そばレストランの事例研究 「富士そば」 安い・早い、狙いは高回転高収益
ダイタングループがチェーン化している立食スタイルのそばショップで、都内を中心に現在四五店を出店している。
ダイタングループは、ダイタンフード㈱を中核に、ダイタン企画㈲、池袋ダイタンフード㈱、ダイタン食品㈲、ダイタンイート㈱の五社で構成され、それぞれにおいて直営によるチェーン展開を進めている。
出店エリアは山手線や中央線沿線の駅周辺、繁華街をメインターゲットにしており、ビジネスマンや学生を対象とする高回転が可能という立地条件を設定している。
しかし、好立地は高回転が見込めるが、その分保証金、家賃などの出店コストも高くなるということで、投資に見合った収益をどうウラ付けていくか、出店に当たっては細心の判断が要求される。
店舗はカウンタースタイルが中心で、ビルの一階七坪から一五坪の大きさを標準的としているが、出店コストは坪当たり保証金が最低でも、八〇万~一〇〇万円を要するので、七坪の小さな店でも一〇〇〇万円前後、これに内外装費や設備費を加えると、どんなに低く見積っても四、五〇〇〇万円はかかる。
ベストロケーションで高い物件であれば、八〇〇〇万から一億円の投資コストになるというケースも少なくない。ビジネス向きのいい場所は人が集まるが、それだけに投資も高くつく。
投資が高くつけば、当然のことながら高回転、高収益が望めるところということが大前提になる。そうなると、業態はスタンド(一五〇円)コーヒーや立食いそば、あるいは、店舗規模が大きくなれば、回転ずしやハンバーガーショップなどということになる。
いずれにしても、高回転の効く業態でなくては、都心部やベストロケーションでの出店は実現しない。
「高い投資でもいいわけですけど、問題はペイするかどうかです。ペイすれば一億の投資だってどうってことはないわけです。あとはどう出店を決断するか、立地をどう読み取るかということだと思います」(ダイタンフード㈱総務課長高橋光明氏)。
ダイタンフードは前述したように、ダイタングループの中心的企業として、富士そばのチェーン展開を積極化しており、現在新宿、渋谷、池袋、新橋、お茶の水など二六店舗を出店している。
富士そばのメニューは、かけそばをはじめ、天ぷら、かきあげ、きつね、たぬきなど全くのスンダードメニューで、これらメニュー単価は二五〇円~四五〇円が中心。
立食いそばはすでに、和風「ファーストフード商品」としての位置づけにあり、味はともかくとして、ビジネスマンや学生相手に、「安い、早い」というのが大前提になっている。
もっとも、味が悪ければ、固定客がつかず、いつも一見客を相手にしなくてはならないので、それなりの味づくり、ダシづくりはしなくてはならない。
安くて、早くて、うまければ、客は集まってくる。高回転、高収益を望むのならこの三つのファクターは不可欠の条件となる。
ダイタンは安い、早いにプラスして当然のことながら、味づくりについても独自の努力をおこなっている。そば、うどんのダシ(つゆ)は、すべて店単位でマニュアルに沿って作っている。
ダシの材料はかつお・さば・コンブのミックス。一日に四、五回は作る。前日からの寝かし、作り溜めはしない。
麺のうまさはダシ汁で決まる。富士そばのダシはその日の仕込みなので、客もそのおいしさを十分に理解している。だから、客に大きく支持され、店が確実に増えてきているという図式になっている。
麺はすべて外注している。もち屋はもち屋という考えからである。もちろん、独自の仕様発注であるが、これはスピード調理が可能になるよう麺の性質を考えている。
麺は三分以内にゆで上がる。調理(ボイル)はタイマーセットで仕上がる仕組みになっているので、ずぶの素人、アルバイトの人間でも調理できる。
材料の天ぷら類は外注業者から毎日二便、他の材料類は週三回の配送で供給を受けている。このため、店ではダシ汁作りと麺のボイルだけに専念すればよい。
「高回転、高収益を上げるための分業化、システム化の現われでして、これからの外食ビジネスは、たとえ立食いそばといっても、こういう形を取っていかないと生き残っていけないのではないでしょうか」(高橋課長)。
そば、うどんメニュー以外にはみそ付きの牛丼、カレー(各四〇〇円)のご飯ものもある。このほかには、ミニそば付きの牛丼セット(五三〇円)、ミニ牛丼+かけそば(四七〇円)、ミニそば付きカレーセット(五三〇円)、ミニカレー付き天ぷらそばセット(五六〇円)などのセットメニューもあり、一応の食事ニーズにも対応している。
しかし、全売上げの七、八割はそば類の売上げで、看板どおりにそばの貢献度は高い。また、そばの売上げの中でも七〇%は天ぷらそばに集約されるといい、日本人の天ぷら好きはここでも証明されている。
平均客単価は四二〇円。一日平均のそば、うどんのオーダー類は七〇〇~八〇〇食。単純に計算すれば一店舗当たり一〇〇〇万円ということになるのであるが、立地条件や店舗の大きさによって、当然のことながら、集客には多少のバラ付きは出てくる。
店舗の運営は八時間勤務の三交替を実施している。スタッフは常時二~三人。金銭の受渡しについては、券売機(二台)を設置しているので、従業員が直接手に触れることはない。
券売機は客にとってはめんどうな面があるが、衛生面や管理面でむしろメリットが大きいと判断している。
「慣れの問題だと思いますね。まず、衛生面にいいということが最大のポイントで、この点ではお客様の理解が得られていると確信しています。
それと管理、計算の問題です。私どもは三交替制をとっていますから、金銭的な引き継ぎの手間が省けるというメリットも大きいのです」(高橋課長)。
年間三店舗ペースでの出店、富士そばのシステム、店舗展開は、都市部出店における立食そばショップのあり方を示唆しているといえる。