高度成長する惣菜・デリ どんぶりメニュー不況時でも絶好調
この不況下にあって、俄然好調なのが「どんぶり」である。和風ファストフードの代表格といえる、牛丼チェーンの吉野家D&Cの躍進ぶりはもちろんであるが、新たに天丼、海鮮丼をチェーン展開する企業が登場、にわかに脚光を浴び始めている。
また、大手レストランチェーンでも、今やお値打ち感のあるカジュアルメニューとして重要視され、一方、百貨店、スーパー、CVSの惣菜コーナーにおいても、ビジネスマン、OLの昼食や、中高生の間食・夜食、単身者の手軽な夕食としても人気の高い商品となっている。
さらに、家庭用レトルト食品の領域でも、江崎グリコの「DONBURI」のヒットを皮切りに食品メーカー各社より新製品投入が相次ぎ、最近では永谷園の「一膳どんぶり」などが好調な売上推移を示している。
こうして見ると、外食、中食、内食のいずれの市場においても、「どんぶり」はいま最も勢いのある食品であり、メニューであると言えよう。
「どんぶり」の魅力とは何か。それは、主菜であるご飯と副菜である具材が見事にワンパッケージ化したバランス性と合理性にある。主菜と副菜の組み合わせで多様なバリエーションが楽しめ、シーズン性、グレード性も出しやすい。また、老若男女のさまざまな食事機会にもマッチングするポピュラー性もその魅力である。
今回は「どんぶり」の新しい魅力づけで若い女性層をつかみ、どんぶりブームの火付け役となった「THE丼」を紹介しよう。
《ターゲットは女性 男性も満足の内容 海鮮どんぶり専門店》 ㈱どんは、ダスキン(六〇%)と日本水産(四〇%)の合弁で設立された。同社が展開する海鮮どんぶり専門店「THE丼」は、平成3年12月に大阪・江坂に一号店を出店以来、一五ヵ月間で近畿圏に一三店、東京に四店をオープンさせた。
「THE丼」の特徴は、何と言っても女性客の比率が平均六〇%を超えていること。男性客九〇%の吉野家との大きな違いはここにある。最近の食トレンドの影には必ずと言って良いほど、若い女性層がいる。そうした意味では、今日のどんぶりブームの仕掛人は「THE丼」であると言えよう。
同チェーンで使用される食材は、日本水産の工場でメニューごとにポーションカットされた切り身の状態で冷凍配送される。各店舗ではその切り身を解凍し、ご飯を盛り付けるだけというシンプルなオペレーションなので、注文を受けてから約三分で提供できる。水産会社ならではの冷凍技術と解凍技術に裏打ちされた「どんぶりのファストフード化」の実現である。
一八種類のメニューのプライスゾーンは最低五八〇円の「鉄火丼」「たら親子丼」から最高一二八〇円の「うみのもり丼」まで。客単価は一般の単品型和風ファストフードに比べると若干高い。しかし、寿司屋や和食レストランの海鮮丼に比べるとはるかに安い。店舗ディスプレーやメニューアイテムから言って、同チェーンが狙っているターゲットはもちろん女性層だが、一人前のご飯の量二八〇㌘、ネタ八〇~一〇〇㌘を合わせて三六〇~三八〇㌘というラインは男性層でも十分に満足できる分量だ。
標準店舗規模で二五~三〇坪。人員配置はピークタイムでも厨房とフロントでそれぞれ各三名ずつの計六名で十分オペレーション可能。人件費比率は売上高対比二〇%前後に抑えられている。
東京への進出は昨年9月の東陽町イースト21内をスタートに同年10月多摩センターに今年に入ってからは、3月に日比谷三井ビル店と新宿野村ビル店を同時出店させた。
《テイクアウト メニュー導入で 10%アップ狙う》 この出店と同時期に、持ち帰りメニューの導入という新展開を打ち出している。それは海鮮丼のテイクアウトメニューとランチタイムの特製おべんとうの導入だ。
テイクアウトメニューについては、今年1月下旬から近畿圏の三店舗でテスト販売していた。海鮮丼は生の魚介類を温かいご飯の上に乗せるため、テイクアウト用としては牛丼や天丼と違って品質、鮮度の維持が難しかったが、具材とご飯を分けたテイクアウト専用容器の開発で、これらの問題がクリアできたわけである。「鉄火丼」「イクラ丼」など五種類をイートインと同じ価格で販売、一店舗当たり二〇食、休日には五〇食前後のオーダーが入るという好調な売行きから、今回の全店本格導入に至ったのである。
また、最新店舗の日比谷三井ビル店、新宿野村ビル店では、ビジネス街立地ということもあり、ランチタイムのテイクアウト商品として、「うなぎ丼」「深川丼」を開発、いずれも五〇〇円という超破格値で提供している。これらのテイクアウト展開により来店客数を一〇%アップしたい考えだ。
海鮮どんぶり専門店としてのこだわりとともに、持ち帰りニーズにもいち早く対応していることは高く評価できよう。「どんぶり」は、単品で食事が成立するという点でさらに大衆化の方向に進むであろう。今後、中食マーケットにおいて最もホットな戦いは「弁当Vs丼」であるかもしれない。