地中海料理の人気 豪快・野趣・素朴な味
およそ二〇年前、アメリカで地中海料理がブームとなった。地中海を英語でいえばメディタレリアンとなる。あまり長いので省略してメディ・メニューと呼び一世を風びした。この波が日本にも押し寄せてイタメシブームを呼んだ。
アメリカ料理界のファッション性の移り変わりは早く、このメディ・メニューに続き‐
・七八~八三年=ケイジャン(クリオール)
・八三~八五年=テックス・メックス(テキサスとメキシコの味のミックス)
・八五~八八年=カリフォルニア・クィシーン(カリフォルニア州の産品利用の人気化)
・八八~九二年=ニューイングランドスタイル(ニューイングランド州の味を、欧州化)
・九三~九四年=フロリビアン(フロリダとカリブ海の味のミックス)
・九五~九七年=サウスウエスタン(南西部の味のリバイバル)
・九七~九八年=メディ・メニュー
と移り、その時代、時代の変化を受けて変化を続けている。
地中海料理はリバイバルな味として再登場した。前回のブームはスペイン、南フランス、イタリアと局地的であったが、今回はワイド化して地中海沿岸諸国の味を包括する。すなわちトルコ、イスラエルなどの中近東、エジプト、アルジェリア、モロッコほかを指す。
この地中海は極めて特徴的な気候で、雨が冬季だけに集中し、夏季は雨が少なく晴天が続き日差しはかなり強い。
厳冬といっても西部地中海で一三~一四度C、東部地中海で一五~一七度Cと暖かい。夏場は地域の差が少なくて二五~二六度Cでカラッとしてしのぎやすい。パリやロンドンと比べて日照時間は三~四割長く、さんさんとあふれる陽光に恵まれている。
この豊かな大地は数多くのスパイスや →→ ハーブの原産地であり、タイム、セージ、サフラン、フェンネル、ローズマリー、エストラゴン、ケイパー、オゼイユ、バジリコ、ベイリーフなどを生んだ。
このあふれる陽光で育った果物や野菜は太陽の味がするといわれ、果物ではレモン、オレンジ、ブドウ、サクランボ、桃など。野菜ではトマト、ニンニク、オリーブ、アーティチョーク、ズッキーニ、ナス、ピーマン、ポロネギなどとなる。
果物はやや大ぶりで甘みが強い。日本の野菜と比べて、トマトは燃えるような深紅で酸味は少ない。ナスはごろんと丸くて大きく柔らかい。特にクルジェットと呼ぶ細長いカボチャに似た甘みと粘りの強い野菜は日本ではみられない。
魚介類も新鮮で捕れたて。しかも種類の多いのに驚かされる。タイ、ヒラメ、スズキ、オヒョウ、ホウボウ、イワシ、サバ、イカ、タコ、ムール貝、ホタテ貝、カキ、アワビ、ハマグリ、エビ、カニほか。
また、太陽は柔らかい緑の草を育て、さらに牧草は質の良い牛乳と、クセのない柔らかい子牛肉を与えてくれた。これらによって作られる地中海料理は、すべて食材が異なるのである。
特性をあげると‐‐
(1)豊富な食材に恵まれていること。
地中海沿岸国の共通した特産物は、オリーブとオリーブ油、ニンニク、トマトがあげられる。これらがベースとなって独特な料理を作り上げている。
(2)鮮度の極めて高いこと。
魚、貝、野菜、果物など、いずれも鮮度が高い。複雑に入り込んだ海岸線を持つ地中海から、さまざまな魚が捕れ直ちに入荷。海鮮料理の発達も当然といえよう。
(3)手の込んだ料理法を取らない。
素材の持ち味を生かすことが第一で、複雑な味を作らない。バターの代わりにオリーブ油が、生クリームなども多用しない。洗練さはないが、自然の味にあふれ、さっぱりとした味でヘルシーである。
(4)価格が安い。
フォアグラ、トリュフ、キャビアなど高級食材を使用せず、ワインなどの煮込みもない。安い原材料のため価格も安上がりとなる。
地中海料理は高鮮度、ヘルシー、安上がりと現代の時流に合った味で、日本人の口にも良く合っているともいえよう。
各国にみる代表メニューをみると‐‐
●スペイン=パエジャ(バレンシア風炊き込みご飯)、ソパ・デ・アホ(ニンニクスープ)、ガスパチョ(トマト冷スープ)、サルスエラ・デ・マリスコ(各種魚介の煮込み)
●南仏料理=ラタトイユ(ニース風野菜煮込み)、ブイヤベース(魚の煮込みスープ)、ニース風サラダ(サラダ・ニソワーズ)、サルタニャード(小魚のオリーブ油焼き)
●イタリア=カルピオーネ・ディ・ペイシュ(小魚のマリネ)、チーマ・ディ・ビッテロ(子牛肉の詰め物)、リゾット・アルフンギ(キノコのリゾット)、アランチーニ、ディ・リソ(おコメのコロッケ)
●トルコ=シシカバブ(マトンの串焼き)、ドネルカバブ(マトンの大串焼き)、ドルマ(野菜の詰め物)、ビベル(トマトとピーマンの詰め物)、ハトリジャン(ナスの詰め物)
●モロッコ=タジン(肉・魚のシチュー)、カバブ(マトン、ラム、牛肉の串焼き)、ハリフ(豆スープ)、サラド・マロケース(トマト、ピーマンのサラダ)、クスクス(粒状小麦粉の蒸し煮‐四〇種もある)