スーパー業界2020年展望 増税・還元支援は全国規模で業界再編促すインパクト

キャッシュレス比率の上昇でレジ業務の効率化は必須に

キャッシュレス比率の上昇でレジ業務の効率化は必須に

2019年は全国の食品スーパーで経営体制を見直す動きが広がった。方向性は大きく二つ。一つは政府のキャッシュレス・ポイント還元事業に合わせて減資する企業が増えたことだ。多くの経営判断が示したように、政府資金による5%還元支援は、減資を伴うとしても無視できないものだった。そのインパクトはキャッシュレス決済比率の上昇を生み、中小だけでなく大手チェーンにも波及している。一方、目前の還元メリットよりも先を見据え、他社との統合を選ぶ経営判断も見られた。2020年代のスタートを迎え、企業戦略の視点はいっそう長期的な展望に向けられるはずで、再編の機運は一段と高まりそうだ。

キャッシュレス比率は50%超へ

2018年10月にイオンはグループのエリア別再編やフジとの資本業務提携を発表、その後2019年を通じて大手チェーンによる地域スーパーの系列化が進んだ。主なところではアークスが宮城県の伊藤チェーンを傘下に加え、バローホールディングスのタチヤは千葉の「てらお食品」を子会社化、イズミは香川のマルヨシセンターを持分法適用会社にした。

イオングループの再編では、2019年末までに中四国でマックスバリュ西日本、東海中部でマックスバリュ東海が新体制をスタートさせた。2020年3月にはイオン北海道とマックスバリュ北海道の合併が確定したほか、近畿のダイエーと光洋、東北のマックスバリュ東北とイオンリテール東北カンパニーの統合も予定している。九州では新設する持ち株会社がイオン九州、マックスバリュ九州、イオンストア九州を束ねる体制を調整中だ。

キャッシュレス比率の上昇でレジ業務の効率化は必須に

再編は地域大手の主導だけではない。エコスが埼玉の与野フードセンターを子会社化するなど、さまざまな規模で進行している。各社を再編に向かわせる圧力は、人口減と高齢化による市場縮小、異業種との競合激化が主な要因だ。厳しい経営環境の見通しを背景に、後継者の問題などが最終決断を促す。

既に市場縮小は将来の不安ではなく、足元の客数減として顕在化している。2019年度上期の業績を見ると、既存店の売上げが前年をクリアしても、客数は下回っている場合がほとんどだ。地方では人口減が明らかで、都市部では異業種も含めたオーバーストアの環境が客数に響いている。

6月まで続くキャッシュレス・ポイント還元が、政府の意向通り中小企業の支援策として評価されるかはまだ分からない。売上げ増に一定の効果は出ているものの、7月以降の販促原資や手数料率の問題がある。

ただ、この施策がキャッシュレス化を促進したきっかけとして振り返られることは間違いない。中小チェーンにキャッシュレス決済ツールが広がっただけでなく、対抗する大手にも一気にスマートフォン決済が浸透した。QRコードなどを使う各種スマホ決済の比率はまだ数%だとしても、以前からあるクレジット決済や自社電子マネーなどを合わせたキャッシュレス比率は急速に高まっている。

還元事業がスタートした昨年10月を直前の9月と比較すると、スーパーでは総じてキャッシュレス比率が数ポイント上昇している。政府の還元対象となる中小はもちろん、対抗策を講じた大手チェーンも顕著に上昇した。

マルエツは、自社クレジットカードの刷新や電子マネー「ワオン」など、増税直前に決済の体制を再構築した。前期のキャッシュレス比率が28%だったのに対し、10月は35%ほどにアップしたという。ヨークベニマルのキャッシュレス比率は、上期時点で約53%とすでに高かったが、10月には57%とさらに上昇した。

スーパーの場合、政府が目標とするキャッシュレス比率40%どころか、早期に50%に達すると見ている経営者は多い。

人口減に加えキャッシュレス対応などの変化の中で進化を問われる食品スーパー業態

キャッシュレス比率の上昇で課題となるのは、手数料による収益の圧迫だ。自社独自の電子マネーなど料率を抑える手段はあるものの、決済ツールの選択肢は消費者それぞれで多様化しているし、構成比が50%ともなれば、1%を切る料率でも軽い負担ではない。

手数料の負担を吸収する方法として、レジ業務の効率化は避けられない。現金の取り扱いを減らすことによるコスト削減は当然で、セルフレジの活用、さらには小型端末ないし顧客のスマホを使ったセルフスキャンなど、精算のセルフサービス化が求められそうだ。

つまりキャッシュレス化による生産性の向上は、決済ツールの導入だけで実現できるものではなく、相当なスケールの新たな投資が必要になる。キャッシュレス化の促進が中小スーパーの救済にはならないと指摘される理由の一つだ。

昨年11月にはマイナンバーカードに基づくポイント還元制度の導入案が浮上した。詳細は未定の部分も多いが、予算は約2500億円とキャッシュレス還元とも遜色ない規模で、還元率は25%と高い。ただし1人5000円分までの上限付きで、消費喚起の規模も1人当たりにすると支出額と還元ポイントを含めて2万5000円にとどまる。この制度に参加するためにマイナンバーカードを用意する生活者がどの程度いるか、効果への懸念も出ている。

災害・環境対策も進展

昨年も自然災害が多発し、各地でチェーンストアの運営に影響を及ぼした。10月の台風19号では首都圏でもほとんどのチェーンが接近に合わせて休業を選択した。従業員の安全確保という当日の判断は計画通りに進められたものの、台風通過後の河川氾濫による浸水被害や、それに起因するサプライチェーンの乱れなど、予期しない事態も発生、今後に課題を残した。

カスミは9月の台風15号で10店が停電となり、続く19号では複数の店舗が浸水した。この経験を踏まえ、11月の新店では水や非常用に成り得る食品の店頭在庫を3倍以上に増やした。エリアの基幹となる店舗はさらに在庫を持ち、メーカーや物流センターとの連携強化も進める。来期は顧客にも非常用ストックを提案するなど、チェーンの役割や営業施策としても災害対策に取り組む。

7月の全国的な冷夏は災害ではないものの、各社の業績に大きなダメージを残した。一転して8月は猛暑、9月以降は前述の台風などで長雨が続き、天候がチェーンの売上げを左右した。極端な気象への不安は、温暖化をはじめさまざまな環境問題への関心を世界的に高めている。

海洋保全の問題に端を発し、レジ袋は今年7月にも有料配布が義務化される見通しだ。スーパーは既に有料化しているチェーンも多く、この取組みには総じて賛同している。ただ、購入客の不便を解消する工夫も必要になるだろう。有料義務化に合わせて盛り上がるはずのマイバッグ運動も各社のロイヤルティーを高める手段になりうる。

安さより独自性こそがプライベートブランドの真価

4月には新食品表示法に完全移行となる。小売のプライベートブランド(自主企画)商品に関しては、これまで製造者を表記しなかったチェーンでもメーカー名を確認できるようになるが、そこに以前ほどの意味はない。

プライベートブランドがナショナルブランドの廉価版を志向していた時代であれば、メーカー名を明記することが品質の担保になったかもしれない。今もプライベートブランドの役割として低価格は重要だが、安さだけを目指してもチェーンの競争力につながらないことがはっきりしている。

食品市場の競合相手は同業のスーパーだけではない。収益構造の異なるドラッグストアやディスカウントストアと対峙すれば、いかに努力しようとも低価格プライベートブランドの限界は明らかだ。そこでプライベートブランドの戦略は、チェーンのオリジナリティーを創出することに重心を移している。

「この店でしか買えない」商品を開発することが最重要で、価格は価値とのバランス、「値頃感」で決めるケースが増えている。健康志向、環境配慮、情緒的な豊かさ、上質など
プライベートブランドのコンセプトは多様化しており、商品パッケージも独自の世界観を表現するものが増えている。位置付けとしては価格訴求のプライベートブランドであっても、フレーバーに特徴を持たせるなど差別化を工夫している場合もある。

プライベートブランド開発でチェーンの独自性を発揮

チェーンの枠を超えてプライベートブランドを共有化する動きも一般化している。セブン&アイ・ホールディングスの「セブンプレミアム」をイズミが販売するようになり、ライフコーポレーションとヤオコーは、競合する商圏も一部にありながら「スターセレクト」を共同開発している。

業界団体や経営トップ同士のつながりで、オリジナル商品を相互活用するケースもある。反対にCGCグループでは、競合同士が商品を共有する一方、独自プライベートブランドや留め型品で差別化を図ることがある。独自性こそがプライベートブランドの真価であり、メーカーとの協業は独自性の追求がテーマになっている。

ネットスーパーは、スーパーの発展領域として可能性を秘めつつ、いまだに採算の難しい事業として課題を抱えている。セブン&アイHDとアスクルは、EC(電子商取引)サイト「ロハコ」で検証を進めてきた「IYフレッシュ」のサービスを11月末で終了した。ネットスーパーの実施店を着実に増やしている企業でも、収益モデルを確立したわけではない。

そうした状況でも、新たな事業提携は続いている。2019年9月にはライフコーポレーションがアマゾンの生鮮宅配サービス「プライムナウ」に参加した。ライフコーポレーションは、自前の仕組みで首都圏・近畿圏の約60店でサービスを展開しており、スーパーによるネットスーパーとしては先頭を走る。その同社がEC大手のアマゾンと組み、さらなる可能性を探っている。これまでは計画以上の実績を上げているという。

イオンは、英国でセンター出荷型のネットスーパーを専業とするオカドと提携、新会社を設立してEC戦略の再構築に着手する。2023年には首都圏でネットスーパー専用センターを開設する。

ネットを活用したリアル店舗の次世代モデルとして、2019年はセブン&アイHDの実験店「コンフォートマーケット」が話題となった。スマホアプリによる商品検索や、購入した商品を店頭のロッカーで受け取るサービスなど斬新な試みが見られた。

同店に限らず、スマホから店舗への流れを作り、顧客とのつながりを深めることはスーパーにとって重要テーマだ。今年、各社アプリの機能強化がどこまで進むか注目される。

※日本食糧新聞の2020年1月3日号の「新春特集」から一部抜粋しました。

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