飲食トレンド:六本木ヒルズに「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」開店
フレンチ不況のなか、巻き返しの試金石と目される「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」が六本木ヒルズにオープンした。オープンキッチン&オールカウンター席を売り物に「コンビビアリテ」(仏語:懇親性)を訴求する新たな試みだ。巨匠ロブションの復活とあって仏料理界のみならず外食関係者の視線は熱い。
“コンビビアリテ”を打ち出す要は、オープンキッチンを取り囲むカウンター約五〇席だ。すし屋や鉄板焼き店のように、旬素材やお奨め料理を紹介したり、客の好みや気分に応じて調理するなど、スタッフと気軽に会話を楽しませる“快適な居心地”を演出する趣である。七年前、「最高の状態でやめたい」として現場を退いたロブションが、復活の第一歩として「まったく新しいスタイルのフランス料理を世界に提案」するものだ。
「仏料理は厨房と客席が隔離され、格式や装飾に凝ったイメージが先行しています。開かれた仏料理の実現に向けてロブション氏は復活しました。その構想に火をつけたヒントは和食の対面調理と接客サービス、スペインのバールの楽しい雰囲気と聞きます」というのは同店を手掛ける(株)フォーシーズの松井件専務取締役。
「フュージョン料理が流行だが、日本人の味覚感性に合った原点回帰の潮流が訪れるはず。四季の旬素材を使ったシンプルかつ正統な仏料理を、日本人嗜好の対面調理で提供します」という。
ロブションは、今月パリに同じ構想の店をオープンする予定だ。
フランス料理文化センターの大沢晴美事務局長は、仏国内の外食トレンドについて「料理専門学校や若手シェフは、新たな調理化学の習得に意欲的で、従来の格式にとらわれないコンセプト主導の新業態開発がめざましい」という。
オープンキッチン&カウンター席の仏料理店は数多い。だが、それらの開発コンセプトは、オーナーの意向があるにせよ、立地・客層・資金面によるウエートが大きい。多額投資でロブションを看板に六本木ヒルズという最先端エリアで展開する同店とは明らかに一線を画する。その意味で新たに投げかける波紋は大きい。
かつて仏料理は、ポールボキューズやトロワグロらが京懐石をヒントにヌーベル・キュイジーヌを推し進め、一時代を確立した。対面調理・接客という日本独特の外食文化を参考とするロブションの試みは、次なる日本発・和仏融合の潮流として注目されるところだ。
◆店舗案内
「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」/所在地=東京都港区六本木6‐10‐1、六本木ヒルズヒルサイド2階、電話03・5772・7500/営業時間=午前11時~午後11時(予約不可)/坪数席数=161坪(うち30坪はベーカリー販売)50席/客単価=昼4000円~・夜8000円~/目標月商=4000万円/経営=(株)フォーシーズ(東京都港区、電話03・3409・6000)
●20世紀最高の料理人
ジョエル・ロブション=三一歳でMOF(フランス最優秀職人賞)受賞。三九歳でミシュラン三ツ星を史上最短記録で獲得。二〇世紀最高の料理人と賞賛されている