トップインタビュー:国際ホテルレストラン専門学校校長・広瀬喜久子さん
‐‐急激な時代変化を背景に、外食産業の人材ニーズも高度化の一途をたどっているようです。現状をどのように捉えていますか。またどのような人材教育を目指しているのですか。
広瀬 飲食業の産業化が叫ばれたのが昭和45年ごろ。それを節目に飲食業界は外食産業として認知され、と同時に業界内でも各方面でさまざまな構造改革がなされ、いまや三〇兆円規模を誇る産業に急成長しています。
こうした飲食業の産業化、構造改革を踏まえれば、従来のように料理人を職人として捉える時代はすでに終わったと言えるでしょう。
今後の外食産業に向けた人材を育成するためには料理技術はもちろんのこと、それ以外の能力を身に付けさせることが必要だと思います。厨房機器の改良、業務用食材の多様化、流通改革により厨房環境は以前に比べて著しく変化しています。料理人志願者は厨房環境の変化を踏まえたうえでそれを活用した料理ノウハウを学ぶべきなのです。
いわば既存テクニックの応用術ですね。それらの効率化で労力の軽減化を図り余力を他分野で活用する。すなわち商品開発、接客サービス、原価管理などのマネージメント分野に料理人が参画するわけです。そのため、今後の料理人には料理以外の幅広い知識が不可欠となります。
当校では料理人教育にあたり四つのテーマを掲げています。(1)調理技術(2)接客サービス(3)マネージメント(4)PRです。
料理技術だけ身につければ良しとする職人教育を廃し、一店舗すべてをマネジメントできる料理人育成を目指しています。
‐‐外食産業を産業として確立させるためには料理人の意識改革が不可欠です。御校の育成方針は外食産業から高く評価されていると思います。しかし専門学校の短い在学期間でそれだけ多くの知識を習得することは可能なのでしょうか。
広瀬 従来の一年制教育ではおそらく不可能だったでしょう。しかし平成2年に調理師専門学校の二年生教育が許可されたことで実現可能に近づいています。一年間では真の教育はできない、これが私の持論です。だから当校でも制度変更後ただちに二年制を導入しました。
正直いって従来の一年制教育では調理師免許を取得させるのがやっとです。個別教育を実践したくても顔を覚えたときにはもう卒業、といった感じですから。知識、技術習得の門戸が広がる二年制許可はわれわれが待ち望んでいたものなのです。
二年制教育であれば、一年時に調理師免許をとらせ同時に学生の性格をつかむ。そして二年時にその学生の性格を考慮しながら希望に沿ったカリキュラムを作成する、といった個別教育が可能です。また二年制だと校内に先輩と後輩の上下関係が生まれるためいい意味で緊張感が保てます。
さらに来年からは三年制のコースを新設します。マネジメントができる調理のプロを養成するフードマネジメント専攻科と、栄養計算しながらおいしい料理を作る調理のプロを養成する健康栄養調理専攻科です。
当校二年制学科と短大(栄養学系)の卒業者を対象に調理のスペシャリストを養成します。
‐‐いずれは大学構想もあるのですか。
広瀬 それはまだ言えません。しかし外食産業は三〇兆円の市場規模を誇るのに、それを専門的に学ぶ機関がいまだ日本にはありません。ないのが不思議です。フードサービス専門の大学ができてもいいはずだと思います。
‐‐ところで飲食店の現場サイドからは、即戦力にならなかったり、すぐに止めてしまう、といったケースが問題視されています。これらについていかがお考えですか。
広瀬 同感です。しかしそれは時代のせいであって子供たちに責任はありません。裕福な環境に育ち、親に叱られたこともないという子も多いのですから。昔のようなハングリー精神を期待してはいけないのです。
だからといって学校がそれに甘んじているわけではありません。職業人を社会に送り出す以上、技術うんぬんよりも、社会の荒波を乗り切るだけの抵抗力を植え付けることが先決です。当校でもそうした時代背景を認識し精神教育に注力しています。
‐‐現代っ子を育むポイントは何ですか。
広瀬 知識、技術の以前に“社会に対する心構え”を持たせることです。社会の厳しさに負けない精神力を植え付けることです。そのためには本音で厳しく接する以外にありません。技術や知識は論理的に教えられるが、心構えの指導は格好ばかりつけても駄目なのです。
理想教育の大学と違って、専門学校は現場理論で教育しなければなりません。現場がこうだから君たちはこうしなければいけない、と本音で迫らなければ本当の意味での職業人教育はできないのです。
理想論よりも現実論、建て前よりも本音をズバリといった方が本人のためになります。
‐‐その成果は現れておりますか。
広瀬 就職後の定着率の高さには定評があります。就職活動は一般的に求人票から学生本人が選ぶパターンが多いようですが、当校では本人の希望、性格を踏まえたうえで講師陣がマンツーマンで就職活動をバックアップします。
厳しさをモットーに、現実論と本音による教育を徹底していますので就職後にギャップを感じて挫折することもないようです。
‐‐二一世紀の外食産業を担う料理人育成を期待します。ありがとうございました。
北海道・下川町生まれ。三井銅山の町のため東京との交流深く、都会志向の風土に育つ。
昭和45年、フードビジネスを担う人材育成のため、誠心調理師専門学校を開校。平成元年には校名を東京誠心調理師専門学校に改める。同時に国際ホテルレストラン専門学校を開校、即戦力となる人材育成を図る。
最近では、マネジメントができる調理のプロ養成のフードサービスマネジメント専攻科、健康栄養調理専攻科を設けたり、フードコーディネイター協会を旗振り役で立ち上げたり‐‐。
忙しい中での休日は、ストレス解消になる水泳、好きな料理を楽しむ。
(文責・岡安)