低価格時代の外食・飲食店 イタリアレストラン「イタリアントマト」

1997.04.07 124号 5面

イタリアントマトは会社設立が一九八七年4月。(株)ワールドグロリーが事業主体だが、会社設立以前の八二年4月に東京・渋谷にFC第一号店を出店した。

FC展開はハイテンポで推移し、二年後の八四年には一〇〇店舗を突破、八五年には一三五店を展開した。しかし、八六年には急速なFC展開がたたって減速、経営も不振の兆しを見せ始めた。

このため、八六年1月、大手ゲーム機器メーカーのナムコ(本社=東京)に買収され、系列の飲食事業として現在に至っている。

今年2月末現在の出店数は直営四三店、FC一七七店を合わせて計二二〇店。店舗展開は東京エリアを中心にして、北海道から九州まで全国に及んでおり、“イタトマ”の愛称でストアイメージは広く浸透している。

主力ターゲットは二〇代の若い女性層。それに対してサイゼリヤは、すべての客層を対象とするレストランビジネスの展開だが、本来の食文化には老若男女の区分けはないとするサイゼリヤのマーケティングとは好対照だ。

日本のレストランビジネスは、男女や年齢などで客層を区分することが顕著だが、欧米では店の雰囲気やメニュー、価格で客が気に入った店を選択するということが一般的で、若い女性だけが、カップルだけが利用するという店(業態)はない。

パリやロンドンのハンバーガーショップでも、品のいいおじさん、おばさんの食事風景を目撃する。日本の飲食ビジネスのように、ハンバーガーイコールヤング(ファミリー)層の利用という図式にはない。

日本の消費文化は、飲食でも物販でも若い女性を主力ターゲットに、主婦、ファミリー層、ヤングマンなどというくくりになる。

このくくりでいけば、イタリアントマトは、おじさん、おばさんは入りづらいし男性一人で利用するのも気恥ずかしい雰囲気がある。

結論的に言えば、日本の食文化の未成熟さ、日本人の閉鎖性によるものだが、料理を提供する側も食する側も、オープンマインドになって食を楽しむという状況にはなっていないのだ。

客層のくくりも、料理の提供も“売れ筋”だけの追求で、ビジネス(儲け)オンリーの考え方、消費者も外食行動はまだまだ“ハレ”という意識にあるのだ。

イタトマの市場戦略とチェーン戦略は、最近になってやや修正されてきているものの、その基本ポリシーは「愛すること」「歌うこと」「食すること」、そして「スポーツすること」のキーワードに集約される。若い女性層の集客を意識した感性と、情緒をベースにした市場戦略にあるのだ。

サイゼリヤのロジック志向の企業哲学とは対極にある。“イタトマ”といえば、イタリア料理の店といっても、スパゲティとホームメードケーキを強くイメージする。

店の出店形態は、レストランタイプ「イタリアン・トマト」(三五~五〇坪ビルイン型、イタリア料理とケーキ、客層一八~二四歳の若い女性)、カフェタイプ「イタリアン・トマト・カフェ」(フルサービスとセルフサービスの二形態、一〇~三〇坪、ケーキとドリンクの提供、若い女性を主体に学生、OL、ビジネスマン対象)、ケーキショップタイプ「イタリアン・トマト・ケーキショップ」(三~五坪、ホームメードケーキの販売、女性客主体)、セルフ方式のカフェ「イタリアン・トマト・カフェジュニア」(一〇~一〇〇坪、ホームメードケーキ、パスタ、サンドイッチ、コーヒー、紅茶、ソフトドリンク、アルコールの提供、二〇~三〇代の女性客主体)。

大きく分けて四タイプでの出店だが、このほかにも食べ放題寿司ショップやカラオケスタジオなどの展開がある。

業態の多角化で食文化の創造と取り組んでいくという考え方だが、サイゼリヤのオンリーワンの生き方とは、まったく異なる市場戦略にある。

「最近はもう少しオーソドックスにという考えもありまして、従来から前面に出ていたケーキのイメージを後退させて、夜はワインとそれなりの料理が楽しめるトラットリアタイプの出店も展開する計画です。それと、カフェジュニアは市場ニーズが強いとの位置づけで、チェーン(FC)展開を積極化していく方針で、今年は二〇店を出店する予定です」(イタリアントマト取締役社長室長美田真人氏)

トラットリアタイプの店は、モデル店(一号店)を昨年12月、赤坂に出店している。店舗面積四四坪、客席数六四席。

客層はやはり女性客が大半を占めるが、料理内容は今までのイタトマタイプとは異なるグレードの高いものだ。客単価は昼一〇〇〇円、夜四〇〇〇~五〇〇〇円。

カフェジュニアは、キーコーヒーとの共同事業で具体化している飲食ビジネスで、従来の低価格コーヒーチェーンとは異なるヨーロピアンテーストの高級感を売り物にしている。

客単価七〇〇~八〇〇円。三〇坪で月商一〇〇〇万円以上。FC展開(加盟金一〇〇万円、ロイヤルティ三%、開業資金坪一〇〇万円)で、当面の出店計画として二〇〇店を展開する方針にある。

◆会社概要

・企業名/(株)イタリアントマト

・チェーンブランド/「イタリアン・トマト」「イタリアン・トマト・カフェジュニア」ほか

・創業/昭和61年(一九八六年)1月

・会社設立/昭和62年(一九八七年)4月

・本社所在地/東京都港区赤坂九-六-二四(TEL03・3404・2681)

・資本金/四億六二〇〇万円

・取締役会長/中村雅哉

((株)ナムコ社長)

・取締役社長/遠藤勝利

・従業員数/一〇四人(正社員)

・事業内容/レストラン、喫茶のチェーン展開、ホームメードケーキの販売、カラオケビジネス、ほか

・出店数/直営四三店、FC一五七店、計二〇〇店

・売上高/一四二億円(平成7年2月期)

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