まかない味シュラン:三笠会館本店フレンチレストラン「榛名」
大正14年創業という七〇年以上の歴史を持つ三笠会館の本店「榛名」は、その重厚な雰囲気と伝統の味が今も多くのファンに支持されている。古きを守り新しきに挑戦する料理長、山田豊年氏は正統派フレンチに南プロバンスの風を吹かせた。料理長いわく、「まかないは、料理人にとって土台となる基本」だ。特に頭でっかちになりがちなフレンチでは、その基本を学ぶ機会を与えるのも、調理長の大切な役目だと思っている。
「フランス料理をやっているからといって、偉くなったつもりになるなよ」
まかないには、山田料理長のこんな厳しい教訓が飛ぶ。
たとえばブイヤベースのマルセイユ風など、首から上のフランス料理を分かったつもりになっても、ドミグラスソースを作れと言われたらできない。
いくら偉そうなことを言っても、料理は土台がなければすぐ崩れる。
「ロールキャベツなんて」という見下げた考えは一切してはいけない。「なら君はできるか」という。
だからまかないの体験は必要だ。
「フランス料理をやることで、自分は格が上のような意識を持っていて、『僕はフランス料理しかやる気がありません』と平気で言う若者がいる。一〇年たったらその人はすごく不幸なことになってしまう。自分が三〇代になった時に悲しむよと脅しているんだけどね」(山田料理長)
まかないは調理場に入って二、三年目の新人が交代で作る。
一食一六〇円。主食代も入っているのでおかずにかけられるのは九〇~一〇〇円ぐらいだ。
まかない用の仕入れは別会計。その予算では、鶏や魚がどうしても増えていく。この日はポトフだった。
まかないといえども、野菜の切り方ひとつもなおざりにしてはいけない。チキンも一羽を買えば、さばく勉強になる。
「おいしければ誉めるし、まずければ遠慮なく言う」(山田料理長)
自分も若いとき、切り干し大根をよくふやかさずに煮て、芯が残ったものを、だれも食べてくれなかった思い出があるという。
うどんやラーメンも作っていた。また仕込み室に一〇年いたので、そこで土台を身に付けることができた。
ただ、みながそこに行くとは限らないし、フランス料理一点主義を主張し続ける子もいるかもしれない。
「そのためにも、まかないでハンバーグや唐揚げ、コンソメやソースづくりを経験しなければならない。それを意識したリクエストもしている」(山田料理長)
まかないには、いずれ巣立っていく彼らが一人前の料理人になれるようにという、山田料理長の父親のような愛情が注がれている。
●ポトフ
■作り方
鶏は一羽丸ごと、塩を振り水から四時間煮る。そのだしで野菜(キャベツ、大根、ニンジン、玉ネギ)とベーコンを煮る。味付けは塩、コショウのみ。ローリエ、タイム、ローズマリーなどのハーブも加える。
■ワンポイント
じっくり煮込むこと。食べる時に鶏を取り出し、バラしてから、野菜とともに盛りつける。付け合わせにパンなど。