山は色いろ:虹は明日色

2003.03.10 91号 5面

ブラックフィートインディアンのお祭りに参加した後、たおやかなうねりが広がる草原に地平線まで続く道路を走っていた。

前方から大きなかたまりが迫ってきて、乾いた土地をぬらしはじめ、アッという間に道路が真っ黒になった。一瞬目の前が見えなくなるようなスコールが通り過ぎ、残された水たまりが強烈な日差しを返してキラキラ光るロッジの駐車場に着いた。車から降り日差しを避けるように太陽に背を向けると、小高い丘の上に大きな虹が架かっていた。

米・モンタナ・グレーシャーナショナルパークの夏のことだ。

好天の中、突然吹き荒れる怒りのような豪雨。荒々しいドラマティックな自然の変化の後に、再び輝く太陽とともに現れる美しい虹。北米の先住民族はこの虹を平和のシンボルとしてきた。

彼らのみならず、ギリシャ神話では「神の使い」、古代ヘブライ人は「和解」、現代でもミュージカル「オズの魔法使い」の主題歌「虹の彼方に」に歌われるように、人は憧れと希望、ロマンを七色の虹に感じ続けている。

雨上がり、空気中に浮いた水滴の中に光が入り、その一部は水滴の中で反射してまた出てくる。この時の「入り」と「出」で光は二度屈折する。この曲がる度合い「屈折率」は、光に含まれる色それぞれによって異なり、長い波長のものが小さく曲がり、短いものほど大きく曲がる。

その中で人間が見ることのできる範囲、約三〇〇ナノメートル(一〇億分の一メートル)から八〇〇ナノメートルまでの波長を持つ光たちが、短い順に内側から赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と並んで自分の色を表してくるのが虹だ。

光は自然の中でいろいろな色や姿を見せてくれるが、その中でも、虹は一番ロマンティックな光の芸術品であろう。

これまで一年間色と心や身体の話を書いてきた。色はそれぞれに人の心に働きかけ、情熱、冷静、安らぎなどを与えてくれる。そしてすべての色が入っている虹は明日への期待にあふれている。悲しい時、不安な時、身体の調子が悪い時でも虹をイメージすることで、克服する勇気が湧いてくる。山は色いろ、自然の中には虹にも負けないたくさんの色がある。これからも山に入って、色に出会い色を感じて、ますます健康になっていただきたいものだ。

「山は色いろ」はこれでおしまい。さて次のテーマは? 乞うご期待。

(日本山岳ガイド連盟 認定ガイド 石井明彦)

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