厨房のウラ側チェック(29)牛肉の熟成とその科学(その5)

1993.06.07 29号 18面

ここでは、死後硬直完了期から解硬が始まり、そして、熟成へと進んでいく肉の状態について簡潔に説明しよう。

肉の硬直解除、いわゆる軟化は、筋原繊維の構造変化として、①Z線の脆弱化、②アクチン・ミオシン間結合の脆弱化、③コネクチン編目構造の脆弱化等を上げることができる。Z線の脆弱化は、カルシウムイオンが非酵素反応により一万分の一モルの濃度で最大に促進される。

また、物理的な作用で、硬直という最大の張力が発生するときにZ線の脆弱化が起こり、そして持続的収縮の張力で脆弱化を促進する。

現在、と畜場で行われている枝肉を吊るすのも、骨による拘束が短縮を防ぐだけでなく、Z線の脆弱化も促進している訳なのである。

次に、アクチン・ミオシン間結合の脆弱化について述べる。筋原繊維のA帯にあるパラトロポリミオシンが熟成によるカルシウムイオンの上昇により遊離し、I帯のアクチンと結合してアクチン・ミオシン間結合を脆弱化する。コネクチンの脆弱化においても、やはりカルシウムイオンの上昇による直接作用であると考えられている。

次に、筋原繊維以外の軟化に関係するものとして、結合組織がある。この結合組織は筋繊維を包む筋内膜と筋繊維束を囲む筋内膜のコラーげン繊維である。コラーゲン繊維は、動物の年齢と共に不溶性のコラーゲンが増加して、食肉の硬さに影響を与える。

では、食肉の熟成を知るための物差しとしては、どのようなものがあるのだろうか。①解糖系の糖・グリコーゲンによるPH・乳酸、②アクトミオシン間結合のタンパク質による硬さ・専断力、③プロテアーゼ分解によるアミノ酸定量、④酸化によるWOF( warmed over flaver )のTBAとVBN、⑤ATP分解によるK値・HX比・イノシン酸、⑥自由水の増加による保水性・クッキングクロス、⑦その他官能検査やブリックスなどがあげられる。

以上、七項目の熟成に係る重要なテーマに基づき、いろいろなデータと共に進めていこう。

また、詳細を知りたい読者は、高橋興成先生並びに目黒煕先生の論文を読んでください。

食品衛生コンサルタント

藤 洋

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