「惣菜・弁当」のトレンドは日本から 世界のフードサイエンスの潮流(下)

惣菜・中食 連載 2024.03.29 12735号 15面
久保村食文化研究所 久保村喜代子代表

久保村食文化研究所 久保村喜代子代表

USでポピュラーな包装容器(トレー・カップなど)

USでポピュラーな包装容器(トレー・カップなど)

アルミニウム…オーブン・グリル・電子レンジ・冷凍に安全

アルミニウム…オーブン・グリル・電子レンジ・冷凍に安全

フィルム…オーブン・電子レンジ・冷凍に安全

フィルム…オーブン・電子レンジ・冷凍に安全

◇久保村食文化研究所 久保村喜代子代表

◆「惣菜から究極の食品開発!」 惣菜から製品開発へサイエンストレンド 食品添加物・素材で新メニュー開発

高級飲食店は、ブランドの魔法にかかりたい消費者にとってアクセスしやすい入口だ。現在の日本の経済状況下、消費者がプラダやシャネルのバッグを持つことは難しいかもしれないが、ロンドンのハロッズでプラダカフェのおいしいペストリーを食べる楽しみはある。また、自宅の食卓で高級なデリ惣菜に、海外からの美味なワインなどを飲んで、至福の味わいを感じつつ時を過ごすこともできる。見た目も味もおいしい惣菜の誕生は、効率、安全性、消費者の利便性の向上に対する絶え間ない探求によって常に変化している。特に食品の加工における生産・保存・消費の方法を変えたイノベーションとその進歩は、製品の保存期間を延長するだけでなく、食品への取組み方にも革命をもたらした。

●惣菜、フードテックのアイデアの源

進化を続けているトップのイノベーションは、手作り惣菜を実現する際、開発コンセプトに深化をもたらすものだ。

(1)低温殺菌=時代を超越した節約者であるルイ・パスツールの画期的な研究で誕生した。食品や飲料を加熱して有害な微生物を破壊、食品安全性の基礎であり、製品を新鮮に安全に消費できるようにする。

(2)缶詰=食品保存における革命の産物であり、19世紀初頭にニコラ・アペールが発明した。食品を容器で密封する新しい方法が導入された。このプロセスは、さまざまな食品を長持ちさせる基本的な方法となっている。

(3)フリーズドライ(FD)=鮮度を閉じ込めるFDは、風味と栄養を保ちながら食品から水分を除去する技術。インスタントコーヒー、スープ、さらに、宇宙飛行士が宇宙空間で食する食品の製造を可能にした。

(4)冷蔵・冷凍=驚愕のイノベーションである冷蔵と冷凍技術の発明で、生鮮食品の保管と輸送方法が変化した。その進歩により、加工食品の保存期間が延長されただけでなく、品質も維持できる。

(5)食品添加物と保存料=食品の鮮度と風味(フレーバー)の延長は、消費者に安心感だけでなく、利益も与える。酸化防止剤や乳化剤を含む安全な食品添加物製剤の開発は、食感とフレーバーを改善し、保存期間を延長する。

(6)高圧処理(HPP)=食品の高圧処理は、食中毒細菌や腐敗細菌を不活性化する非加熱による食品保存技術。高圧加工食品では、味、食感、外観、栄養価へのマイナスの影響が、加熱食品に比べると少なく、注目の技術なのだ。熱を利用しなくても賞味期限を延長することができ、食品の品質と栄養価を維持する。

(7)食品の押出成形=押出成形は、圧力と熱の下で混合物を金型に押し込むことで、食品製造方法にイノベーションをもたらした。食品の未来を形づくる朝食用シリアルからパスタ・スナックまで、独特の形状や質感を可能にした。代用タンパク質である大豆ミートは、押出成形の応用だ。

(8)電子レンジと赤外線加熱=電子レンジと赤外線調理器は、食品の調理方法を再定義した。迅速かつ均一な調理を実現し、時間とエネルギーを節約できる。

(9)MAP包装(ガス置換包装)=食品包装内の空気を不活性ガスに置換することで腐敗や酸化を遅らせ、野菜やサラダなどの食品を長期間新鮮でおいしい状態に保つ。

(10)食品の3Dプリント=近年出現した3Dプリントにより、可食材料を重ねてカスタマイズされた食品を作成できる。その技術から個別化された栄養成分と料理の創造・可能性の広がりがもたらされた。

●手作り感を表現できる美味な風味

美味な惣菜から究極の製品開発は、ヒトが永遠に農業と決別する瀬戸際になりつつあるかもしれない。おいしい手作りのものから製品まで、これらのイノベーションは、食料生産の未来になる可能性も秘めている。代替タンパク質ブームをメニュー開発に取り入れることは、食料を生産する単一のプロセスだけでなく、いくつもの分野を組み合わせることでいわゆるポストアニマルが実現可能となる。

わが国における昆虫食は、イナゴや蜂の子などの佃煮が一般的だ。貧しさ・栄養不足の解消食品として食していた子どものころの思い出として懐かしい。タイ出張で見つけた昆虫の姿のままのスナック製品は、パッケージにもその昆虫が描かれていたのは筆者には小さな驚きだった。

グローバルなスタートアップ(新興)企業では、昆虫を大量飼育し、新しいタンパク機能性素材として多様なコンセプトとともにさまざまな応用事例食品として製品化している。

しかし、日本には精進料理(殺傷を嫌う畜肉なし)に代表される豆腐百珍や、すりみ・かまぼことして使い勝手の厳しい小魚を捨てずに利用することにとどまらず、魚肉ソーセージを開発するなど見事な食文化が存在している。わが国の惣菜のアイデアは、健康志向を突き詰めた製品開発に力点を置いてきている。

そして、日本からはじまる食のグローバル化は、手作りから大量調理への展開となり、諸外国から取り入れたフードエンジニアリングの融合によるものだ。おかげで花の都のパリや隣国ソウルの街角、アジア諸国で日本食レストランが活況を呈している。

近い将来起こるエキサイティングな技術開発は、食品を3Dプリントで生成すること。それはアメリカのSF宇宙ドラマのスタートレックの食品生成に特化したレプリケーター(フードディスペンサー)に例えられるかもしれない。「従来」の調理から発生する廃棄物を大幅に削減し、健康的なハイテク食品を促進して、「レシピ」開発を完全に再定義できる。画面上で最終的な物理的形状に対する成分の比率を操作して、斬新な食品デザインに無限の可能性を提供するものになるだろう。

未来のシェフが料理の才能を結集することで、料理彫刻家の芸術の限界を突破することが見え始めている。代用タンパク質と風味を創造して、3D・4Dによるプリンティングでノズルからステーキ肉が提供できるという技術も紹介されている。

●食品貯蔵の新技術で賞味期限10倍

注目は、高圧処理によって食品貯蔵寿命が10倍に延びる可能性があることだ。食品生産者にとって主な関心事の一つは、食品の味や品質を損なうことなく賞味期限を延ばす方法であり、これは太古の昔から続いている問題でもある。

煙や塩、発酵やそのほかの解決策は古代から一般的に使用されてきた。これらの手段は、先見性のあるルイ・パスツールなどによる代替技術が考案された19世紀以降も使用されている。フードサイエンスのアカデミアで、今開発中の新しい技術として高圧処理が注目されている。(日本から発信される高圧技術=越後製菓のホームページからhttps://www.echigoseika.co.jp/enjoy/high-pressure-technology/

高圧処理とは、パッケージで密封された食品を水で透過する高静水圧環境(300~600MPa)下で低温殺菌するプロセス。深海のマリアナ海溝より大きな圧力をかける新しい技術は、微生物を効果的に不活性化し、食品の安全性を保証するものだ。高圧と低温の組み合わせは、食品の味はもとより、外観、食感、風味による官能感覚、栄養価が維持され、元の鮮度が保持できることが特徴だ。

もう一つの大切な利点は、このプロセスには放射線やさまざまな防腐剤の利用が必要ないということだ。

惣菜をパッケージに入れて高圧処理を行うという保存技術は、そう遠くない将来、賞味期限を4倍・5倍・あるいは10倍に伸ばす可能性を秘めている。

●次世代に大きな影響与える通称「ロボシェフ」

惣菜から食品製造へと次世代に大きな影響を与えるであろうフードサイエンスエンジニアリングは、通称「ロボシェフ」と呼ばれるものだ。私たちが作る料理の手法を一変する、文字通りロボットが料理の腕前を披露し、登録された「レシピ」による、完全自動化キッチンの未来が目前だ。ロボシェフは、多関節で自動化された一対のロボットアームで構成され、人間の腕や手のあらゆる動きを再現し、スピードやその感度に関してもヒトの選択肢と同等のスキルを有する。当然ながら、疲れることなく、正確に作業を続けることができるのだ。

日本で開発され、広く利用されているおにぎりロボットや寿司ロボットなどは、外食産業の厨房に導入され大盛況の要因を生み出している。ある意味、タッチスクリーンやスマートデバイスをアプリで操作する自己完結型の「キッチン」も夢ではなく実現可能だ。実質的にはテークアウトレストランのようなものだが、さまざまに進化・進展し続けていくことが予想できる。

惣菜からみた究極の加工食品の未来は、イノベーション、持続可能性、健康志向によって特徴付けられる。食品を保存し、包むという観点からみると、日本では古くから経木による包装やおにぎりを竹皮で包むなどの食文化の意義ある価値観が脈々と受け継がれている。シンプルでナチュラルな成分とそれらを駆使した包装が望まれている。

持続可能な素材による惣菜・調理食品などのパッケージは、消費者とって大きな関心事だ。大手食品企業は、持続可能な包装ソリューションに投資することで対応している。これらのソリューションには、廃棄物を削減するとともに、食品加工による環境への影響を最小限に抑えることや、生分解性、堆肥化可能、リサイクル可能な包装材料が含まれる。

製造加工業界は、テクノロジーの進歩と消費者の需要の変化に対応して、革新と成長をし続け、より長きにわたって大きな変化を遂げるだろう。

◆久保村喜代子代表

くぼむら・きよこ 久保村食文化研究所代表、食品ジャーナリスト・フードサイエンティストとして国際的に活躍し、働く女性として時代を切り開いてきた第一人者。2008年アジア人女性初のIFT(食品科学技術者学会)フェロー、19年には功労賞を受賞。2023年には日本食糧新聞社功労賞を受賞

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ファベックス2024 主催者特別セミナーで2024年4月12日(金)に、「「惣菜」がグローバルな食品トレンドの主流に」のテーマで久保村喜代子先生に講演いただきます。

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