製・配・販連携協議会、リードタイム延長問題に3層連携の指針示す

ニュース 卸・商社 2020.08.07 12093号 01面

 昨年来、食品業界で急浮上してきたメーカーのリードタイム延長問題に関し、製配販3層の意見調整で新たな方向性が導き出された。消費財メーカーや流通業で構成される「製・配・販連携協議会」はこのほど、この問題に関する基本的な考え方や取り組み課題を整理した報告書を公開。リードタイムの延長は持続可能な物流構築への取り組みであり、サプライチェーン全体で推進すべき問題と前提を定めた上で、特売・新商品、商品回転に応じたリードタイム調整や定番品発注締め時間の調整のあり方など、3層連携で取り組むべき具体施策も示した。これまで卸の業務負荷が一方的に増大するなど不公平感も生じていたが、新指針の整備に基づく事態の前進が期待される。(篠田博一)

 ●商品別時間調整など新たな取り組み例も

 深刻な物流危機を背景にメーカーのリードタイム変更は酒類や食品、菓子業界などで急速に広がり、従来の加工食品物流のあり方に大きな変革を突き付けている。これを受け、「製・配・販連携協議会」の「ロジスティクス最適化ワーキンググループ(WG)」は19年度の検討テーマにリードタイム延長を掲げ、この問題への対応に特化した「加工食品小WG」を設置。

 同WGは流通経済研究所と経済産業省を事務局に、アサヒビールやキユーピー、三菱食品、国分グループ本社、イトーヨーカ堂、ヤオコーなど有力企業11社で構成され、年初から3回にわたってリードタイム延長に関わる課題や効果、実効策などの認識共有へ向けた議論を重ねてきた。

 同WGがまとめた活動報告書(「加工食品流通のリードタイム延長・基本的な考え方と取組の方向性」)によると、リードタイム延長の基本的な考え方を「持続可能な物流の構築に向けた取組みと位置づけ、リードタイム延長がもたらす効果と課題を理解した上で、物流業務の全体調整、効率化・省力化施策を併せて導入しつつ、製・配・販が連携・協力しサプライチェーン全体として検討・推進することが望ましい」と定義。

 この考え方に基づき、3層で推進すべき取り組みの実例として、(1)特売・新商品のリードタイム調整(2)商品回転に応じたリードタイム調整(3)定番商品の発注締め時間の調整(4)配送時間の分散化、納品時間枠の調整(5)パレタイズ納品、予約受付システム、ASN(事前出荷データ)による検品レスの活用拡大–を掲げた。

 ASN活用や配送頻度の最適化はすでに日本加工食品卸協会(日食協)なども業界へ要望した事例があるが、特売・定番といった商品別のリードタイム調整まで踏み込んで整理したのは画期的な試みといえるだろう。

 例えば、特売・新商品は数量変動が激しく予測が難しいことから、現状では多くの卸が小売業の発注に基づく確定数量をメーカーに発注する方式だ。しかし、リードタイムが伸びれば、卸は見込み発注へ変更せざるを得ず、商品供給に大きな誤差が生ずるリスクがある。このため特売・新商品に関してはメーカー・卸同様、卸・小売業間でもリードタイムを延長し、確定発注方式を継続するための調整を行うことが望ましいとしている。

 一方、定番商品の発注締め時間に関しては、現行では3層ともに午前11時ごろとし、受注分を翌日納品するスケジュールが一般的。3層の発注締めが同じ時間帯にもかかわらず、メーカーが卸倉庫への配送を翌々日に切り替えた場合、卸の在庫管理が破綻する危険性がある。

 そこで小売業→卸の午前発注締めを前日夜に前倒しし、卸→メーカーの午前を午後に後倒しする調整例を提示。卸は午前中に小売業からの発注に基づく在庫引当てなど一連の業務を完了させ、その結果を踏まえて午後にメーカー発注できれば、リードタイムが伸びても在庫管理精度を維持できる可能性がある。

 今回、リードタイム延長問題の前進へひとつの方向性が示された格好だが、食品物流は事業者や流通形態も多岐にわたるため、今後は企業個々の事情に応じて実現へ向けた検討を継続的に行うことが重要な課題となる。そのためにも業界内の先行・成功事例(知見や定量的効果など)を共有し、各社で活用していくことが有効としている。

 ◆解説:発端はトラック協会の要望 直近も卸のコスト上昇要因に

 リードタイム延長問題は、昨年7月に日本トラック協会が食品業界へ提出した意見書によって急速に表面化。受注翌日納品を商慣習とする食品流通はドライバーの夜間運転や深夜の仕分け作業などの過酷な労働環境を前提とし、物流業界の深刻な人手不足要因になっていると指摘。荷主への納品に中1日の余裕を持たせ、物流従事者の労働環境を改善するよう協力を求めた。

 折しも車両確保に苦慮する食品メーカーが翌々日納品へ切り替える動きが広がり、卸段階の業務負荷を増大させる懸念が発生。現行のサプライチェーンで小売業の受け入れ対応が進まないまま川上のリードタイムのみ延長されれば、川中へ欠品リスクや在庫負担増、荷役の集中、倉庫スペースの増床といったコスト圧力が一方的に集中するからだ。

 事態を重く見た日食協は昨年9月、「リードタイムの延長は社会的にも理解すべき試みだが、製配だけでなく3層全体で考える問題」とメーカー・小売業界へ協力を求める要望書を提出。これら一連の動きが「製・配・販連携協議会」のWG設置へつながった。

 日食協の時岡肯平専務理事は「この問題の根幹は持続可能な物流をいかに構築するかであり、3層連携によるひとつの方向性が出たことは非常に意義がある」と評価しつつ、「今年は新型コロナ影響の対応に食品流通が忙殺され、議論の余裕がなかった。一息つけば卸のコストは相当上がっており、その要因のひとつがリードタイムの延長だ。内食需要が急増する中、在庫負担やコントロールが効かないまま無理な供給が続いた」と直近も大きな影響が出ていると指摘し、早期の是正へ向けた継続的な取組みの必要性を強調する。(篠田博一)

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