トップインタビュー・1999年の外食産業展望:OGMコンサルティング榊社長に聞く

1999.01.04 169号 8面

一九九八年は、いまだかつてない厳しい年でした。もう、当然ながら“右肩上がりの売上げ”など期待できなくなった、それが昨年、九八年の概況と言えましょう。

売上げ増加への希望的観測に基づいて人件費をアップさせたり、管理部門を強化しても、これまで、一昨年ぐらいまでは何とか売上げを維持、あるいは微減にとどめることができた。昨年からはもう、このようなやり方では通用しなくなった。

つまり、今後の会社の経営の仕方、店舗運営は、当然変わらざるを得ない。この厳しい時代を生き残るには、体質の大転換が求められている。この点を、肝に銘じるべきでしょう。

飲食店を選別する消費者の目は、非常に厳しくなっています。バブル期に、さまざまな高級店で舌を「こやした」消費者は、この不況下、ちょっとしたことでは財布のひもを解きはしない。そしてこの状況は今後も続くと思っておいたほうが良い。

消費者は「ばかな」金の使い方は絶対にしない。支払う金額以上の価値を求めてくる。これが、今後の顧客傾向ではないかと、私は分析しています。

ただ、この不況の時期にこそ、不況を逆手に取り、できることをやっておかなければならない。それは、人の育成です。好況な時期には良い人材の確保が難しく、また、往々にして人の育成よりも目先の利潤追求に走ってしまう。かつてない不況に見舞われている現在は、人が余っている。

私たち経営サイドからみれば、またとない買い手市場の時期と言える。良い人材を確保・育成するには、チャンスと言えましょう。この時期こそ、それぞれの会社の従業員の「棚卸し」をやっておかなければならない。冷たい言い方だが、ダメな人材をできる人材へ入れ替える、これが必要でしょう。

また、出店に関しても、不況はプラスに作用している。不動産物件は値下がりしており、出店へのチャンスは数多くやってくる。人、物件双方とも、不況下だからこそ私たち経営サイドには好都合な状況にある。問題は銀行の貸し渋りですね。この一点、資金調達さえ解決すれば、今こそ、外食産業は攻めの一手に出ることが可能だ。このように、私は考えています。

外食産業全体が不況にあえいでいるわけではない。元気のある会社と戦意喪失に見舞われている会社のコントラストが一層明確になってきたと、私は思うのです。消費者の厳しい選別により、繁盛店と非繁盛店とが明確に浮き彫りにされてきているのです。

繁盛店は消費者の厳しい選別をクリアしたわけですから、より一層繁盛する。一方で、非繁盛店は一層厳しい状況へ追い込まれていく。外食産業全体が平均して厳しい状況にあるわけではない。繁盛店は客をより多く取り込むチャンスをものにしているという意味では、大いに攻めに徹するべきでしょう。繁盛店と非繁盛店の二極分化、これが、今後のすう勢となるでしょうね。

これまでしばしば言われてきたことには「飲食店の規模、売上高が大きければ大きいほど、その飲食店は繁盛している」といった判断基準が使われてきた。「客数が飲食店の経営指針」といわれたことが、かつてありました。

しかし、もうこの基準は通用しない。消費者の厳しい選別をクリアした店、「お値打ち」だと判断された店は、売上げ、客数、すなわち規模が小さくとも、今後サバイバルしていける店なのです。規模追求から質の追求へと、時代のトレンドは変化しているのです。だから今こそ、リージョナルな中小飲食店がチャンスをつかむことができると、私は言い続けているのです。

規模の追求、売上高、店舗数、客数を上げて低価格で運営することができた時代は、規模の追求は正道だったかもしれない。しかし、現在は、何度も繰り返して言いますが、消費者の選別眼が非常に「こえている」。規模ではなく、その店舗店舗が提供する質トータル、料理、サービスなどを消費者は厳しく見て判断する。ですから、この店舗ごとの質向上を徹底的に図っていけば、幾らでも活路は見いだせるはずなのです。

人材教育こそ繁盛店への道

今後、経営者が取り組むべき至上課題は人材育成に尽きます。例えば、夫婦で経営しているようなインディペンドの店では、どのように「売り」の商品をアピールするか、この点に力を入れていくことで十分成り立ちます。次に、従業員を何人か雇い入れる。そうすると、いかに、従業員が満足して働ける環境整備を行うか、という問題が生じてきます。さらに、インディペンドの状態を脱却して企業化する。そうなると、資本政策がからんでくる。

このように、企業として大きくなると従業員の満足度確保、商品アピール、そして、企業運営。つまり人、物、金、と通例言われているように、この三本のテーマを解決していかなければならなくなる。

この三つのテーマの中で、数年前までは、いかにうまく資金調達を行い、立地条件の良い物件を手に入れるかが、飲食店にとっては最大の課題でした。人材育成は、二の次でもよかった。一つのシステムを作り、その中に従業員を置いていく。これで、十分だった。

しかし、消費者が質を一番に求め出している今、これまでのやり方では消費者の要求に応えてはいけない。消費者の要求に応えていくための決め手、それは人の力に尽きます。システムからは、おいしい料理は作り出せない。作り手の技術と心。これが、システム以上に求められてくることは必至だと思います。マニュアル通りのサービスでは、顧客満足度を上げることは不可能です。

人材教育。これが、これから最も大切な部分を占めることになる。自分の満足度を高めようとする人材は、お客さんにどれだけ満足してもらえるかを考える。結果として、働く意欲が自然とわいてきて、職場は活気づき、繁盛店となる。人材教育は、何よりも大きなテーマとなっていく。これには、疑いを挟む余地はありません。

従来はシステムと規模の追求で事足りた。しかし今後、外食産業がやるべきことは、顧客満足度を引き出すための人材教育に収れんしてくるはずです。経営者にとっての最重要課題は人材育成、次いで、シビアな経営戦略、となりましょう。これらの課題をクリアできるか否か。自分を磨くことだけに専念してきた創業者が運営する店。このような飲食店は次々とふるいにかけられていくでしょう。

「まぐれ当たり」は、もう起こり得ません。屋台骨を担っていくことのできる後進をしっかりと育てている飲食店でなければ、もう、生き残ることはできない。創業者は年を重ねていくにつれ、消費者が求めていることを理解できなくなる。現場に求められていること、若い世代のニーズを理解できるリーダーの育成が行われているかどうかが、大きな生き残りのポイントとなることは確実です。

一〇年後ぐらいに、大手チェーンの存在そのものが問い直される時期がくると、私は思います。大手チェーンはアメリカに、ローコストオペレーション、大量生産・大量販売による運営方法を学んだ。しかし、いずれ、約一〇年後には、大量生産大量販売によるやり方が全く通じない社会情勢が到来する。

その時の外食産業の在り方を考えたとき、まず存在を問い直されるのが大手チェーンだと思います。その時、経営者が大手チェーンのやり方は、長いスパンの中の、一時期にだけ有効な運営方法に過ぎないと気づかなければならない。いつまでも、労働生産性、効率性向上ばかりねらっていては、トレンドに取り残されることは必至です。

これからは、感動を客に与え得るか否か、といった視点で消費者に判断される、全く異なる次元の店舗が求められてくる。客の感動と従業員の感動、この二つが外食産業で重なり合うようになってこなければならない。アメリカの外食産業が及ぼした影響を脱却する時期に入っている。

アメリカからは、外食産業のシステム化ということを学んだ。これからは、学んだことを土台として業態ではなく業種としてのプロとして、いかなければだめでしょう。つまり、専門店へ特化していかねばならない。

例えば居酒屋。現況ではまだ業態店が、そのほとんどを占める。それが、業種店、例えば鳥料理を売り物にした店、東南アジアの料理を売り物とする店というように、専門店へと脱皮していくでしょう。私が外食業界の過去を振り返って思うに、業態店と業種店の入れ替わりが、約一五年周期ぐらいで繰り返されているような気がする。現在はその、業種店への転換の時期に当たっているのです。

人材の育成。これは、突き詰めて言うならば、この繰り返される業態店と業種店とのサイクルの中で、先手を打って飲食店を運営していくことができるようにするということなのです。創業者一代では、とても頭がこのサイクルに追いつかない。一〇年、二〇年先を託せる「側近」を多く育てるよう、私はOGMの会員に説いて回っています。

あまりに、若手を育成していない創業者が多すぎる。「企業は人なり」とよく言います。これが、特に、外食業界では忘れ去られている。この一言を、次世代の経営者は肝に銘じていくべきでしょう。

◆取材メモ

(さかき・よしお)昭和12年、香川県生まれ。中央大学在学中に、愛媛県松山市で「へんこつ庵」を開業、以後、四国を拠点に一九店舗をチェーン展開、四国地方のトップ外食企業を築く。が、政治的影響を受け、昭和50年にチェーンを解散(企業倒産)。後、それまでに培った、地域一番店づくりのノウハウを生かして、コンサルタント業に転身。チェーンストア理論に逆行するユニークな指導法で手腕を発揮し現在、国内六二〇社(三五〇〇店)、韓国、台湾においても多数、繁盛店の顧問を務める。

昨今は、国内最大の外食コンサルタント軍団(株)オージーエムコンサルティングのトップの立場から「生業店、中小飲食企業による地域志向の外食産業づくり」を声を大に啓蒙している。「飲食店経営者時代、天国と地獄の両方を体験した」という榊氏の持論は「コンサルタントはまず人生の相談役になること」「従業員の充実感を高めていくのが経営者の仕事」「一に人生を語り、二に時流を語り、三にノウハウを語るのがコンサルタントの仕事」の三点。(文責・岡安)

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