ヘルシートーク:女優・黒木華さん
山田洋次監督の前作『小さいおうち』でベルリン国際映画祭の最優秀女優賞(銀熊賞)に輝き、若手実力派女優として注目を浴びた黒木華さん。12月12日に公開される山田監督の最新作『母と暮せば』では、原爆で恋人を失った悲しみを乗り越え、力強く生きる女性を好演しています。作品の魅力や撮影秘話、毎日の食事や得意料理などについて伺いました。
●悲惨な状況でも、幸せに生きていく とても素敵なことだと思います
前作『小さいおうち』に出演してから1年。こんなにすぐ、山田監督に呼んでいただけると思っていなかったので、今回のお話があった時はとてもうれしかったです。
この映画は戦争を題材にしていますが、人間の最も普遍的な思い–「生きる力」や「母と子の絆」「息子を思う母の心」などに目を向けています。いまを生きている人の誰もが心を揺さぶられる内容だと思います。とても切ないけれど、おとぎ話のような心温まる映画です。
監督は、「いまは戦争を知らない世代の方が多い。戦争について体験として知る必要はないけれど、知識として知っているのと知らないのとでは、生きる力も違ってくる」と、おっしゃっていて。戦争の時代を生きてきた監督だからこそ書けるもの、表現できるものがあって、それが説得力を持っているのだと思います。
私が演じた町子にも、いろいろな葛藤があったはずですが、山田監督からは、「町子は大きな悲しみを抱えているけれど、絶対に暗く演じないで」と言われました。どんな状況でも明るく前を向いて生きていく。町子は見ている人に一番近い存在で、いわば監督のメッセージを託された役どころでした。
●食べ物にまつわるエピソードも! ロケ最終日は長崎の人・街・食に感動
言葉やセット、衣装などで当時の長崎をリアルに再現しているのも見どころです。山田監督は、セリフがない時でも、ちょっとした動きだけで心情を表現することにも気を配られていました。
町子が卵2つを手に持っている何気ないシーンも、演出が細やかでした。「この時代の卵はすごく貴重だから、丁寧にそっと包み込むような気持ちで演技してほしい」と、当時の日常のお話を交えて直接指導していただきました。
ほかにも、映画には食べ物にまつわるエピソードが出てきます。例えば、米、みそ、油、メリケン粉(小麦粉)など、貴重な食べ物を闇市で買ってきてくれる「上海のおじさん」。彼を演じる加藤健一さんと吉永小百合さんお2人のシーンの撮影では、監督と当時の食べ物の話をよくされていたようです。
映画のクライマックスは長崎での撮影。私自身の撮影も最終日だったので、感極まりました。地元の方たちにも協力していただいて、とても感動的なシーンになっています。素朴だけれど、とても情熱的という、長崎の人や街の空気も感じていただけるのではないかと思います。70年前に長崎で戦争を体験した人を演じ、いまの長崎を肌で感じ、そこで最終日を迎えることができたのは感銘深い体験でした。
長崎でもう一つ感激したのは、皿うどんを食べに行けたこと!皿うどんが大好きで、「絶対に食べよう」と決めていたんです。麺はパリパリしていて食感がいいし、大好きな野菜がたくさん取れるし、「こんなに素晴らしい食べ物はない!」と思います(笑)。
●料理好きな母からレシピを教わって野菜料理にたくさん挑戦しています!
料理は大好きなんです。食材を買いに行くのも好きで、スーパーマーケットにもよく行きます。「ちゃんとつくろう」という時はオーガニック野菜が置いてあるお店に行くと、さらにやる気が出ます。
最近つくったのは、「かぼちゃのプリン」と「ホワイトシチュー」。かぼちゃのプリンは、お店で食べたプリンがおいしくて初挑戦。かぼちゃのチーズケーキはよくつくるので味のイメージはできていたのですが、ちょっとかぼちゃの味が強過ぎてしまって。私としては、かぼちゃの味と卵の味がうまく溶け合うような、もっとまろやかな感じにしたかったんですけど。近々、再挑戦したいと思っています!
ホワイトシチューは、ゴロゴロ野菜たっぷりが好みです。にんじん、たまねぎ、じゃがいも、ブロッコリーなどをたくさん入れて。近所の友人の家で食べたのですが、好評でした。「おいしい」と喜んでもらえると「つくって良かった」と思います。
一番の得意料理は、手羽元のほろほろ煮。料理上手な母からレシピを教えてもらいました。手羽元と卵としょうがを煮込むだけなのですが、時間がかかるのでお休みの日にまとめてつくります。しょうがは身体が温まるし、これからの季節におススメです。
お鍋もいいですね。冬には欠かせません。お野菜とお肉をバランスよく食べること、それからよく寝ることが健康にもお肌にも良いみたいです!
●プロフィール
くろき・はな 1990年、大阪府生まれ。大学在学中より野田秀樹のワークショップに参加。2010年、NODA・MAP番外公演『表に出ろいっ!』のヒロインオーディションに合格し、中村勘三郎、野田秀樹との3人芝居でデビュー。2011年『東京オアシス』で映画初出演、2012年に『おおかみこどもの雨と雪』で声優にも挑戦。2013年の映画初主演作『シャニダールの花』以降も、映画『舟を編む』、TVドラマ『花子とアン』『天皇の料理番』など人気作品に多数出演。2014年、山田洋次監督『小さいおうち』で、第64回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞。2016年には、NHK大河ドラマ『真田丸』、主演舞台『書く女』(1/21~1/31 世田谷パブリックシアター 他)が控えている。
◆Movie information
『母と暮せば』(松竹)12月12日(土)全国ロードショー
戦中を生きた親子の、切なくも優しい愛の物語
http://hahatokuraseba.jp/
Story:1948年8月9日、長崎。助産婦の伸子(吉永小百合)の目の前に、3年前に原爆で亡くなったはずの医学生の息子・浩二(二宮和也)が亡霊となってひょっこり現れる。唖然とする伸子に、「母さんはあきらめが悪いから、なかなか出て来られんかったとさ」と笑う浩二。その日から、浩二はときどき伸子の前に現れては、2人はさまざまなことを話す。
話題の中心は、浩二と結婚の約束までしていた恋人・町子(黒木華)のこと。「もし、町子に好きな人が現れたら–」。町子の幸せと、自身の死を受け入れられない自分との狭間で悩む浩二。そんな息子が伸子は愛おしくて仕方なかった。そんな、2人で過ごす幸せな時間は永遠に続くかと思われたが…。
監督:山田洋次
音楽:坂本龍一
出演:吉永小百合 二宮和也 黒木華 浅野忠信 加藤健一 ほか
(c)2015「母と暮せば」製作委員会