トップインタビュー 壱番屋・宗次徳二代表取締役

1997.02.03 120号 3面

‐‐低価格路線でこの厳しい状況を乗り越えようとするチェーンが多いのですが。

宗次 確かにマクドナルドさんやすかいらーくさんは成功し、そうすることが一番簡単な方法かもしれません。しかしうちは、昭和53年の創業以来一度もディスカウントを考えたことはないんです。反対に、バブル絶頂期に客単価を上げる策も講じませんでした。景気にふり回されず、常に壱番屋なりのスタンスを貫いてきたわけです。

最初の一〇〇店舗を達成するまでに一一年間かかりました。実に遅々たるペースですけど、客の口コミだけでジワジワと店舗を伸ばしてきたんです。途中爆発的なカレーブームがあったわけでもないし、バブルに浮かれて欲を出すこともなく、ただ淡々と自分たちのやり方を忠実に守ってきただけですね。

‐‐今までに、他の業態を手がけようと思ったことは。

宗次 最初のころはステーキハウスを考えたこともありましたが一店舗も出さないでやめました。単業態でエリアを広げることに方針を変えたんです。今となってみればそれが良かったんでしょう。たいそうな知恵や斬新なアイデアや企画力がなかったことが、功を奏したんですね、きっと(笑い)。

‐‐ハデな広告宣伝もせずディスカウントもしないで既存店ベース一〇五%というのは立派です。

宗次 カレーはいわば国民食で地域的な嗜好の偏りはありません。それに、“壱番屋のカレー”が食べたいというこだわりを持って来店するお客さんを対象にしていますから、ソフト面もハード面もすべて全国同一でいいというありがたい商売です。三万人に一店舗と考えると、全国四〇〇〇店舗が展開できる計算。ライバル社もいないので惑わされることもないし、このまま初心を貫いてゆくのが私のポリシーですね。

確かにまわりを見ると皆さん苦労していますが、うちとしては金利が下がり賃貸固定費も下がって、食材状況は良好。さらに有能な人材も集まりやすいし、すべて追い風となっているんです。コツコツとマイペースでやってゆきます。

‐‐そんな不動の地位を築きあげたポイントは何でしょうか。

宗次 QSCはすべて大切ですが、特にサービスには力を注いでいます。オーナーが店に立ち、客と接して初めて良いサービスができるという考えに基づき、企業がFCを希望してもすべてお断りしてきました。

メニューは現在二八アイテム。トッピングにサラダといろいろ選ぶ楽しさがあります。お客さんから寄せられる要望は、新メニューに関する期待が大きいですね。ただ私としては、ごく普通の日常の中で気軽に利用してもらいたいので、客単価を上げることよりもビーフ、ポーク、ロースカツといった単品メニューが数多く出ることのほうがうれしいですけど。

‐‐カレーといえばコメにも気を使っていると思いますが。

宗次 そうですね。人気ブランドの高価格米ということではなく、「炊きたて」をモットーにしています。しかし、コメ不足の折にやむを得ず外国米を使いましたが意外に客離れの現象はなかったですね。コメ以外のもので納得していただける要素があるのかもしれません。大腸菌O157問題が起きたときでも、熱を入れる商材を取り扱っていることもあるのでしょうが、数字は若干よかったくらいです。

今、完全な独占業態。いつなんどきどこが参入してきてもおかしくない状況ですが、四、五年前からそういうことにあまりとらわれなくなりましたね。カレーチェーンとして信用度が定着し、全国どこで展開してもその日から繁盛店になれる自信を持っていますから。これからも今のペースを守り続け、全国へ一店でも多く展開してゆきたいですね。

‐‐オーナーの育成は。

宗次 本部の役割はあくまでもオーナーが利益を上げるようフォローすること。QSCはもちろん経営実務に至るまで詳細なマニュアルを備えています。そして、繁盛店になるためのあらゆる情報を提供しています。いってみればそれがフランチャイズのメリットですからね。

店舗展開も柔軟に対応できるように六~七坪から八〇坪と店舗面積の幅を広く設け、重装備でなくお金のかからないシンプルな店づくりを基本としています。意欲次第でいくらでも多店舗化できますよ。現に一人のオーナーが一五店舗持っているケースもあるほどです。それから、カレー食材や消耗品などは自社取引なので、特にロイヤルティー制度は設けていません。

‐‐では、オーナーに期待することは。

宗次 そうですね、まず打算的では長続きしません。基本的には「まじめ」にやり続けることが成功につながると思います。あと営業時間をしっかり守ること、商品は一品たりともきらさないこと。この二点ですね。やはり客の立場になると、これだけは守ってほしいことだと思いますから。商品が切れてしまった店に、うちの女子社員が新幹線で届けたという例もあるほどです。

現在すでに五十数店舗が出店予定になっていて、思惑通り順調に数字を伸ばしています。西暦二〇〇〇年に一〇〇〇店舗達成実現もすぐそこまで。これからも地に足をつけ着実に歩んでゆきたいと考えています。

‐‐貴重なお話、どうもありがとうございました。

昭和23年、石川県で生まれる。愛知県立小牧高校を卒業後、八洲開発(株)へ入社。それがきっかけになり昭和47年に宅地建物取引業を開業、さらに二年後には名古屋市西区に喫茶店を開店した。やがて昭和53年、カレーハウスCoCo壱番屋を創業。当初から地道な経営姿勢を貫き、現在の地位を築く。

「ニコニコ・キビキビ・ハキハキ」を社是とし、社員には高い数字を上げることよりもお客さんに対しての礼儀をつくすことを教育する。社屋のまわりにたくさんの花壇を置き、社員が行き交う来客者にあいさつをする光景は、同氏の行き方そのものを物語っている。著書に「成功するカレーハウス驚異の社長製造法」「繁盛させたければお客様の声を聞け!」(旭屋出版)。

(文責・片山)

■所在地〓愛知県一宮市丹陽町三ツ井一五八五‐一Tel0586・76・7545(代表)■創業〓昭和53年■現在の店舗数〓四一四店舗(CoCo壱番屋三七八店舗、FSココイチ三六店舗)■営業拠点〓札幌、仙台、東京、埼玉、名古屋、京都、岡山、福岡の八拠点■CoCo壱番屋、一店舗の平均月商は約六四〇万円、FSココイチは約三六〇万円■昨年は(株)壱番屋店舗運営、(株)壱番屋オリジナルフーズ、(株)イエロー企画建築、(株)ベストワン、(株)ファーストクリエーションのグループ五社を吸収合併、上場に向け企業体質、組織機構の拡大強化を図る。九六年売上げ(本部)はおよそ二五〇億円。

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