狂牛病問題を考える・世界一の「和牛の味」守れ 染矢清亜氏
テレビ画面に、懐かしい顔があった。
狂牛病問題で記者会見する農水省のN畜産部長。昔、『日米牛肉戦争』という“業界のベストセラー”を書いていただき、以来、足を向けて寝ていないのだが、今回の対応はそれを裏切るものであった。
なぜ世界的視野を持つプロ中のプロが、答弁を二転三転させたのか。農水、厚生労働という“二元行政”が悪いのか。一応、武部農水相による「肉骨粉の生産・流通の全面禁止」処置により一区切りついたが、「牛を牛に食べさせる」(畜産リサイクル)という世界レベルの問題は、深く重いと言わざるを得ない。
乳牛が四股を震わせてどっと倒れる英国のVTRは、繰り返し放映され、米国の同時多発テロの映像と重なり、お茶の間に衝撃を与え続けた。マスコミ各社もここぞとばかりに国産牛肉の“不買キャンペーン”を展開、「輸入牛肉(豪州、米国産など)は安全」という外食各大手(マクドナルド、吉野家、牛角ほか)という“おまけ”までついた。
一方、厚生労働省は「狂牛病の牛の乳や肉(骨格筋)から、異常プリオン(タンパク)は発見されていない。まして健康な牛の乳や肉の危険性は非常に小さい。消費者は栄養摂取もあり、冷静な対処を」(厚生労働省「牛海綿状脳症に関する研究班」班長、品川森一・帯広畜産大学教授)と見解を公表したが、「安全宣言」には程遠いものであった。
筆者が最も恐れるのは、牛の角が生えているものを、すべて「狂牛病の牛」にしてしまうこと。高価ゆえに今でも敬遠されている「和牛」というわが国の貴重な資源が、これをきっかけにして減り続けはしないかということである。
サシ(脂肪交雑)の入った和牛(黒毛和種、渇毛和種、日本短角種など)は、飼育方法や配合飼料なども乳牛とは異なり、その「霜降り牛肉」は世界一の味といわれており、料理の「すき焼き」(「スキヤキ」という歌にもなっている)とともに、“世界の文化遺産”といっても決して過言ではない。
過日、三重・松阪の料亭「和田金」で「すき焼き弁当」を食べたことがあったが、そのおいしかったこと。筆舌に表しがたしという言葉があるが、牛肉は舌の上で溶けるほど軟らかく、美味そのものであった。このようなわが国独自の食文化の灯りを消してはならない。政府の強力な危機管理を望みたい。
(ミートジャーナル社代表 染矢清亜)