デザート市場これからが本当の本番

1999.05.17 178号 10面

『HANAKO』『TOKYOウオーカー』『日経トレンディー』などのトレンディー雑誌で、ロッテリアの「エッグタルト」が売れていると書いている。ロッテリアで、そのエッグタルトを買い食べてみた。結構おいしい。しかし、どうもしっくりしない。

エッグタルトはどう見ても洋菓子の部類である。それも半生焼き菓子である。食事の後のお茶の時間にいただく、一口ケーキなのだ。どうも、ファストフードになじむような商品ではない。

ファストフードの“ファスト”とは、“早い”という意味である。忙しくてゆっくり食事ができない時や、お財布が寂しいときに注文すれば、安く早く出てくる食べ物がファストフードの食事である。

だが、エッグタルトがそのファストフードの食事メニューにぴたりと当てはまるだろうか。答えはNO!エッグタルトは昼下がりの午後、素敵なテラスで香り高いコーヒーや紅茶などでいただくケーキなのだ。明るい午後の日差しの中で、“のんびりいただくお菓子”がそれなのだ。

ファストフードとは全く対極にある食べ物、つまりデザートに類するメニュー(厳密にいえば半生焼き菓子なので、デザートではないかもしれないが)なのだ。

ロッテリアは確かに、今までも「クイニーアマン」のような商品で常にファストフード業界をリードしてきた。だからと言って“売れれば何でもよい!”のだろうか。これだけ厳しい飲食業界の中で、そう考える方が多いかもしれないが、デザートに類するメニューがファストフードで売られ、それがまた良く売れているということは、ハンバーガーを核とした洋風ファストフード業界の大きな転換期を物語っているのではないか。

お客さまはもう、ハンバーガーで忙しく食事をすることに飽きているのだ。ハンバーガーショップで食事することが、カッコ良いことでもなんでもないと思っているに違いない。バーガーキングの「ワッパー」を見ていると、もうハンバーガーは食傷気味に思えてくる。それほど、マクドナルド店国内二〇〇〇店舗の威力は大きい。

日常的にいつでも食べられるメニューを、あえて人は食べようとはしなくなる。むしろ、その主食よりも副食のデザートの方に、人々の興味は向いているのだ。おいしいデザートが食べたい。おいしい食後のオヤツが食べたい。それが今のお客さまの正直な気持ちだ。

だがデザートメニューは本来、洋菓子店やレストランや飲食店で売られるべきものなのに、何故本来と違う場所で、ハンバーガーショップという場所でこんなに売れるのだろうか。その答えを探しに、今度はコンビニエンスストアで探索してみよう。

山崎パンの、「丸ごとバナナ」という商品をご存じだろうか。一本のバナナを、生クリームとカステラのスライスでフワッと包んだ生ケーキである。発売以来大ヒットとなり、現在でも売れ続けている商品である。この丸ごとバナナこそ、十数年前にパンを配送している運転手が考え出したもので、社内商品アイデアコンクールで入賞しそれが大ヒットに結びついたのだ。

この生ケーキは、明らかにデザート商品である。この後も、パン売場でデザート商品の大ヒットが続く。日糧パンの、「チーズ蒸しパン」である。これもどちらかというと、しっとりしていて半生に近い商品である。ところが五~六年前から、このデザートマーケットに大変化が起こった。それはコンビニエンスストアの登場である。

コンビニ大手のファミリーマートが、このデザート市場の急激な伸びに着目したのが六年前である。それまで、豆腐や牛乳という日配品や乳製品の陰に隠れていた、プリンやヨーグルトや半生ケーキが一つのくくりで「デザートコーナー」という陳列コーナーに陳列されるようになった。

そして突然五年前、セブンイレブンが全く新しく冷凍ケースを全国五〇〇〇店舗に導入し、“冬でもアイスクリームを!”というキャンペーンを打ち出したのである。

今まで脇役と思われていたデザートという商品分野が、確かに存在することをこのセブンイレブンは実証して見せたのである。思い出せばこの分野でヒットした食品は、そのほとんどがデザートに分類されるような商品ばかりだったのだ。

例えば、いちご大福、雪見大福、明治乳業の「ブルガリアヨーグルト」、グリコの「プッチンプリン」、テラミスケーキ、森永乳業の「アロエヨーグルト」、丸ごと果肉のゼリーや果肉ヨーグルト、マンナンライフの「こんにゃく畑」ゼリー、団子三兄弟ブームのお団子などである。

これは明らかに、お客さまの消費動向がデザートを求めている兆候に違いないのだ。ハンバーガーショップで見たように、お客さまは主食の方は満足されているが、デザートメニューにはまだまだ満足されていないということなのだ。

今までのデザート市場は、コンビニで手軽に買えるような商品が中心である。レストランや飲食店で、食後にデザートを楽しむというような、高度な食生活の段階には至っていないと知るべし。だからデザート市場にとっては、今こそ、これからこそが大いなるチャンスというわけである。

(最近は飲料でも大きな変化があった。コーヒーがイタリアン系のエスプレッソを中心とした本格コーヒーに替わり、紅茶も従来のダージリンやアップルティーなどだけでなく、ハーブ系の多様な種類が日常的に飲まれるようになった。これでデザートの主役は全員そろったのである)

以前にファミリーレストラン・デニーズのデザートメニュー、「ナタデココ」が大ヒットして世間に一大ブームを巻き起こしたことがあった。ファミリーレストランのデニーズでさえも、お客さまは食後のおいしい口直しにデザートメニューを求めているのである。ましてや、専門店やディナーレストランは、もっともっとこのデザートメニューを強化すべきではなかろうか。

特に、専門料理店はその料理の特徴を表現した、独特なデザートが喜ばれている。路地裏大繁盛店で名をはせる東京四ッ谷の「上海ヌードル」は、洋風にアレンジしたラーメンと居酒屋風中華メニューで有名なお店である。

この店のデザートはなんと、「世界最強杏仁豆腐」というメニューである。このネーミングでも分かるとおり、いかに個性的なデザートであるかが分かる。さすがに美味で、このメニューのみのテークアウトも多いそうである。

またある懐石料理店では食後に必ず白玉のお汁粉が出てくる。または草もちが出てくる。それをお抹茶でいただく。こうした季節を感じさせる、和風のデザートもまた良いものである。

何しろこのデザート市場は、まだまだ商品開発が始まったばかりである。前年比が割れるのは、こうした工夫が足りないからではないだろうか。客単価が上がらないのは、デザートメニューがあまりにも貧弱だからではないのだろうか。そんなことを考えると、デザート市場はこれからが本当の本番なのである。

おいしい食事の後に、もう一度お客さまを感動させるような、そんなデザートメニューをわれわれ外食産業人が工夫し、本当の意味での豊かなライフスタイルをお客さまに提案してゆきたいものである。

コンビニやファストフードで、デザートがドンドン売れるようなそんな状況はもう許してはならない。少なくともこの記事を読んでいる読者諸兄は、新たなデザートメニューを開発して、その結果大きな果実を手にしていただきたいと切に願う次第である。

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