の姿が見えた。
カルピスに来て、今年で七年目になります。社長就任からは二年目。副社長時代から、小林公生前社長(現会長)と組みまして、当社の将来像を常に念頭に置きながら走ってまいりました。特に社長になってから「魅力と価値のある商品や技術を提供し、“心とからだの健康”に役立ち、社会に貢献できる企業グループを目指す」を企業理念に事業を展開しています。
私たちは、メーカーなので事業と商品を通して世の中とかかわっている。そういう意味で、「魅力と価値のある商品や技術の提供」というのは、永遠の課題なんです。
それから、事業展開するうえで、一つの大きな転機になったのが『カルピス酸乳/アミールS』の発売です。私が来て間もなく開発に着手しました。わが社は、過去に同じような商品を出して、九州でテストマーケティングし、チルド(冷蔵)でもうまくいかず、三度目に常温で特定保健用食品の認可を受けて成功したという苦労がありまして、忘れもしない一九九七年7月7日に発売にこぎ着けました。もちろん、そのころ新製品も数多く開発し、組織を変え社員の意識も変え、工場を含め環境整備をしたりと、努力しました。しかし、現在の経営を方向付けたのは『アミールS』だったような気がします。
ところで、「『アミールS』は血圧が下がり過ぎることはないか」という質問をよく受けます。体内のアンジオテンシン1が2に変わるとき、ACEという酵素によって血圧を上昇させます。そこに『アミールS』に含まれている「ラクトトリペプチド」が働き、ACEを封じ込めてしまいます。血圧を高める物質を抑えるだけなので、低血圧の人や正常血圧の人でも下がる心配は全くありません。特定保健用食品ですので安心です。
いまでは、日本は高齢社会になり、あと五〇年もすると四割が高齢者になるといわれています。大変な時代になります。若年層と高齢者が一対一になると言う人もいるほどです。そういう中で、日本の人口構成の問題、世界中の人々の高齢化を考えると、“健康”に目を向けるのは必然の結果です。
当社八五年の歴史を振り返りましても、カルピスを創業した三島海雲は「心とからだの健康」を願う気持ちを最初から持っており、生涯を捧げた人です。それがわが社の出発点・立脚点でして、急に健康を言い出したわけではありません。
二〇〇二年を迎え、原点回帰に近いような気持ちもありまして、今回の中期経営計画(二〇〇二年1月~二〇〇四年12月)の一番頭に「健康を基軸に」という言葉を据えております。そして、商品の低価格化が続いている昨今ですが、国際的にも通用するように「付加価値型企業グループの実現」という主題を健康基軸とともにつけました。
中期経営計画の四つの事業領域、(1)止渇型・嗜好型の飲料・食品事業(2)健康機能性飲料・食品事業(3)微生物活用事業(4)海外事業‐をそれぞれ強化・拡大していきます。中でも力を入れていきたいのは二つ目にあげた健康機能性飲料・食品事業の拡大です。『アミールS』を中心に経営資源を集中し、売上高を大幅に拡大する方針です。
あえて「食品」と付けたのは、飲料会社でとどまるのではなく、飲料周辺の食品にまで事業を拡大しようと思っているからです。そういう意味でヨーグルトの分野に入る『アミール・のむヨーグルト』の発売や、『アミールS』のエッセンスで血圧降下作用のあるラクトトリペプチドをあらゆる食品に入れるということも考えられます。常に“健康”がキーワードですから。
そこで昨年、健康栄養飲料グループを完全に独立させ健康機能食品事業部を新設しました。それから、従来、商品研究所と基盤技術研究所があったのですが、基礎研究フロンティアラボラトリーというちょっと変わった名前を付けた第三の研究所を作りました。
社長に就任してから七つの基本方針を立てました。
一つ目は、「新事業・新製品開発力の強化」で、第三の研究所を生かし、次世代の技術を狙うのが一つ、それから外部の研究機関・会社との連携をとることを狙っております。
第二に、「技術力の強化と活用」。昨年『アミールS』が、世界的に権威のあるIFT(米国食品技術者協会)から「産業発展功労賞」と、FIE(欧州国際食品素材展)から「最優秀食品研究賞」をダブル受賞し、国際的に評価されており、自信を持って技術重視の路線を打ち出しました。
第三に、「コスト競争力と営業力の強化」。メーカーの営業力は、モノを売ることではなく、売れるようにすること、仕組みづくりであると考えています。
第四の「グローバル化の推進」は、現在、東南アジアの二工場で生産していますが、今年の大きな課題が、『アミールS』のアメリカ進出。あの広大な市場でどういう戦略が通用するか、当面の大きな鍵になると思ってます。
第五の「品質・安全性の保持、環境への取り組みの強化」。品質第一という考え方を絶対に譲りません。安全性の確保には、万全を期し危機管理規定を作り、危機対策本部を常設し、本部長には私が就任しました。だから二四時間態勢です。
六番目に挙げた「連結経営の推進」は、一八社の子会社がありますが、いまはグループの時代だと思っています。整理統合もさることながら、新しい子会社を作っていくことも必要だと考えております。
最後に「明るく逞しい企業風土の醸成」を掲げました。当社は、最近元気が出てきております。一つの目標には全員参加し、結果を出す。出た結果を次のために反映させ、また次の目標に循環させていく。マネジメント職、一般従業員の新人事制度も実施しました。
元気の秘訣は、お酒が好きということ。どういうことかというと、人と人とのコミュニケーションにお酒は非常に良いと思っています。人と接する場ができる。それから、本をよく読みます。単行本は月に一〇数冊は読んでいます。昨日(日曜日)も、三冊買いました。毎日寝る前に一時間くらいは、本を読んでいるので、ベッドは本だらけです。ちなみに、買った三冊のうちの一冊は高血圧の話を書いた本でした。
もちろん毎日一本『アミールS』を飲む。大好きなものがお漬物とお酒。元気そのものです。ちょっとした小話ですが、小中高と一二年間、無遅刻無欠席と、小さいころから元気そのものだったようです。スポーツも好きで、テニスをずっとやっておりましたし、いまはゴルフをやっています。おつきあいのゴルフもさることながら、家族とのゴルフも楽しんでいます。さらに、海外旅行を必ず一年に一回、夫婦で実行しております。
先日、家内から「あなたは不思議な人ね。働きに出るとき、一日もイヤな顔をして会社に出かけたことがない」と言われました。味の素にいた三十数年とカルピスと、つらい顔やイヤな顔とかしたことがないと言うんです。忙しい仕事も元気の源になっているのかもしれません。
◆プロフィル むとう・たかよし
昭和13年(1938年)3月25日生まれ、64歳。長野県飯田市出身。昭和36年3月慶應義塾大学経済学部卒業、同年4月味の素(株)入社。62年取締役調味料部長、平成元年7月取締役経営企画室長、3年6月常務取締役食品事業本部長。7年6月カルピス(株)常任顧問に就任、8年3月代表取締役副社長、12年3月から代表取締役社長。