新店ウォッチング:「ラーメン四天王」鰻谷通り店

2001.02.19 222号 7面

関西の若者の間では知らぬ者のない「贔屓屋グループ」のラーメン専門店「ラーメン四天王」の直営六号店が、昨年の10月に同グループの本拠地ともいえる、大阪心斎橋の中心地にオープンした。

同店は、大阪の繁華街ミナミのメーンストリートである、心斎橋筋商店街のアーケードから程近い路地の一角にあり、並びには同社のエスニック業態「オリエンタルスーク」が、向かいには同じく「贔屓屋」心斎橋鰻谷店が出店している。

同社の店づくりは、こだわりの内外装でも有名だが、同店はこれまでの「四天王」に比べても、通りの中でひときわ目を引く凝りに凝った店づくりが特徴。

古めかしい木造住宅の外装を施された二階建て文化住宅風の店舗は、店頭に懐かしい木製のごみ箱や手書き風の張り紙が配置され、ダミーの電柱にはホーロー看板も取り付けられている。そして、明かりがともる二階の窓を模した軒先には、これまたダミーで作り込んだ子供の洗濯物までが下がっているという念の入れようである。

こうした昭和30年代風の店づくりは、そもそも横浜のラーメン博物館が始めた店舗内外装へのこだわりを、いくつかの著名なラーメン専門店が独自にアレンジし、業界では「レトロ・ビジュアル系」などと呼ばれてひとつの流行となっているスタイルだが、こうした有名ラーメン店に比べても、同店が醸し出す雰囲気は十分に本格的だ。

このこだわりは店内にも十分に生かされ、四方の壁には振り子式の掛時計や古い木製箱ラジオ、金属羽根の扇風機、懐かしい映画のポスターなどが飾られているほか、出入口の上部には手書きの映画看板風のパネルが掲げられている。

U字型のカウンターは客席のみで厨房は奥に引っ込んでいるため、職人を使わずチェーンとして効率化した作業オペレーションを来店客に見せることはない。

商品自体は、豚骨スープをベースに地醤油を用いたたれを使用した、こってりタイプのオーソドックスな関西系醤油ラーメンであり、麺はオリジナルの細麺、薩摩の黒豚で作ったチャーシューが売り物のひとつだ。

「ラーメン」(五六〇円)のほか、「四天王ラーメン」(七八〇円)、「チャーシューメン」(八八〇円)、「焼餃子」(二八〇円)など、専門店としては比較的低い価格帯で若者などの支持を集めている。

贔屓屋グループは、一九五六年に「信和商事」として創業。八〇年に「贔屓屋」の一号店を梅田に出店し、九五年には「加ト吉」との資本提携によって経営基盤を固め、昨年3月には大証に上場している。

さまざまな業態で、直営とFCを併せた店舗数は六〇店舗以上を有しているが、ラーメン四天王の直営店舗は、これまでにも守口市の「大日店」、大阪のトレンド発信地「南船場店」、曽根崎の「お初天神通り店」、今期出店したばかりの「都島店」、神戸三ノ宮の「北野坂店」の五店舗を出店しており、今回の「鰻谷通り店」は直営六店舗目となる。

同社では、このラーメン店を主力業態のひとつとして位置づけ、今後の経営の柱として展開していく予定とのことだ。

○店舗データ

◆「ラーメン四天王」鰻谷通り店(大阪市中央区心斎橋筋一‐二‐八、06・6253・8875)企業名=贔屓屋/開業=平成12年10月1日/席数=三〇席/営業時間=平日・午前11時~午前5時、日祝・午前11時~午後11時

○取材者の視点

昨年3月に大証二部に上場し、4月にはエスニックの「オリエンタルスーク渋谷店」で関東に進出。「ちゃんとフードサービス」に続いて、トレンド系の飲食業態を引っさげて関西から全国制覇を狙う贔屓屋グループの主力業態のひとつが、この「ラーメン四天王」である。

同社の店舗は大阪ではあまりにポピュラーなためか、すでにグルメ情報誌などに紹介されていない店も多いが、同店にも程近い難波にも数多くの店舗を出店している。

例えば戎橋のすぐ近くには、「贔屓屋グルメビル」と呼ばれる丸ごと同社グループの店舗が入ったビルがあるが、このビルの地下は昨夏に洋風居酒屋から業態変更した飲茶専門店の新業態店舗である。

周辺には風俗店のような飲み屋も多く、決して若い女性がぶらぶらするような雰囲気の通りではないのだが、この店の平日午後の飲茶バイキングには、カップルなどが階段を地上まで並んで入店を待っていた。雰囲気よりも実質を取る関西人ならではの光景だろうか。

このように、大阪の繁華街を歩けば、いや応なしに目に飛び込んでくるのが贔屓屋の看板だといえるほど、関西ドミナントでは強力な地盤を持つ同社なのだが、関東での知名度はまだこれからといった状況である。

同社の店づくりは、かなり凝った内外装のものが多く、狭いエリアに古い建物と新しいビルとが同居する大阪の繁華街のような街並みにはたいへんよく似合っている。

こうした店づくりを、すでに古い街並みがほとんど消えてしまった東京ではどのように生かすつもりなのか、同社の関東における今後の展開には、ぜひ注目したい。

◆筆者紹介◆

商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画、運営を手がけ、SCの企画業務などを経て商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援などを幅広く手がける。

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