「惣菜・弁当」のトレンドは日本から 世界のフードサイエンスの潮流(中)

惣菜・中食 連載 2024.03.18 12730号 07面
久保村食文化研究所 久保村喜代子代表

久保村食文化研究所 久保村喜代子代表

パリのSpok メニューのタイトルは!冷やしうどん!

パリのSpok メニューのタイトルは!冷やしうどん!

ドイツ・フランクフルトのスーパーのデリカ少量パックや寿司など、デリカコーナーは日本の影響を受けている

ドイツ・フランクフルトのスーパーのデリカ少量パックや寿司など、デリカコーナーは日本の影響を受けている

ドイツ・フランクフルトのスーパーのデリカ少量パックや寿司など、デリカコーナーは日本の影響を受けている

ドイツ・フランクフルトのスーパーのデリカ少量パックや寿司など、デリカコーナーは日本の影響を受けている

◇久保村食文化研究所 久保村喜代子代表

◆「惣菜から究極の食品開発!」 AIで惣菜もデザートも 商品開発から利益率向上まで

●2024年食のトレンドはスリル満点

人々が何を好んで食べるかという消費行動は、常に変化している。今年の食は、家庭料理や人気の食材、飲み物がどのように世の中の流行を取り入れながら進化していくのだろうか。仕事柄、想像力豊かな料理の傾向(シェフのアイデア)と食材を基にした楽しみ方(調理法)の感覚を研ぎ澄ませていることで、試してみたい魅力的な風味や膨らむイメージが不足することはめったにない。新しい食のトレンドメニューは、健康的で心安らぐ食材が主流となるのは間違いないだろう。話題のメディアによる食のプロモーションが、目新しくてぜいたくな味わいやエキゾチックな味わいに心奪われるように、日々の食事や数多く開発される菓子に心躍るのだろうか。

好運なことに、消費者はあれもこれも絶妙なバランスで、惣菜を食べている。昨今のパリで、話題の店「Spok」のランチボックス(弁当)は、十数ユーロ。日本でチェーン展開しているはやりの美味な食品を扱う弁当・惣菜店と酷似しているようだが、各店舗ではシェフが毎朝生の旬の食材を調理して、日替わりの料理だけでなく、サラダ、サンドイッチ、スープ、ラーメン、デザート、珍味まで提供している。

Spokにはセントラルキッチンはないが、各店舗に美しいオープンキッチンがある。昼時になるとランチを買い求める人の行列でその人気ぶりがひと目で分かる。今、はやりのAIツールを使い、インスタグラム・フェイスブック・リンクトインやイントラネットなどの情報伝達手段を活用した見事なプロモーションで、成果を上げている。「今日のランチ」、それは午後の仕事への活力の素だ。

現在の日本におけるフードサービスでは、自分で注文する場合は液晶(タッチ)パネルなどを利用し、さらにはオンライン注文から、電子マネー決済などITの活用が広がっている。それは、大手スーパーに限らず日々の買い物でも出くわす場面だ。ITリテラシーの高い世代はいいのだが、誰もが使いこなすまでには時間がかかる。しかし、時代の流れに従って慣れていくしかないのだ。筆者も食品スーパー(SM)でAI機器をカッコよく使いこなしてレジまでと分かっていても、戸惑うばかりだ。一番大切なのは、新しいテクノロジーの導入には、世代を超えて影響を及ぼすこということを忘れてはならないということだ。

●多彩な惣菜に夢と現実が

一方、身近な食品界でのトレンドは、食品スーパー(SM)や食料品店の中で調理済み食品をどのように表現しているだろうか。一般的なフードサービス事業だが、素敵で魅力的な新しい売場として継続的に売場が進歩しているのだ。

新しい商業施設には必ずといっていいほど、消費者の欲求を満たしてくれるおしゃれな食の売場やフードコートが配置されている。お腹がすいている時には決して食料品の買い物へ行ってはいけないとはよくいわれることだ。しかし、消費者は現在の経済不安などを肌で感じ、その影響として節約のためにレストランではなく、SMや食料品店、コンビニエンスストア(CVS)の食欲をそそる惣菜で空腹を満たしている。

大規模な調査(Food Industry Association US)によると、アメリカのレストラン利用者が、外食を選択する理由の4割が料理をする必要がないことを挙げている。

さらにSMのデリ・惣菜コーナーが、レストランで提供される料理の品質と多様性という面ではまだ努力が必要だが、3割弱の人がレストランより良い選択肢があると答えた。

●AI・AR・VRが惣菜の開発・販売の現場にも

AI(Artificial Intelligence=人工知能)、AR(Augmented Reality=拡張現実)、VR(Virtual Reality= 仮想現実)の三つのテクノロジーが、惣菜開発や販売、食品および飲料業界に与えている影響は、無視するには多すぎるほど偏在している。しかし現実には、店舗内の厨房から食品生産現場の隅々まで行きわたっているテクノロジーではなく、これらはIT業界におけるソフト開発の中心に位置していることに疑いの余地はない。当然ながら、これらのテクノロジーの浸透は、消費者と経営者の両方にとって最大の懸念となる。

全米のレストラン協会の業界現状報告書によると、レストランにおけるテクノロジー体験を例にとると、パンデミックによってレストランのテクノロジーが加速したという。通信事業者の4分の3以上が、テクノロジーで集客・競争力が得られているからだ。

現実にテクノロジーへの投資は、消費者向けと厨房向けの両方に向かっていると回答があった。ただし、導入されたテクノロジーの明確なコンセプト分類は、新しい流れとしてグローバルに広く食品産業への仮想アイデアも含めて、より広範囲にテクノロジーの進化とともに拡散されている。

日本発の外食産業が、アジア諸国や各地・各国で日本食レストランとして活況を呈している。

一方、日本で生まれた和菓子テースト、あるいは欧風のデザートもインバウンドにより海外からの人々に人気を得ているが、それらはインスタ映えなするビジュアルとともに瞬時に伝播するのだ。ヨーロッパのデパートの惣菜コーナーで、人生初の中近東の菓子を見つけて食べたのが懐かしい思い出だ。

日本からの素材アイデアとして、もちをデザートに、あるいは抹茶の利用が欧米における商品開発のトレンドになっていて、現在市場を作り上げている。

現在の飲食業界でARとは現実の世界のものを視覚化し、VRは仮想世界だが、AIではユーザーの経験に基づいたアルゴリズムを使用している。ARクライアントは現実の存在感を処理、VRクライアントによって制約され、AIは完全に技術化されている。

まず、現在の飲食業界において影響の例を紹介する。

一つ目は、食事をする人に栄養成分を教育すること。ARの助けを借りて、レストランで注文した料理に含まれる食材とそれに対応する栄養価の詳細な情報を客に提供する。VRを使用すると、レストランでは仮想シェフによって、実際に料理がどのように調理されるかを客に紹介することもできる。例えば外食産業の回転寿司チェーンでタッチパネルで注文、支払いも電子マネー決済と便利な世の中になりつつある。

二つ目は、ダイナー(Diner=定食屋や調理移動販売車)、レディミール(Ready Meals=調理済み食品)で料理の待ち時間にゲーミフィケーション(Gamification=ゲーム化)でクライアントである顧客にいかに何度も足を運んでもらえるかが一番の分岐点となる。今では惣菜・デリ・食事メニューを利用する顧客は、レストランより店舗の方が便利だと感じていることは確かな証拠だ。

三つ目は、シェフ、バーテンダー、ウエーターにとどまらず、フードサービスで働く人々が、食品業界の学習プロセスを向上させることでスキルアップすることができる。調理ロボットの利用、料理の下ごしらえから総合プロセス開発へも応用範囲は広がる。

●調理済み食品の選択肢の拡大

パンデミックを体験し、小売業者が利便性とコストパフォーマンスを求める消費者の需要に応えようとしている。店舗としては、個人向けおよび家族向けの調理済み食品の選択肢をアップグレードし、品揃えを充実させている。最新の傾向であるデリ・惣菜の開発は、巧妙な運営としてAIにより、配送速度、食品の品質、商品の種類、梱包状態など主要な五つの指標コンセプトで伸展している。

(1)手ごろな価格で配達=店舗を持たず、調理する場は「ゴーストキッチン」として内装デザインに伴う費用をカットする。あるいは、食料品店の顧客アプリを活用した物流経費のアウトソーシング例として、アメリカではSMが店内に設置することで来店した顧客は、買い物をしながら、アプリなどを介して「持ち帰り」を事前に注文し、食事を出来たての状態で購入するとともに配送費をカットすることができる。

このような事例は、アメリカの小売大手ウォルマート、クローガー、ホールフーズなどは、両者を利用することで課題を克服している。消費者が食べ物を選択して、会計し、食べるまでを一つのアプリで統合することで、ビジネスの流れが維持されている。このようなモバイルアプリにより、消費者の嗜好(しこう)を分析することで、調理済食品のプロセスを合理化することに役立っている。

(2)飲食品の生産コスト削減=業務合理化についてみると、調理器具の汚れのレベルを機器による監視し、常に調理器具が清潔であることを確認する。AIシステムによる光学蛍光イメージングや超音波センシングなどで、正確に汚れのレベルを可視化させることで、洗浄時間やエネルギーの節約が可能になると英国で話題になった。

(3)品揃え管理=需要パターンを正確に予測し、在庫レベルを最適化、コスト削減、食品廃棄物を最小限に抑えることを可能にする。惣菜にはじまり、加工食品全般まで購買行動を研究することで、AIはSMの食品の棚の管理改善がきる。どのようなメニューや商品の需要動向でも明確に判断できる。

予測メニューとして消費者の嗜好分析が、味の好みからさまざまな洞察を得ることができる。

(4)新たな食品の開発=消費者動向からユーザーまで、味の開発・レシピーの開発に対して、フードサイエンスを加味した健康と風味、Personalized Nutrition(各人の健康と栄養管理)までAIはサポートを可能としている。

(5)AI利用でより優れた、より持続可能な食品包装の開発=昨今の情勢で簡便性、「究極の」素材、安全で持続可能、信頼性の高い環境に優しい食品包装が、惣菜・調味調理食品、デザートといった食品に求められている。

消費者用としては、著名スーパー(百貨店)の持ち帰り用保冷バックがしゃれた惣菜入れとして世界のトレンドとなっている(筆者は海外出張でパリのデパ地下で惣菜入れバッグを買った)。

余談だが、流行となっている日本発“Bento(弁当)”ボックスは、グローバルに広く知れわたり、ハイスピードで各国・地域で新しい惣菜コンセプトとして伝播している。

〈参照〉

※AI=人工知能→人工知能とは、「『計算』という概念と『コンピュータ』という道具を用いて『知能』を研究する計算機科学の一分野」を指す語。「言語の理解や推論、問題解決などの知的行動をコンピュータに行わせる技術」、または、「計算機による知的な情報処理システムの設計や実現に関する研究分野」

※AR=拡張現実→拡張現実とは、現実世界に仮想世界を重ね合わせて表示する技術を指す言葉。エクステンデッド・リアリティと呼ばれる先端技術の一つ。

現実の風景の中にCGでつくられた3D映像やキャラクターなどのデジタルコンテンツやデータを重ねて表示することで現実世界を“拡張”

※VR=仮想現実→仮想現実とは、コンピュータによって創り出された仮想的な空間などを現実であるかのように疑似体験できる仕組み。コンピュータを通じて体験される人工的な環境であり、環境内で起こることを人の行動により部分的に決定することができるもの

◆久保村喜代子代表

くぼむら・きよこ 久保村食文化研究所代表、食品ジャーナリスト・フードサイエンティストとして国際的に活躍し、働く女性として時代を切り開いてきた第一人者。2008年アジア人女性初のIFT(食品科学技術者学会)フェロー、19年には功労賞を受賞。2023年には日本食糧新聞社功労賞を受賞

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ファベックス2024 主催者特別セミナーで2024年4月12日(金)に、「「惣菜」がグローバルな食品トレンドの主流に」のテーマで久保村喜代子先生に講演いただきます。

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