輸入洋酒特集
◆輸入洋酒特集:緊急事態宣言、業務用を直撃 巣ごもり消費で家庭用は追い風
新型コロナウイルスの感染拡大で業務用市場の悪化が深刻さを増している。緊急事態宣言を受け東京都が都内のバーやクラブなどナイト業態に休業するよう要請。居酒屋を含む料飲店には酒類の提供時間の短縮要請が出された。業務用のウイスキー・スピリッツ、リキュールの需要のさらなる落ち込みは避けられそうにない。一方で、外出を控えて自宅で過ごす「巣ごもり消費」により家庭用の需要は増えそう。前例のない危機対応の中、酒類各社は事業計画の見直しを迫られている。(岡朋弘)
●酒類各社、事業計画見直しへ
新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるため、7日に国が7都府県を対象とした緊急事態宣言を発令し国民に外出自粛を徹底するよう強く呼び掛けた。これを受けて、都が10日に休業実施を要請する対象施設を発表。キャバレーやナイトクラブ、バーなどが対象となった。要請は11日午前0時から5月6日まで続く。居酒屋を含む飲食店は休業要請の対象から外れたが、営業時間を午前5時から午後8時までとして、酒類の提供も午後7時までとするよう要請されている。
10日には、都の発表を皮切りに神奈川・埼玉も休業を要請すると表明した。
外出自粛の広がりで料飲店の経営に大きな影響が出ている中、国税庁は料飲店の資金確保を図る目的で、料飲店が持ち帰り用に在庫酒類を販売できるようにするため新たに「期限付酒類小売業免許」を付与する取組みを始めた。
人との接触を減らす行動が求められる中、酒類各社の営業員が料飲店に直接訪問することが難しくなっている。営業活動が制約される中、各社は料飲店とのコミュニケーションを絶やさないように努めている。
2月末までの輸入洋酒市場は新型コロナの影響が見られなかった。だが、3月上旬からホテルの宴会や結婚式、送別会などが相次ぎキャンセルとなるなどして業務用中心に影響が大きく出始めた。
新型コロナの感染が世界的に広がる中、輸入洋酒の国内物流については3月末時点では、大きな問題は出ていない様子。また当初夏に予定されていた東京五輪の対策で、多くのインポーターは五輪期間中の発注を前倒ししていた。それにより、例年より国内在庫量が多く、5、6月までの商品供給に問題はないと見ている流通関係者が多い。
だが、商品の海上輸送に使うコンテナが世界的に不足し、海外からの輸入が遅延する懸念がある。海外産ウイスキーなどはEU域や中国周辺の物流の混乱が広がれば影響が大きくなりそう。
世界的に新型コロナの影響が長期化すれば、今夏にかけ一部商品の物流に遅れが生じる可能性があると流通関係者は指摘。また、日本国内で感染が広がり、物流センターの稼働に影響が出ないか懸念を示す声もある。
外出自粛の広がりにより、業務用を中心に展開していた商品の販売計画の見直しの検討に入る企業も見られる。業務用の不振が鮮明となる中、自宅で過ごす時間が増えたことで、家庭用中心の商品には追い風となっているもよう。酒DSやSM、ECの需要が高まっている。
家庭用向け販促を計画していた企業も対応に追われている。商品に付ける中国製景品の準備が遅延したり、6月21日の父の日に向けた消費者キャンペーンの実施や上期に投下する予定だったTVCMの時期を見直す動きもある。父の日や年末の最盛期までに新型コロナが終息するのか見通しが立たない状況。
感染の広がりが酒類の消費マインドの低下を招き、酒類業界は08年のリーマン・ショックや11年の東日本大震災を上回るかつてない大きな苦境に立たされそうだ。
輸入ウイスキーの19年の課税数量は、約2万9000klと前年から12.7%増と国産ウイスキー(前年比8%増)の伸び率を上回った。市場全体では、20年2月までは好調に拡大していたもよう。3月以降は新型コロナ拡大による外食の落ち込みの影響を受けており、今後の動向が注視される。
これまでの市場では国産ウイスキーの一部プレミアム品が原酒不足を背景に品薄が続く中、高まるウイスキー需要を輸入品で取り込もうとする動きが目立つ。また、ウイスキーの炭酸割り「ハイボール」を切り口に、ウイスキーに興味・関心を持つ消費者が増えているようだ。ハイボールが食中酒として浸透する中で、さまざまなウイスキーを飲用する消費者が増え裾野が広がっている。