ヘルシートーク:静岡文化芸術大学学長・熊倉功夫さん

2013.04.10 213号 05面

 日本の食文化や料理文化を、学問として研究し続けてきた熊倉功夫さん。「味の素食の文化センター」のシンポジウムでは、ユネスコ無形文化遺産に申請された「和食」について講演しました。熊倉さんが考える和食の魅力とは?詳しくお聞きしました。

 ◆800年も前から続くうま味の探究

 和食の魅力は、ヘルシーでおいしいところ。つややかなごはんにたっぷりの野菜、そして新鮮な魚とうま味あふれるだしや調味料--こうした要素がバランス良く取り入れられた理想的な料理が和食なのです。中でも近年、注目を集めているのが「和食独特のうま味」。日本人は800年も前から、この「うま味」をとらえ、だしを通してうま味を抽出することに精魂を込めてきました。江戸時代の料理書には「料理において一番大切なものはうま味である」とはっきり書かれていたというから、驚きですよね。

 実は、うま味の成分が分かってきたのはごく最近のこと。人間の身体にはうま味をキャッチするしくみがあることも、ここ10年ぐらいの研究でやっと明らかになってきました。そんな「おいしさ」の真髄を、800年も前から理屈抜きに感じ取り、研究を重ねてきたなんて…。日本人の感覚、努力に、誇りと敬意を感じずにはいられません。

 ◆和食を食べることで心や作法が養われる

 和食には、私たち日本人の文化が息づいています。自然の恵みを感じながら、野菜を育て、山菜を採り、素材を生かして調理をする。そして、できあがった料理を、作ってくれた人に感謝しながら「いただきます」と言って食べ始めます。そして「ごちそうさま」で締めくくり、最後は一人ひとりがお膳の片付けまで行いますよね。この一連の意識や作法が、まさに日本人の文化そのものだと思うのです。

 また、日本古来の風習と密接なつながりを持った料理が多いところも和食ならでは。例えば、3月3日のひな祭り。この日によもぎ餅を食べるのは、よもぎの強い香りで邪気を払う、魔除けの意味があるのです。そもそもひな祭りは、災厄を引き受け身代わりになってくれる紙人形を、川へ流したことから始まった風習だと言われています。そう考えると、厄除けのためによもぎ餅を食べるというのも納得できますよね。

 食べることで心や作法を身につけ、歴史にも触れられる。和食は私たち日本人にとって、かけがえのない知的財産であると思います。

 ◆1日1食の和食と野菜で元気になろう

 そうは言っても、食文化がこれだけ欧米化している昨今ですから、1日3食「ごはんと一汁三菜」の和食を取ることは難しいでしょう。そこでおすすめしたいのが、朝ごはんだけでも和食にすること。おかずには、ぜひ旬の野菜を取り入れてみてください。夏ならきゅうりやなす、冬は大根やかぶなど。季節の野菜ならなんでもいいと思います。自分が好きな野菜を好きな味付けで調理して、おいしくいただくことが大切。季節の移り変わりを感じながら、自然に感謝して食べる朝ごはんは、本当に格別です。

 だしを取るのが面倒だという方は、うま味調味料や顆粒だしを活用してください。上手に使えば、忙しい朝でも手早く和食を作ることができますし、料理の幅がグンと広がりますよ。あまり肩ひじ張らず、構えずに、気軽に和食を作っていただきたいなと思います。

 私たちは、和食を通して素晴らしい食文化を築き上げてきました。これからも誇りを持って和食をいただきたいと思いますし、みんなが和食を食べることで和の文化が目を覚まし、日本全体が元気になればと願ってやみません。

 ●プロフィール

 くまくら・いさお 1943年東京都生まれ。静岡文化芸術大学学長、国立民族学博物館名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。東京教育大学(現筑波大学)文学部史学科卒業。専門分野は日本文化史、茶道史。日本の料理文化史にも詳しく、関連する書籍を多数発表している。主な著書は『日本料理の歴史』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー)、『日本料理文化史 懐石を中心に』(人文書院)など。

 ◆2013年3月10日、(財)味の素食の文化センターの主催で「食の文化シンポジウム『和食の力:だし・うま味』」が開催されました。ユネスコ無形文化遺産に申請された和食を改めて見つめ直し、その継承のあり方を探るイベント。基調講演には熊倉功夫さんが登壇し、和食の魅力について語りました。