御意見番:居酒屋 石井誠二・八百八町代表取締役

2004.01.15 279号 6面

最近お客様に教えられたことは「本来の居酒屋の役割でないものが主流になっている」ということだ。居酒屋とは、単なる飲食屋ではない。時代ごとにお客さんに育てられ、人々のコミュニケーションと文化をはぐくむ役割を担ってきた。これからの時代に、まずわれわれがどういう役割を担っていくかを考えなければならない。

ひとつは、生活者が必要な「間」と「気」を提供すること。仲間が集い、自分の気持ちを伝え、相手の気持ちを理解する、気の交流ができる間。

二つ目は、日本の食文化の原点を居酒屋が担っていくこと。日本型食生活が崩れてきている。こうあるべきだと提案していくのがわれわれの役割ではないかと思う。これはファミレスやファストフードではできない。

原点に戻ると、海に囲まれている日本列島はどこにでも「魚の干物」がある。聞いてみると一〇人中五人は干物が好きだ、食べたいという。そこで干物をメーンにした居酒屋をつくった。現在四店舗を展開している。

店のコンセプトは漁師小屋。漁師のおじさんが自分の釣った魚を囲炉裏で干物にして、客人に振舞うという感じを出した。全国の干物を三〇種類くらいそろえている。

最近の居酒屋は、多様なメニューを取り入れるあまり、ファミレス化してしまっている。居酒屋に限らず、業種業態の垣根がなくなってきた。食べる側は、選択に困るくらい情報があふれていて、逆に何を食べたらいいか分からなくなっている。

お客のニーズを総ざらいして勝負する時代は終わった。大きな市場を狙うのではなく、わざと垣根を作って得意分野にのめりこみ、その価値を高めた小さな市場をいくつもつくることだ。

居酒屋の利用の仕方も、五人以上のグループで飲むというスタイルから、一人~三人という小人数が八割を占めるようになった。これからは価格訴求ではなく、サービスの戦い。日本人の平均年齢は五〇歳を超えている。ファミレス化したサービスでは、中高年はくつろぎを得られない。居酒屋は気をもらいにいくところだ。

これからは「何が売れるか」ではなく、店のターゲットを明確にして、その人たちに「何を売るか」「どんなサービスを提供するか」が重要。ぼやっとしていては苦しくなる。

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