名古屋版・繁盛店ルポ:洋食亭「風舎」
愛知県・知多半島の中心部である武豊町に本物志向の店があると聞いて訪れたのは、洋食亭「風舎」。明治4年に建てられたという純日本家屋の店は、その昔、当地で盛んな醸造業を営んでいた人が実際に住んでいた建物だ。席数五〇席の店内は、日本家屋の持つ木のぬくもりに包まれている。木製のテーブルはすべて家具職人の手によるもので、食器は常滑焼きの若い作家たちが焼き上げたものだという。
所々に細部へのこだわりが伝わってくる。「料理も手を抜きません」と話すのは、風舎をはじめ、愛知県半田市を中心に飲食店やパン工房、雑貨店などを幅広く展開する(有)ミルキーコーク取締役の川内剛さん。「イタリアンやフレンチの技法を取り入れ、昔ながらのきちっとした洋食を提供するお店」がこの店のコンセプトだという。
こだわりの料理はという質問に対し、川内さんいわく、「特製のデミグラスソースを使った料理ならなんでもおいしいですよ」と自信満々な答えが返ってきた。「私たちはルーを使ったデミグラスソースではなく、野菜や牛肉のだしを煮込んだグラスドビアンをそのままソースに使いますから、うまみが強いですね」。デミグラスソースをはじめ、既製品は一切使わず手作りだという。
魚料理、肉料理と単品メニューも豊富だが、「コース料理がよく出ますね」という自慢の「昼膳」は日替わりランチで、和食、フレンチ、イタリアンがそれぞれ楽しめ、価格は二一〇〇円。
愛知県半田市を中心に現在一五店鋪を展開しているが、同じ形の店は一店もないという。このエリアで客に楽しんでもらうにはどうすればいいかを考えてのことだ。
「お店にとってお客様は第一です。だからこそお客様に楽しんでいただけるお店がいい。そのためにはどこに行っても同じ店ではつまらない」
また働く側にとっても働きがいのある店でなくてはならないと川内氏は言う。
「自分たちが楽しくないとお客様に楽しんでもらうことはできない。どんな店をつくれば楽しいか、常にアイデアを出し合っています」と、「本物志向」を貫く半面、「変えられるところがあればいつでも変えていく」という姿勢が大切だとも語る。
「お客様に出すパンくらい自分の店で焼こう」というのも、そんなアイデアの一つ。もともとパンも焼いていたが厨房では調理がメーンとなるため、独立したパン専門店をつくろうとしたのがきっかけだった。
常滑市と半田市にある「パン工房風舎」はお店用に作っていたパンを販売しているので、食パンやフランスパンなど、食事として食べられるパンが中心。無添加、天然酵母で焼いており、評判も上々だ。「一度食べたらほかのパンが食べられなくなりますよ」と笑みを見せた川内さんの言葉通り、食パン一切れを口の中に入れてみると、耳の部分の香ばしさとモチモチとした食感で思わず顔がほころんだ。
二〇代後半からお年寄りまで幅広い層に人気のある風舎。春の便りが聞かれるこの季節、木造家屋の持つ木のぬくもりとどことなく懐かしい雰囲気の中で、「本物の味」を楽しむのもいいだろう。
◇売れ筋メニューベスト3品
1位=和牛肉のカルパッチョ(八八〇円)
2位=仔羊のニンニクのロースト(一六〇〇円)
3位=マグロとアボカドのわさび和え(六八〇円)
◇店長が信頼する愛用食材
「ソースの隠し味に使っています」と川内氏が愛用しているのは地元・武豊の醸造メーカー、泉万醸造の溜醤油。
「溜醤油はうまみ成分が多く、少量でいい味が出ます。カルパッチョのコク出しにもいいですよ」
また「たまりのうまみ成分はフォンドボーに近いので、肉との相性が抜群にいいですね」と「本物志向」のこの店で違和感なく使える調味料とのことだ。
◆洋食亭「風舎」(愛知県知多郡武豊町六貫山五丁目七〇、電話0569・73・7003)営業時間=平日午前11時30分~午後2時30分、5時~10時30分。毎週月曜日定休