飲食店成功の知恵(135)業種編 中華点心の店
いま日本の飲食店メニューには、ほとんど世界各国の料理が取り入れられている。いちいち検証してみると、改めて日本人の雑食性に感心するばかりだが、その中で、いまひとつの感があるのが中華点心である。
大型飯店や中クラスの中国料理店などではメニューに導入されていたり、午後に飲茶タイムが導入されていたりもするのだが、これの専門店となるとまだまだ少ない。小規模の専門店で最も目立つのはギョウザ専門店だが、本格的点心専門店は意外なほど少ないのが現状だ。
よく考えてみるとこれは、不思議なありようである。なぜなら、いまの日本人は中華点心が大好きなはずだからだ。
中華点心といえばギョウザ、シュウマイ、それに肉まんくらいだったのは昔の話である。ここ一〇年ほど、本場香港の飲茶専門店は繰り返しマスコミで紹介されてきたし、実際に香港に出かけて飲茶を楽しんだ経験のある人もぐんと増えているからだ。まだ食べたことはなくても、どんなメニューがあるのかは知っているという人はかなりの数になるはずだし、身近にそういうお店があれば食べてみたいと思っている人は少なくないはずである。
中華点心が人気の理由はまず、味が日本人好みだということだ。いわゆるエスニック料理とは違った成熟した文化の味であることも挙げられよう。
第二に、グレージングニーズの定着である。いまや少しずついろいろな料理を食べるというスタイルは、さまざまなジャンルで取り入れられているが、それはいわば料理の点心化である。
三つ目は、スナックでありながら食べ方によっては食事にもなるという便利さである。しかも、一品当たりの単価が低ければお客は予算をコントロールしやすい。
これだけ人気があるのに、ここにビジネスチャンスを見出そうという機運が希薄なのは、どうしたことか。ほとんど類似点がないというだけでも、アタックチャンスと見るべきだと思うのだが。
実はこれまでにも、飲茶専門店の出店ブームは二度あった。昭和40年代後半と一〇年前である。いろいろな試みが提案されたが、ほとんどが失敗であった。いろいろな要因はあったろうが、最大の要因は香港の飲茶をそのまま再現しようとしたことではなかったかと思う。
今後この業種を成功させるには、まず、いたずらな高級化志向は、避けねばならない。実際、香港の専門店の大半は大衆店である。気軽に好きなものをいろいろ食べられるからこそ、魅力があるのだ。一品当たりの単価が高くては、飲茶本来の楽しさと利便性は味わえない。
一方、点心は中国料理の中でも特殊な分野で、飯店でも専門の職人の確保に苦労しているほどだ。単価が低いと人件費が過剰になってしまうからだ。
しかし、いまはこの技術の点では心配ない。業務用ではすでに、ほとんどのアイテムが冷凍品などの形で供給されている。ギョウザやシュウマイだけでも何十種類とあり、手作りのメーカーもある。だから有名飯店でも結構利用している。
問題は、どのメーカーの製品を使うかということと、きちんと蒸して提供することである。また、日本と香港とではニーズが違うから、本場のようにワゴンサービスをすればロスを招くだけだし、お客もそこまでは要求していない。雰囲気を演出するなら、店内に蒸篭を置いて湯気を出すだけで十分なのだ。
それと、中華点心はほとんどがテークアウトできる商品だという点にも、もっと着目すべきである。
フードサービスコンサルタントグループ
チーフコンサルタント 宇井 義行