トップインタビュー プロントコーポレーション社長・本名正二氏
昭和20年、福島県只見町生まれ、五二歳。慶應義塾大学法学部卒業後、サントリー(株)入社。洋酒営業部、輸入酒開拓課、国際本部を経て、昭和56年、サントリーレストラン・シドニー店取締役支配人に就任。昭和59年帰国、業態開発部に移り、ジガバー、白札屋、膳丸、ショット・バー、プロントを開発。昭和63年、(株)ブレス設立(現プロントコーポレーション)、代表取締役社長に就任、現在に至る。
「プロント」はサントリーと(株)UCCの共同出資で生まれたセルフサービスコーヒーとバーの二毛作チェーン。一店舗に二つの顔を持たせる喫茶店チェーンの業態特化を成功させ、“二毛作”というコンセプトを不動のものとした。昨今、同業他チェーンの出店に拍車がかかるなか、レストラン志向のフードメニュー充実策で、さらなる業態特化を進めている。「プロント」とその業態動向を聞いた。
(文責・岡安)
――生業喫茶店の衰退をしり目にセルフサービスコーヒーチェーンの勢力が年々強まっています。業態の一翼を担う「プロント」では業態の現状をどのように捉えていますか。
本名 一〇年ほど前のコーヒー戦争で「ドトールコーヒー」が独走、一人勝ちし、しばらく市場は落ち着きを見せていたのですが、ここにきて他チェーンの出店意欲が再度高まっているようです。二毛作コンセプトを打ち出した「プロント」と同様に、コーヒーそのものよりもコーヒーショップの役割、将来性を見直す傾向にあるといえます。
グルメコーヒーの「スターバックス」、絵画販売の「カフェ・ド・クリエ」、雰囲気あるオープンカフェ。いずれの業態特化も来店動機を駆り立てるコンセプトの多様化が目立ちます。これらの喫茶店ラッシュで第二次コーヒー戦争が勃発。昨年の小火が導火線になり、今年ついに大戦に突入したといえるでしょう。
――「プロント」でも影響を受けていますか。
本名 既存店の数字に影響はありませんが、新規出店時の陣取り争いが活発化しているのは事実です。陣取り合戦が終わってから本格的な競合が始まるのではないでしょうか。
――大戦後の展開をどのように予測しますか。
本名 三年以内に各チェーンの明暗が分かれるでしょう。その裏付けとして二つの大筋があります。
一つは店舗の飽和化。供給過多で客足が分散します。従って集客数の低下は否めない。
もう一つはコーヒーの存在感が色あせる一方にあること。いまや、ほとんどのFFがコーヒーを一〇〇円台で提供し、ランチタイムに無料かプラス一〇〇円程度でコーヒーをサービスする飲食店も急増しています。いわばコーヒーショップに行かずともコーヒーが飲める環境にあるわけです。
コーヒー一杯の実勢価格が一〇〇円台になると、低価格を売物にしてきたセルフサービスコーヒー店の存在価値、必要性がなくなります。
三年後は、コーヒー以外のセールスポイントで、客単価アップを手中にするチェーンが勝ち残る結果となるでしょう。
――その意味では「プロント」が先取りした二毛作展開は、他チェーンが業態特化するにあたり大変参考になっていると思います。事実、二毛作の新業態は各方面で見られます。そのような状況下、今後「プロント」はどのように業態特化し、他チェーンとの差別化を図って行くのですか。
本名 来店動機を強めるための、食の充実策が第一。焼立てパン、パスタ類など、従来通りの主力アイテムのクオリティーをさらに高めて行く考えです。
バブル時は、自分よりも他人の評価を気にする、いわば他人のものを欲しがる“ブランド志向”が強かったのですが、それ以後の昨今は、自分さえ良ければいい、価格よりも品質、という“自己満足志向”と“本物志向”が強まっています。
奇をてらったメニューや流行に乗じるやり方は受け入れられません。オーソドックスなメニューや基本的なサービスを充実させる、見てくれよりも中身を研ぎ澄ます、そんな質実剛健的なやり方が支持されると思います。
事実、お客のこだわりは強まるばかりです。メニュー価格を引き上げても、その理由を理解し、以前同様にオーダーしてくれる。引き上げ価格分の価値を十分に感じてくれるわけです。クオリティーアップに関わる一〇〇円~一五〇円くらいの単価アップは、お客の購買意欲になんら支障を与えません。
高品質で安全な水耕野菜、オーガニック食材の採用、地鶏の契約栽培など、仕入値の高さは否めませんが、お客の喜んでくれる素材は今後もさらに取り入れて行く意向です。
――もはやレストラン経営の域に達していますね。
本名 確かに。最近、新店をオープンすると、周辺では「パスタ屋ができた」とか「ベーカリーショップができた」という噂が先走っているようです。
コーヒーについては、「あっ、コーヒーも安いんだ」てな感じで、セルフサービスコーヒーのイメージはすっかり色あせているようです。創業当時に比べ、ずいぶん店舗イメージが変わったなと思いますね。
――イメージの捉えられ方が変化したことは、顧客動向にも影響していますか。
本名 レストラン的利用が増えているので客単価は右肩上がりの一途です。一〇年前は、日中・二一〇円、夜・一一〇〇円。いまや、日中・五五〇円、夜・一八〇〇円に跳ね上がっています。しかもコーヒー、ドリンク類の価格引き上げは一〇~二〇円くらいですからね。食の訴求、業態特化は順調に進んでいるといえましょう。
――今後の展開を聞かせて下さい。
本名 地方進出に拍車をかけます。従来、政令指定都市圏に限っていた商圏を、中都市圏にまで広げ、都市と都市を結ぶ線に沿った中小都市にも出店攻勢をかける方針です。
地方特性に合わせた出店フォーマットはもはや作成済み。昼夜関係なしに同一メニューをラインアップする一毛作の「カフェ・プロント」、夜半過ぎからバーに転換する「カフェ・ダイニング・プロント」、それに従来の「プロント」を加えた三パターンのフォーマットのなかから、その地域に最適なフォーマットを当てはめて行く計画です。
――今後を期待します。ありがとうございました。
(株)プロントコーポレーション/本部所在地=東京都中央区銀座5-5-18/電話03・3571・8531/設立=昭和63年2月/資本金=1億7000万円/社員数=92人/店舗数=103店(直営12・FC91)/年商=103億200万円(昨年度実績)