特集・カレー:独走続ける「CoCo壱番屋」
小中学生の給食で一番人気のあるメニューは、言わずと知れたカレーライスである。カレーライスが好きと答えた少年少女は、何と四〇%を超えるのである。それはハンバーグの一九%を優に超える数値なのだ(日本体育・学校健康センター調べ)。
小中学生は、何故こんなにカレーが好きなのか。それでは大人はどうだろうか。「日本人とご飯料理に関する調査」を見てみると、よく外食している料理の一位が「握りずし」で、二位が「カツ丼」、三位が「カレーライス」なのである。家庭で食べているご飯料理のトップはもちろん、カレーライスである。
しかし、こんなに普及している食べ物なのに、カレーを主力にした外食のビッグチェーンは、あまり生まれていない。いや正確には、ただ一社だけしか存在しない。その名は「CoCo壱番屋」チェーンである。
「CoCo壱番屋」は平成11年3月末現在、全国に四七六店舗を展開し、このカレーライス業界では他を寄せ付けないダントツの伸びを示しているのだ。今期も八八店舗を新規に展開予定で、それだけでも既存のFCチェーンは足元にも及ばないくらいである。
他のカレーチェーンといえば、吉野家の「ポット&ポット」やS&Bの「カレーの王様」、京王電鉄グループの「C&Cカレー」FCチェーンの「インドのとなり」など多々あるが、いずれも一〇〇店舗以下の中小レベルにある。
では何故そんな巨大なマーケットがありながら、NBチェーンが育たないのか。それはカレーライスが、あまりにも身近な存在であると同時に、だれでも手軽に調理できて、結構上手に作れるというメリットがあるからだ。
何しろ野外のイベントやキャンプや集会で、食事といえばこのカレーが登場する。和歌山のカレー毒物混入事件は今でも記憶に新しいが、これも町内の夏祭りに出たのがカレーである。
少しでもまた大量に調理しても、失敗することが少ないのがカレーである。どこでも、いつでも、簡単で、そこそこの味が出せて、失敗が少ない料理の代表がカレーライスなのだ。
またカレーのルーやソース、カレー粉も含めたスパイスを食品メーカーが徹底的に研究している。それが業務用カレーとして売り出され、個々の飲食店でアレンジされるなどして、完成度の高いカレーメニューが街中にあふれている。加えて、市販品も多く売り出されている。
だからカレーを商売にしようと思えば、よほど深くカレーを研究し、他と圧倒的に差別化できるような商品・メニューづくりが可能でなければ、思いつきでカレーショップをやろうなどという魂胆で成功するはずがない。
簡単だけれど難しい! この禅問答のような世界が、カレービジネスの世界なのだ。しかし、その禅問答をうまく解くことができないからこそ「CoCo壱番屋」の独走を許す結果になっているのである。
何故、「CoCo壱番屋」だけが強いのか。お客の立場からいえば、「辛さのレベル」「具の種類」「カレーソースの種類」「ライスの量」などさまざまなチョイス(選択)がお客さまの細かいニーズをくみ取ってくれる、それがお客にはうれしいのだろう。
ところが調理する方にとってはこれがとんでもなく面倒である。そしてカウンターに座って見ていると、辛さを調節した後に打ち出し鍋で一人前ずつのソースを温めているのである。そうすると一人に一つの鍋が使われ、洗い物がどんどん増える。
鍋もそんなに数はないから、どんどん洗っていかなければ次のオーダーに間に合わない。コロッケやソーセージといった具も、その場で調理するからこのフライヤーやグリドル(鉄板)も見ていなければならない。ライスもグラムだから目分量というわけにもいかず、新人は調理ばかりで計っていたようだ。これはハードな仕事である。特に昼時のピークタイムの、そのオーダーの複雑さといったらない。「よくこんなやり方を考え出したもんだ!」と感心すると同時に、キッチンにいる人が気の毒になるくらい本当によく働いている。
これほど感心するわけは、そんなことをするカレー屋はほかにはないからである。普通のカレー店では、オーダーは注文後即時に出てくる。何故なら、カレーソース、ご飯、具のいずれも、ランチのピークには作り置きしているからだ。だからどんなに忙しくても、せいぜい三~四分もあれば提供される。これが一般飲食店のカレーライスだ。
しかし「CoCo壱番屋」は、ほかがやらないからこうした複雑で手間のかかることをやり切り、一人勝ちしているのである。だから強い、本当に強いのである。簡単な料理のカレーが、ここまでこだわると素晴らしい外食産業になるのである。「CoCo壱番屋」の独走は当分続くに違いないだろう。
群馬県高崎市の郊外に、「マハトマ・ニューデリー」というインド料理のお店がある。ここは五〇坪で月商一五〇〇万円も売る店なのだ。ちょっと前までは、そんな特殊な専門料理がこんな地方で売れるなど考えられなかったが、ここでは大繁盛している。
インド料理はカレーのルーツだが、今日本の地方でもこうした専門料理が売れる時代になってきてるようだ。その繁盛の秘密をオーナーの新貝社長に聞いた。
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インド料理は自然食なんです。私はインド料理独特のスパイスに魅力を感じ、スパイスを組み合わせることによってオリジナルな料理の味を出してきました。インドに関するさまざまな本を読み、スパイスもすべてインドから仕入れています。ナンを焼く窯は苦労しましたが、三年がかりで手に入れました。
インドは文化や伝統が日本と全く違い、歴史も深いんです。私は純粋にインドが好きだから、その思いがこの店をつくることにつながっているんですネ。ダッカから来ているお医者さんと一緒に東京に遊びに行った時、ふと寄った赤坂のインド料理店で食べた「チキン・ティッカ・マサレ」というカレーにものすごく感動を覚えたのが始まりです。
インドに行って感動したものを、すべて店内に取り入れてインテリアとして利用しています。銀食器やカシミール製のじゅうたんも、大理石のテーブルもすべてそうです。
日本のカレーとインドカレーは、調理法から違います。日本のカレーは、味噌汁と一緒。具が違うだけで、スープは一緒です。インドはさまざまな調理法を駆使します。煮たり焼いたり炒めたりと、それを違う皿にそれぞれ盛ってさまざまな味を楽しみ、ミックスします。
私の店では一番辛いカレーに、唐辛子がスプーン一杯分入っています。しかし辛いだけではなく、最初は甘く、後に辛くなってくるという複雑な味の構成です。スパイスをうまく使い、初めの辛さを抑えているのです。
辛さを強調しすぎれば苦くなり、体にも良くありません。インド五〇〇〇年の歴史からくみ出された知恵が、カレーなのですネ。
カレーの食べ方ですが、インド人と同じように玉ネギをかじりながら食べると脂肪の吸収を防ぎ、腸の働きも活発にし消化に良いです。
そして太らない。これをカレーに混ぜることで、良いカレーが出来上がるのです。スパイスは、漢方薬です。初め日本ではカレー粉は薬だったんですからネ。
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何しろ、今のお客さまは情報をいっぱい持っている。そんなお客さまのニーズを満たすには、とことんコンセプトと料理にこだわった店づくりが必要だ。それがなければ、カレーというあまりにも簡単で奥の深い料理を、縦横無尽に操ることなどとても考えられない相談である。