ヘルシートーク:俳優・堺雅人さん

2010.11.10 184号 05面

 刀ではなく、そろばんで一家を守った侍がいた–。偶然発見された幕末から明治の家計簿をもとに、実在した加賀藩の算用者(会計係)とその家族を描いた映画『武士の家計簿』。主演の堺雅人さんにインタビューしました。

 ◆原作がとにかくおもしろい

 この映画の原作は、実在した武家の家計出納帳を丹念に分析した新書なんです(磯田道史著『武士の家計簿「加賀藩御算用者」の幕末維新』新潮新書刊)。たとえば子どもが生まれて何日目にどういう儀式をして、費用を誰がいくら負担したとかが詳細に書いてあるんですよ。

 当時の人々の日常の細部をいろいろ教えてくれる非常におもしろい本で、役作りはこれを何度も読み込む作業で十分でしたね。家計簿という生活に根ざした記録が残っていたので、かつて金沢で生きた下級武士の暮らしぶりを想像しながら演じるのは、実に楽しかったです。映画とともに原作もぜひ読んでみることをおすすめします。

 ◆主人公の責任の取り方がかっこいい

 体面を重んじる武士は何かと出費が多く、実はみんな膨大な借金をしていたそうです。僕が演じた主人公・猪山直之は、世間にバカにされながらも、家財を売り払い、家族全員で質素倹約して借金を返済するんですが、見栄や世間体にとらわれない、その毅然とした責任の取り方がかっこいいなぁと(笑)。また、幕末の革命の時代に、淡々とそろばんをはじき、会計係としての職務を全うするだけの直之を、息子の成之はもどかしく思うんですが、僕は直之のそういう泰然自若としたところにも惹かれます。

 『新撰組』の山南敬助とか『篤姫』の徳川家定とか、これまでも“負け側”を演じてきたからか、どうも敗者への惻隠(そくいん)の情を感じてしまうんですよね。

 ◆印象深いのは、家族で食事するシーン

 撮影は家族の食事シーンから始まりました。仲良くなるためにはまず食事を共にしろというけれど、そういうシーンからクランクインしたことで、共演者ともすぐに打ち解けることができました。食事シーンは劇中に何度もあるんですが、加賀大根の炊き上げとかタラの昆布締めとか、おかげでいろんなおいしいものを食べることができました。

 プライベートでも、時間があれば、なるべく自分で料理するようにしています。筑前煮とか故郷・宮崎の郷土料理である冷汁とか、野菜をいっぱい入れて作りますよ。役者は体力勝負の仕事ですから、食事ってやっぱり重要だなと日々実感しています。

 ○プロフィール

 さかい・まさと 1973年宮崎出身。92年から東京オレンジ(早稲田劇研)にて活動を始める。舞台、映画、テレビドラマなど出演作多数。2008年のNHK大河ドラマ『篤姫』で、幅広い人気を獲得した。近年の主な出演作に、映画『アフタースクール』『クライマーズ・ハイ』『ジャージの二人』(08)、『ジェネラル・ルージュの凱旋』『南極料理人』『クヒオ大佐』(09)、『ゴールデンスランバー』(10)、テレビドラマ『官僚たちの夏』『トライアングル』(09)など。2011年は、主演映画「日輪の遺産」を公開予定。

 ◆12月4日(土)全国ロードショー『武士の家計簿』Story

 鮮やかによみがえる下級武士の暮らしぶり。幕末から明治へ、世の中の秩序も価値観も大きく変わっていく時代の中、算用者(会計係)として加賀藩の前田家に仕えた猪山家。どんな困難に遭おうとも、家族でしっかりと支え合い、家業であるそろばんで生き抜いていく一家の歴史は、先行きの見えない現代を生きる私たちへ“生きるヒント”を与えてくれる。

 監督:森田芳光

 キャスト:堺雅人 仲間由紀恵 松坂慶子 西村雅彦 草笛光子 中村雅俊ほか

 配給:アスミック・エース、松竹

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