「惣菜・弁当」のトレンドは日本から 世界のフードサイエンスの潮流(上)

惣菜・中食 連載 2024.03.08 12726号 12面
久保村食文化研究所 久保村喜代子代表

久保村食文化研究所 久保村喜代子代表

USのSwanson社TV ディナー 出典:スワソンTVディナーチラシから

USのSwanson社TV ディナー 出典:スワソンTVディナーチラシから

USスーパー 健康志向からサラダバーは人気

USスーパー 健康志向からサラダバーは人気

NY 老舗スーパーZABARSの惣菜売場はリピーターが多い

NY 老舗スーパーZABARSの惣菜売場はリピーターが多い

 ◇久保村食文化研究所 久保村喜代子代表

 ●「惣菜から究極の食品開発!」 世界のレディミール市場 2032年には37兆円へ

 2020~22年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う外出自粛などにより、世界的に惣菜や弁当・テークアウト・宅配サービスなどが急成長した。中食は、働く女性など労働人口の拡大だけでなく、簡便でおいしい食品を求める消費者の高まりにより、今後も着実な成長を続けるだろう。フードサイエンスの権威である久保村食文化研究所・久保村喜代子代表が世界の中食最新動向・展望を3回にわたって連載する。

 ●パンデミックで世界の何十億の人々の生活が一変

 目まぐるしい早さで変貌する時代の中で、食品界にも継続的な変革が展開されている。多くの場合、「おいしそう」と思わせる魅惑的な食品に誘われてひと口食べたものの失望するということもある。最も顕著なのは、美食の分野だが新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって世界中の何十億もの人々の生活が一変したことである。顧客に寄り添う中食業界は、数多くの前向きな成果をあげて進化し続けている。ビジネスの観点からみれば過去の話ではなく、現在進行中だ。

 レディミール市場は、世界中至るところで都市化による働く女性など労働人口の拡大だけでなく、簡便でおいしい食品を求める消費者の高まりにより、一層の成長を遂げるだろう。レディミールを分類すると、調理済み食品(冷凍惣菜やサラダ・冷凍ピザなど)、缶詰や保存食品、デザート類などが広義の意味で含まれる。世界の市場規模は2022年が22兆円で、10年後の32年には37兆円に達する(出所:Market.us社グラフ「Global Ready Meal Market」)と予測されている。この市場は年間成長率5.2%で拡大するといわれ、堅固な成長を見込む。

 第二次世界大戦後、どこの家庭でもおいしく食べていた一般的なカレーや野菜の煮物による食卓には、どこでも手に入るしゃれた惣菜メニューがにぎやかに並ぶ。食品スーパー(SM)の棚にはかつて想像もしなかった便利な食品が並び、コンビニエンスストア(CVS)でも個食豊かなパッケージに入った“食事”が鎮座している。まるでレストランメニューを凌ぐような飽食時代の到来だ。中食業界の力強さに追いつけとばかりに食品業界では、コロナ感染症を乗り越えて新しい惣菜や便利な加工食品の開発競争に入っている。

 ●グローバルな観点での惣菜の原型はTVディナー

 レディミールの祖先は、1950年代アメリカのスワンソンという食品会社が、クリスマス用の余った七面鳥を全て切り身にしてホイルトレーに入れて梱包するという天才的なアイデアから生まれた。それは、「温めて食べる食事」(TVディナー)として大成功し、初年度に1000万食販売されたと伝えられる。グローバルな観点ではTVディナーというコンセプトが惣菜の原型といわれている。このレディミールの歴史の中で特別な進化として、アメリカ軍が戦場の兵士に配給している戦闘糧食(Ration)や、地震などの有事の際に自衛隊によって提供される非常用糧食は、水を入れるだけで温まる仕掛けがあり、非常時でも温かく食べられる食事は開発担当者のヒントとなろう。長期間でも飽きがこないように和・洋・中、あるいは肉・魚料理などの献立がバランスよく設定され、しかも加熱には市販の発熱材を活用することで水さえあれば簡単に温かい食事が作れるのだ。実はこのアイデアの加熱方式は、日本発祥のもので世界中で応用されているサイエンス技術だ。

 最新の惣菜パックを加熱するには、容器ごと湯煎もしくは中身をあけて電子レンジで温めるのが一般的だ。学校給食でも大量の調理食品がトレーに盛って提供される。私たちは、家庭用電子レンジと業務用加工機器の進歩のおかげもあって、冷凍だけでなく冷蔵の調理済み食品を容易に食することができるようになった。さらに、海外の旅行者からも絶賛されるメニューがたくさん出現し、かつてのアメリカのパックされた食事(TVディナー)からの進化は、驚愕だ。

 筆者の自宅近くの駅直結SMは、惣菜パックで売場を埋め尽くすほどの品揃えとなっている。

 わが国も欧米の先進国に負けず劣らず離婚率の上昇、自炊をする男性の増加、専業主婦から働く女性の増加と消費者のライフスタイルは変化している。

 ●見えないウイルスからも食品の安全性を確保するためパッケージが進化

 消費者は食事を素早く用意するため、可処分所得が増加するにつれて手軽な価格で手間のかからないレディミールの利用は増え、人気に拍車がかかっている。従来は「日々の食」で必要とされた献立とその買い物プランで忙殺されたが、調理済みの食事を利用することで忙しく働く人々にとっては時間と労力を節約でき、素早く簡単においしい食事をテーブルに並べることができる。さらに新型コロナ感染症など、見えないウイルスからも食品の安全性を確保するため、パッケージが進化した。一方では、食品廃棄だけでなく使用後の包材廃棄物の減量が求められている。

 SMの惣菜売場は変化・拡大している。複数のフードサービスブランドを一つの場所にまとめ、地方のシェフに新しいコンセプトを試す場所を提供し、厳選した高級品で消費者を惹(ひ)きつけるなど人気のとれる売場作りで魅力ある店舗へと進化し続けている。食品スーパーでは格好のビジネスチャンスとして惣菜が浮上し、わが国のCVSでは惣菜のイートインコーナーを設置して顧客を囲い込む。

 アメリカの高級スーパーでは、店内で屋台のメキシカンタコス・寿司バー・パスタステーション・サンドイッチ・ホットフードバー・焼鳥コーナー・さらには高級レストランを併設している。欧米市場では、時には店内でライブ音楽まで行い、独自の料理体験のために食を提供する空間演出をするなどのビジネスシーンが展開されている。顧客は、「料理をする必要がない」レストランよりテークアウトの小売の方が便利だと感じている。それに応えるため食品スーパーは、努力目標としてレストランよりも高い品質と多様性に富んだ商品の品揃えや利便性とコストパーフォーマンスで消費者の需要を満たす「メニューの挑戦」をかかげている。「惣菜は、やり方次第で高い利益率がとれる」とは結果の産物ではあるが、巧妙な調理済み食品の開発により可能だ。アメリカや欧州のSMのショーケースは日本と酷似してきている。その発信地を探すことは不可能で、かの国のSMやフードコートに立つと、海外にいても日本と錯覚するほどだ。

 惣菜のグローバルトレンドは次の通り。

 (1)サステナビリティ

 わが国は、食品の原材料の大部分を輸入に依存するという状況が続いている。ここにきて食品や飲料などを消費することによる環境への影響(負荷)に対する意識が高まり、市場動向に大きな影響を与えている。惣菜や加工食品において持続可能なパッケージを使用した製品の売上げが毎年20%ほど増加していることに表れている。気候変動への影響について私たち全員が日常的に取り組まなければならない現実を突きつけられており、地球の環境に配慮するために、これまで以上に持続可能な環境志向型の家庭料理が求められている。消費者の生活においては、それが料理や食事行動に反映されて厳しい現実に直面している。消費者は手ごろな価格と持続可能性を調和させなければならない。食品スーパーは、消費者に利他主義的な買い物行動を促すように、的確な製品開発とマーケティング努力が必要となる。

 (2)健康志向と和食

 消費者の約48%が体の健康に良い影響をおよぼす食品を求めているという。さらに71%が食べ物や飲み物の香りから食欲や気持ちを高めているという。健康とウェルビーイングに関して優先順位を変化させていくことが重要になっている。

 ●伝統の風味とおしゃれな惣菜で存在感

 オランダの外食産業卸売業者のBidfoodの2024年版トレンド報告によると、56%以上の消費者が製品や料理が本物だと認識した場合、より多くのお金を支払うという。

 高級惣菜店やCVSなどの流通チャネルで販売される惣菜製品など、独創的なアレンジで調理されることで消費者の購買意欲が向上するのだ。

 ○日本の歴史影響

 欧米の売れ筋となっている和食ブームに起因するエスニックフレーバー(風味)をひもとくと、日本という島国の歴史が育んだ食文化が多分に影響しているのだ。惣菜に限らず製品開発では健康志向がトップコンセプトだが、現実問題としてメニュー開発は多岐にわたるため科学的エビデンスを求めるのは難しい。16世紀の大航海時代にヨーロッパの人々が東南アジアを経てたどり着いた地は、極東の国「日本」なのだ。

 日本の伝統料理に脈々と流れるエスニックテイストを調和させたフレーバーマジックコンセプトは、和食開発の王道となっている。パリのCVSで見つけた「おにぎり」のアイテムとしてワサビマヨネーズ、メキシコアボカドユズなど日本では見慣れないフレーバーの組み合わせや、サンドイッチやフランスパンの具材でも、エスニックブレンドの風味表現が生かされていた。なぜ「和食」コンセプトの惣菜が、グローバル市場でメニュー化されているのか。

 世界の至るところで和風どんぶり、弁当ボックス、デザートも流行のアジアンテイストをまとい、外観からも伝わる健康志向イメージなどの強力なベクトルが放たれ、存在感を増している。

 ◆久保村喜代子代表

 くぼむら・きよこ 久保村食文化研究所代表、食品ジャーナリスト・フードサイエンティストとして国際的に活躍し、働く女性として時代を切り開いてきた第一人者。2008年アジア人女性初のIFT(食品科学技術者学会)フェロー、19年には功労賞を受賞。2023年には日本食糧新聞社功労賞を受賞

【グラフ】世界のレディミール市場 2023~2032年(10億米ドル)

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ファベックス2024 主催者特別セミナーで2024年4月12日(金)に、「「惣菜」がグローバルな食品トレンドの主流に」のテーマで久保村喜代子先生に講演いただきます。

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