注目!ココが光る技あり店(10)FC加盟店舗編「横浜天下鳥桜木町店」
一般的に「焼き鳥」と聞けば、赤ちょうちんに縄のれん、ガード下、目に染みる煙、そしてお約束の頑固親父を連想するところだが、横浜市中区に登場した「横浜天下鳥」はそういったイメージを払拭した焼き鳥店だ。(有)KーGROUPの関澤健代表(29)が経営する横浜天下鳥桜木町店は、東急東横線桜木町駅から徒歩五分、古き良き横浜の面影を色濃く残す野毛桜通りにある。この周辺は数十軒の焼き鳥店が軒を連ね、横浜でも有数の焼き鳥激戦区だが、関澤氏は「ここで成功できればどこでも通用する!」と三年前にオープンし見事繁盛店にした。現在従業員の平均年齢二三~二四歳。みなとみらい横浜の地に開花した、未来を予感させる焼き鳥の新スタイル、その成功の光る技を探ってみよう。
■FC加盟と独立の動機
「朝は、自宅(藤沢市)近くの海岸を犬と散歩したり、趣味のサーフィンを楽しんでから店に出ます」と語る関澤氏には、俗にささやかれるFC起業家の「早く成功しなくちゃ」といった緊迫感はまったく感じられない。
海が好きな関澤氏の趣味はサーフィン。実は専門学校を卒業後、ヨットづくりにあこがれ造船所に入社した。しかし、一年近い年月を要し一隻の船がようやく完成する造船という仕事は自分の技術力の向上を、ヨットが海に出るまで実感できない。次第に「もっと上達が実感できる仕事をしたい」と思うようになった。
しかし、料理だったら作ってすぐにお客が「おいしい」とか「まずい」と反応してくれる。同じモノづくりでも、そのスピード感が全く違う。そこで心機一転、フレンチのシェフの道を目指すことに決めた。海好きの関澤氏が選んだのは「湘南ホテル」のフレンチレストランであった。
ところが、そこで(株)リパブリックの鈴木正一代表と運命的な出会いをする。フレンチが最高と思っていた関澤氏にとって横浜天下鳥の焼き鳥は正に衝撃的なおいしさだった。これを機にホテルを退社し(株)リパブリックに入社、約二年後には横浜天下鳥のフランチャイズ一号店として現在の店をオープンさせた。
二七歳、二〇〇〇年9月、自己資金三〇〇万円と信用金庫から一一七五万円の融資を受け、自らが外食業界という大海原へ出航することになったわけである。
■店舗の運営手法について
現在、従業員二人とアルバイト五人の体制で年中無休の営業だ。オープン当時は認知度が低く駅前でチラシを配ったりしたが、今は一日平均約三〇人の来店者がある。
人気は地鶏コース(一〇二〇円)で、秘伝のたれや秘密の塩で味付ける甲州地鶏は、契約農家の指定飼料で育てられ、紀州備長炭で焼く。シンプルでありながら安くて、うまいと常連客は徐々に増えている。
店舗は、木や土壁といった和風のテーストを生かしながら、照明を明るくして親しみやすい雰囲気を演出している。セットバックした店頭は、神社の鳥居を連想させるような門構えで、「高級なお店なのでは?」と一瞬ひるむが、そのメニューをのぞくと実に庶民的な値段(ねぎま一五〇円ほか)でうれしい期待の裏切り方をしてくれる。
その効果が次第に業績に反映し、客層はサラリーマンから、主婦層、カップルと老若男女を問わずバラエティーに富んでいる。
■他のFCとはココが違う
これまでの関澤代表の話から、自分がいいと思えばすぐに新境地へ飛び込むなかなかの行動派の印象を持つ。しかし本人は「いえ、行動派というよりおいしいものを追求したい職人堅気なだけです」という。もっとも鈴木社長からは、職人堅気だけでは駄目、モノを売る技術を身に付けるようにとみっちり鍛えられたそうだ。
おいしいものへの探求心と、経営管理の両立というのは、実は若い経営者にとってなかなか難しい課題だ。その点横浜天下鳥の本部は、本当に力になってくれると関澤氏はいう。
例えば売上高は、POSレジで常時管理されるので多少の落ち込みでも、本部からすぐに広告やキャンペーン実施など改善策の提案を受けることができる。
また、若さという最大の武器が、ときには幅広い客層に対応する接客面での迷いを生じさせることもある。そんなときも本部が、きめ細かくフォローし働きやすい舞台づくりを支援している。
「今年12月には川崎駅前に二号店をオープンする予定です。実際にこれを全部自分で計画しようと思ったら無理です」と話す関澤氏。一見行動派に見えるが、じっくり二店舗目の出店候補を探し、FC本部との連携を密に取る。
FCノウハウを素直に享受する若き経営者の光る技は、その行動力と慎重さのバランス感覚なのかも知れない。
■将来の目標・ビジョン
店内の壁に「天」「下」「鳥」と、それぞれ一字の壮大な書が描かれ飾られている。その中央にある「下」の字の趣きがちょっと違う。実は「下」の点の部分が故意に上向きで描かれているのだ。「どんどん伸し上がる」という関澤氏の心模様が、この字からも伝わってくる。
そんな関澤氏に、今後の目標を尋ねると「鈴木社長より金持ちになることです」という。穏やかな外見とは想像もできない熱い情熱であふれているようだ。
そして12月にオープン予定の川崎店は、いま注目のスポット。桜木町とは違うコンセプトで、ハイテクな雰囲気の焼き鳥店を考えている。
●店舗データ●
店名=横浜天下鳥 桜木町店/所在地=神奈川県横浜市中区花咲町一二、リバーサイド桜木町、電話045・262・4144/店長=関澤健/店舗面積=一九坪/客単価=三〇〇〇円/日平均来客者数=二〇~三〇人/目標月商=二七〇万円
●本部データ●
企業名=(株)リパブリック/FC本部=神奈川県茅ヶ崎市共恵一‐六‐二七、電話0467・58・5144/店舗加盟数=直営店三店舗、FC五店舗(七店舗準備中)/モデル収支(一八坪四〇席)=売上高二五〇万円、原価費八〇万円、人件費四五万円、家賃二七・五万円、水道光熱費一〇万円、その他消耗品レンタル等一・七五万円、加盟賦課金七・五万円、償却前オーナー利益六二・五万円、減価償却費一五万円、営業利益四七・五万円
◆FC本部担当者からのコメント
当社の「横浜天下鳥」は、既存の焼き鳥とは一線を画した高品質を打ち出し、しかも低価格を実現し注目されてきました。最近はたくさんのFC加盟希望から問い合わせがあります。実際に京都や徳島にまで拡大しました。
もともとFC展開を念頭に業態開発していましたから、独立者が多店舗経営できるようなシステムづくりを構築してあります。独立する以上は各オーナーにも多店舗展開のだいご味を体験していただきたいと思っています。もちろんFC本部として、例えば、コストのかかるITソリューションは外部ASPを積極的に活用し、売上げ管理から商材発注データ管理までを効率化しました。
また、個人では持ち得ない立地選定ノウハウ、過去の実績による高い信用力での資金調達も支援できます。関澤オーナーは、そのような横浜天下鳥のコンセプトを十分に吸収し成長しているオーナーといえるでしょう。今年12月にオープン予定の川崎店でも競合店と真っ向勝負で天下を取っていただきたいと思います。
((株)リパブリック代表取締役・鈴木正一氏)
◆筆者からのコメント
横浜天下鳥FCオーナーは二〇~三〇歳代と皆若い。この年齢で独立するにはかなりの運と度胸が必要なのではないかと取材に向かったが、お会いした関澤氏は、青年実業家といった気負いもなく、意外なほど淡々と店を運営していた。つまり、横浜天下鳥の味と、店づくりのコンセプトが、しっかり時代のニーズにマッチしているので、無駄な力が必要ないのであろう。それは約二年間の本部での勤務経験が、既に成功のシナリオを完成させていたかのようである。
自由主義経済のさがとして、今後は類似店舗の登場は避けられない。つまり二号店以降で関澤氏の力量が問われることになる。行動派でありながら慎重、そんな関澤オーナーの今後の展開に期待したい。
((有)マネジメントプロセス アソシエイトスタッフ・コンサルタント 東山世司子)