ようこそ医薬・バイオ室へ:ただいま尿路結石と格闘中

2003.02.10 90号 6面

ある日曜日の午前中、急に右腰の背中の辺りが重く痛み出した。「結石かも」と思っていると、徐々に痛みは増し、そのうち呼吸もままならないほどになった。あいにく妻は外出していたので、二時間ほど我慢していたが、あまりの痛さに吐き気がしてきた時には観念して、救急車を自ら呼んだ。

最低限の身支度を整え、保険証と財布と携帯電話を持ち、玄関で座って待っていたが、サイレンの音が聞こえた時には、それだけで随分救われたような気がした。いままで付き添いでは何回か救急車に乗り、いつも乗り心地が随分悪いものだと思っていたが、自分が病人で乗ってもやはりかなり揺れるものであった。

街の小さな病院に運ばれ、痛み止めを打ってもらってもしばらく痛さが続いたが、そのうち疲れて寝てしまい、目が覚めた時にはすっかり痛みはなくなっていた。その日は日曜日だったので翌日検査ということで、とりあえずこの病院で一泊することになったのだが、落ち着いて同室の入院患者を見ると、ちょっと大変そうな人たちばかりの部屋であった。嫌な予感がしていたものの、案の定一晩中叫び声やら大きな寝言やら、まことに賑やかな夜であった。

翌日、CTやX線などの検査を行い、ナント左右の腎臓に数個の石が準備中であるといわれた。ま、命にかかわるようなものではないので少し安心したが、しばらくは薬を飲んで石の排出を促すことにした。もらった薬は、スパスメックス錠、ウロカルンと漢方の猪苓湯エキスである。この中のウロカルンは、ウロジロガシというドングリのなる木の葉のエキスで、四国の徳島辺りで古くから結石症の民間治療薬に用いられていたものだ。

ところで、今回私が患った尿路結石症(腎臓結石、尿管結石、膀胱結石)は最近増加傾向にあり、一九九七年の全国調査では日本人の約一五人に一人(男性の約一一人に一人、女性の約二四人に一人)が尿路結石症にかかるらしい。結石になりやすい人は糖尿病や高脂血症、痛風にもなりやすいといわれ、一種の生活習慣病とさえいう泌尿器科医もいる。確かに、周りの尿路結石の人は、やせているとはあまり言い難い人が多いような気がする。

心筋梗塞や出産の次に痛いといわれるほどの激痛で、たいがい皆驚いて救急車を呼ぶものらしい。石といっても、つるつるのきれいな固い石ではなく、ギザギザのいかにも痛そうな物なのだが、実際には結石が尿の流れを妨げるため腎臓に尿が逆流し、腎盂(じんう)がパンパンに腫れることによる痛みのようである。

その肝心の石は意外に排出されるのに時間がかかり、どうも平均数カ月くらいかかるらしい。つまり、その間はたまに襲うこの痛みと格闘しなければならないと聞き、気分的にかなりブルーになった。あまり頻繁に痛みがひどい時や、自然排出が難しい一センチ以上の石は、ESWL(体外衝撃波結石破砕術)という方法で砕く。このESWLは一九八〇年ドイツで発明され、体外で発生させた衝撃波で体内の腎結石を破砕する装置。以前はお風呂のような水槽にすっぽり入って行っていたが、最近の機械は水槽に入らなくてもよいタイプになっているらしい。身体の外で発生させたエネルギーが、身体を素通りして結石だけに集中させて砕く、夢のような装置なのだが、もともとは、戦時中ドイツの戦闘機メーカーが、潜水艦はこわさずに中にいる人間だけを殺すという、物騒な超音波の研究から生まれたものだ。

とにかく、結石には「一日二リットルくらいの水分を取って、運動をよくする」ということで、以降ミネラルウオーターをいつも持ち歩いている。そして、意外にも早く、新年を迎えた元旦に一個スルッと石がお出ましになったので、今年はよい年になりそうな気がしている。

(バイテクプログレス研究会主宰 高橋清)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら