これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(25)パチンコ業界で

1999.02.15 172号 10面

パチンコというビジネスは、日本国内で三〇兆円を超す巨大なマーケット(市場)を形成しているという。日本国家の年間予算が七五兆円なのだから、このパチンコ業界がどれほどでっかいマーケットかが良くお分かりであろう。

さて、バブル経済の当時からその崩壊後の今日まで、パチンコ業界はマスコミに取上げられ注目を浴びてきた。何しろ、パチンコ店というものは派手である。小さな街で一番華やかなネオンサインはどこかといえば、それは必ずパチンコ屋さんのギンギラのネオンサインである。

昭和40年代フィーバー機が登場してからは、パチンコ業界は絶頂期を迎えた。そしてCR機が登場した現在、パチンコ業界は再び黄金期を迎えている(ごく最近のデータでは、この半年間の業績は、不況の影響でがた減りしているとは聞いている)。

しかし駅前のパチンコ店で、ジャンジャンバリバリと軍艦マーチを鳴らしているような光景は少なくなった。そのかわり、女性の店員がにこっとあいさつするような、そんなおしゃれなパチンコ店が増えた。平成不景気の今、街では相変わらずパチンコ店だけはお客が入っている。

これだけ庶民に身近なビジネスでありながら、その構造が暗闇に閉ざされている業界も珍しい。何しろ、その経営内容が闇に閉ざされて全く見えないのだ。パチンコ業は、相変わらず脱税リストのベスト5業種に登場し、景品買いに暴力団の影がちらつくのが現状。パチンコ業界のどれ一つ取上げても、アンタッチャブルな業界に見えてしまう。

その証拠に、消費者金融の武富士やアコム、プロミスが一時高利貸問題で世間のやり玉に上がりながら、それでも最近は株式を上場・店頭公開して高株価を維持し、新しいノンバンクのエースなどともてはやされていても、未だにパチンコ業界念願の「株式公開会社」は一社も実現されていないのである。

そのパチンコ業界で、二五〇〇億円の売上げを誇るのがパチンコ・チェーンストア「ダイナム」(本社=東京・西日暮里、佐藤社長)である。ダイナムは、北は北海道から西は中・関西圏の、人口五~一〇万人の中小地方都市の郊外に、標準化されたパチンコ店舗を七〇店舗近く展開している。

それで、二五〇〇億円も売上げるということは、ダイナムのパチンコ店一店舗で、三〇~四〇億円の売上げを誇るということなのである。これは、「マルハン」という日本一のパチンコ屋に次ぐ業界第二位の業績である。

佐藤社長の雑誌でのインタビュー記事を読んでみると、大学を出てから一時チェーンストアの代表企業、スーパー「ダイエー」に勤めていたという。そこでチェーンストア理論との出合いがあったようだ。家業の西日暮里のパチンコ屋を継いだ時、この遅れたパチンコ業にチェーンストア理論を導入してシステム化したらどうだろうかと思いつき、以後現在にいたるまで自社のパチンコ店の徹底的なチェーンストア化を図ってきたという。

だから先回お話したように、日本のチェーンストア研究団体、コンサルタント企業日本リティリングセンター(JRC)のアメリカセミナーに、二〇〇人近い人員を送り出しているのである。ちなみに、JRCのアメリカセミナーは一人五〇万円近い金額で、その参加者の三分の一近くがこのパチンコ企業社員で占められているという。

彼らが、アメリカの「ラルフ」や「フードライオン」(ともにスーパー)、「ビグボーイ」(ファミリーレストラン)、ショッピングセンターを見て何の勉強になるというのだろうか? アメリカには、モデルになるようなパチンコ店はないというのに。

しかし、チェーンストアの研究に熱心で、JRCの渥美先生を神様と慕うダイナム社は、ここで減少傾向にあるこのセミナーに大挙参加することで義理を果たしているのであろうか。

「わが社の人時生産性(一人当たり、一時間当たりの粗利益高)は、一万三〇〇〇円ですよ!」と佐藤社長はインタビューで叫ぶ。この数値は驚異の値である。どんなお店でもこんな数値は実現できないだろう。何故、ダイナムは、こんなに儲かるのか?

それは、スーパーやレストランより今のパチンコ店は人件費がかからないからである。それというのも、最近のパチンコ店では人手はいらなくなりつつあるのだ。最近のパチンコ機械は、デジタル化の影響で非常に複雑になった。そして、別室のコントロール室でのコンピュター管理なので、基本的には売場に人はいらなくなりつつある。まして、複雑なパチンコ台を店の従業員がその場で修理できるわけではない。

では何故彼らは売場にいるのか? それは、お客が不正をしないようにただ見張って見回るためなのである。つまりは監視役というわけだ。

佐藤社長によれば、この監視役ももういらなくなりつつあるというのである。だからいつかは、ロボットが「ソコノオキャクサマ、フセイヲシテハイケマセン!」などとしゃべりながら、見回ってくる時期が来るかもしれない。

つまりチェーンストア理論というものは、究極的にはロボット理論なのだ。合理化のためなら、すべてをセルフにして機械化する。マニュアルは人に教えるよりも、ロボットのICに組み込んだ方がよほど確かに効果を発揮するに違いない。

しかし、渥美先生によれば「チェーンストアの目的は、経済民主主義の実現」ではないのか? ダイナム社の佐藤社長の言い方では、「最後に儲けりゃ、何やっても良いではないか!」というのと一緒なのだ。

パチンコ店の駐車場に子供を置き去りにして、その中で子供が死亡する事件があちらこちらで起きている。パチンコのつけがたまって、サラ金で借りてまで、自己破産するまでパチンコに熱中する者もいる。そんな射幸心をあおり、不健全な生活を誘導する、今のパチンコ業に経済民主主義など無縁のはずではないか。ところが、このチェーンストア理論はそのビジネスにぴったりと当てはまるのだ。

今、流通業界、スーパー、ホームセンター、専門店チェーンはチェーンストア理論から離脱しつつある。そしてもちろん、飲食業界もこの理論から離れつつある。しかし、パチンコ業界、特にダイナム社はますますこの理論にのめり込んでいるようだ。

こんなチェーンストアの理論に、幻惑されてはならない。

チェーンストア理論を信奉してきたすかいらーく・ガストは、大赤字が予想される。その背景には、間違いなくこの理論に頼った経営が存在していたからなのである。

(仮面ライター)

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