焼き肉最新動向 トップインタビュー・オージーエムコンサルタント榊芳生社長
低価格だけで人は呼べない
‐‐焼き肉店の出店が目立っていますが。
榊 最近の焼き肉ブームは、今までのアメリカ一辺倒のナイフとフォークで食べるステーキが豊かと思っていたものを、はしと醤油味で食べる焼き肉のほうが日本人に向いているのではないか、という東洋回帰志向から生まれたもの。
振り返ってみると、三〇年ぐらい前の焼き肉店は、肉を食べること自体に満足を得るレベルだった。その後、低価格で食べ放題の焼き肉屋が広がり、みんなどっと押し掛け、腹いっぱい安物の肉を食べて満足していた。そして最近は、ちょっと高くても納得のいくステーキハウスに負けない焼き肉を食べたいと思うようになってきた。
肉が食べられたら幸せの時代は、低価格と量が求められた。しかし、肉が行き渡った現在では、おいしく食べたい、品質の良いものを食べたいというニーズが高まり、これに応えなくてはいけなくなってきた。
かといって今は価格に厳しい時代。客単価一万円、一万五〇〇〇円ではなく、二七〇〇円ぐらいから五〇〇〇円の間で本当においしく食べられる焼き肉を提供しなくてはいけない。それには店主は素材についての知識を徹底して磨かなければいけません。
おいしい肉を知り売る努力
‐‐どう勉強すれば良いのでしょうか。
榊 私はハム屋さんに行きなさいといっています。ハム屋に出掛け本当に良い肉と悪い肉を自らの目で確かめ、また持ち帰って食べては経験を積む。こうした学習を積んだ焼き肉屋がこれからの本当の焼き肉屋だろうと思います。
私が子どものころ、父親は調理場へ私を連れて行き、二つの脂身を握らせ、しばらくしてどちらが早く融けたのか聞かれたことがあります。
その時、父親が言ったことは「肉は赤身がうまいんではない、脂身に味がある。本当に良い肉は脂身がうまいんだ」と。またボロの肉は脂身が早く融けるため、肉の良しあしを調べる時、同じ部位を取り出し、つまんだり舐めてみればわかるんだと教えられた。意外にこうしたことも知らない人が多い。
もう一つ、屠殺後の処理の仕方、フローズンにするのかチルドかフレッシュか、それに部位によりどのように味が違うのか知っておくべきです。
価格は物の最低から最高までを知っている者が決めることであって、安物の食材しか知らない人は設定ができない。自分の売ろうとする価格帯の中で、最高の食材を求める必要があります。
その努力をしないで、適当に原価がこうだから売価はこうというのでは、お客は納得しない。
このごろでは、お客が肉の良しあしの選別ができる。良い肉を売る努力をしなくてはいけない。安く売るための食材を選んではいけない。原価をたたき過ぎると、間違いなくおいしい肉は手に入らない。
おいしい肉を自分の価格で売るため、自分はこういう努力をする、あなたはどう努力してくれるのか、そのへんの勉強が必要だと思います。
まず食べに食べて食べ歩く
‐‐今の焼き肉屋はそうした勉強もしていないんですか。
榊 していませんね。ただ二~三品持ってこさせ食べ比べる。私は食べに食べて食べ歩きなさいと言っています。
カルビー一皿六〇〇円前後では国産肉は使えない。フローズンを使うことになるが、選別と処理の仕方で味が全く違ってきます。最高の状態で出す努力をすることが必要です。本当に良い肉を出そうと思ったら、肉を扱う問屋と一緒に肉牛を育てているところまで行かないと、わからない。チェーン店を作ろうと思ったら、そこまでやらなくてはいけませんね。
ランチよりも夜の客に重点
‐‐肉はどうしても、昼というより夜のイメージが強い。夜の客を呼べるような、きちんとしたものを売る焼き肉屋が増えてきたと思いますが。
榊 昼は肉よりうどん屋、そば屋のほうが強い。安いランチで一生懸命やって労力を分散するよりも、夜に集中して良い品質とサービスを提供するほうが得策。午後3時ごろ出勤し用意万端整え、夜のお客に喜んでもらおう、よその店が二五〇〇円のところを五〇〇円プラスし三〇〇〇円で喜んで帰ってもらおう、というのが最近の焼き肉屋の主流になってきています。
当然に吟味された肉もさることながら、付け合わせのレタスやキャベツの出し方、ビビンバ、キムチなどもこだわり、焼き肉文化、雰囲気を楽しむようになった。店づくりも昔のように煙で真っ黒になって食べるものから、無煙ロースターで環境を良くし、居住性を考えたセンスの良い客間で楽しませる焼き肉の食べ方に変化しています。
知識、技術がもの言う世界
‐‐素材を食べさせるという意味では、今までの焼き肉は韓国料理というイメージが強かったが、今では日本独特の焼き肉料理となりつつある。
榊 私は予言しているんです。全盛時代だった洋風FRの六〇%はいろいろな形に変化するだろう、その主流は焼き肉屋、郊外型居酒屋、それにとんかつ屋だろう、と。
今までは雰囲気、仕掛け、物珍しさが飲食店の重要部分を占めていたが、それが行き渡り、次はそのものの品質が問われるようになった。おいしい素材、差別化した素材、お客が納得する素材です。
焼き肉屋も今後、食材の知識、扱い方、加工する技術を知り抜いていけば繁盛間違いありません。
‐‐そうした素材の良しあしは一目瞭然、お客も評価してくれ、努力のしがいがありますね。
◆ さかき・よしお 昭和12年香川県観音寺生まれ。
飲食業は感性の時代。感じる心がない人は飲食業には向かないと言い切るご本人は、オフィスのベランダいっぱいに季節の草花の鉢を絶やさない。また、子供のころから好きで描き続ける絵は、六七歳で会長になった時、三分の一を絵を描く時間に当てたいという。好きな題材は集落。
飲食店の繁盛の前に人間は幸せのため生き、感動するために生きる「人生ありき」を説き、人、芸術、自然との出合い、目標を達成した時の感動を大事にする。最近の大きな感動は、韓国で六年前から始めた韓国語で講演し、聴衆と感動を共有できたこと。こうした「こころの経営」を新しい時代の経営手法として八〇〇社に近い顧問企業のリーディングコンサルタントとして活躍する。