外食ビジネス・ニューウエーブ 「駅ナカ」活性化で新たなフードマーケット

2004.10.04 292号 4面

首都圏のJRや大手私鉄などを中心に、鉄道各社による駅構内の商業スペースの活性化、いわゆる「駅ナカ」の開発が活発化している。昨年暮れの「日経ヒット商品番付」でも、駅ナカは「踊る大捜査線」より上の「東の関脇」にランクインしていたが、最近では、女性向け情報誌の老舗である「Hanako」の2004年8月4日号で、「最新!『駅なか』超便利ブック」と題して、首都圏の主要16駅をクローズアップした駅ナカが特集されるなど、業界だけではなく一般利用者の間でも駅ナカは大きな話題となりつつある。

◆駅施設の収益性向上へ

駅ナカとは、鉄道会社が進める駅構内(特に改札の内側)のスペースの有効活用や、提供する商品・サービスの見直しという「新しいトレンド」を総称した言葉であり、その目的は、当然のことながら駅施設としての収益性の向上である。

首都圏の主要駅周辺の大型再開発にともなってクローズアップされつつある駅ナカビジネスであるが、そもそも駅ナカの開発とは、一〇年近く前に、多くの乗降客が乗り降りする梅田(大阪)~三宮(神戸)という拠点駅を有する阪急電鉄が、その間の準拠点駅において収益を高めたいという目的で、一三駅のホームでコンビニを直営で出店したあたりから本格化したといわれている。

JR東日本では、本業の運輸収入が不況や少子化の影響で減少を続けており、ピーク時の一九九二年度と比べて、現在は約七〇〇億円以上も少なくなっている。しかし同時に、管轄内で一日あたり一六〇〇万人という駅利用者によって、売店や飲食店などの売上高は年間三七〇〇億円にものぼるという集計もあり、鉄道事業における駅ナカビジネスの重要性は日増しに高まっているといえるだろう。

これまでも、鉄道各社は駅ビル事業や売店などによって本業以外に多くの収益を上げてきたが、従来のこうした駅施設付帯事業と駅ナカビジネスとの大きな違いは、そのスタンスにある。あくまで本業である鉄道での駅利用者に対する付帯サービスや余剰人員対策として、あるいは駅ビルのように、グループ会社による不動産有効活用事業としてテナント誘致を行ってきたビジネス展開とは異なり、駅ナカとは、本体である鉄道会社が、自ら商業ビジネスの主体として、積極的に独自の企画で駅構内の商業開発、売場づくりを主導し始めたという変化を象徴するキーワードなのである。

つまり、鉄道各社は駅そのものが「金のなる超一等地」だと気付き始めたということなのだ。

こうした状況の中、JR東日本では昨年、グループ内の各社から若手社員を中心に公募を行って三〇代の取締役二人を抜擢し、駅ナカビジネスの専門会社を設立した。この会社は来年度に増床開業する大型駅の商業施設を独自に企画、運営する計画であるが、この施設内には保育所や病院などの設置も計画され、駅の持つ可能性を最大限に引き出す試みが数多く盛り込まれる予定だ。

そうして、こうした駅ナカの活性化が進み、駅が単なる交通の拠点だけではなくなるとすれば、必然的に、そこでの外食利用の機会も飛躍的に増すことになる。つまり、駅ナカの発展は飲食業界にとっても大きなマーケットを生み出す可能性を秘めているといえるのだ。

◆潜在能力高い飲食店

それでは、駅ナカにおける飲食関連店舗の持つポテンシャルとはどの程度のものなのだろうか。

例えば、JRをはじめ、東武東上線、西武池袋線、地下鉄有楽町線、同丸の内線など多くの路線が集まる巨大ターミナル池袋駅には、百貨店の上層階などを除いた、地下コンコースと一階出入口周辺だけで、二〇店舗近い数の飲食店や食品販売店が存在している。

これらの店舗のほとんどが、通常の街中に位置する飲食店と同じか、むしろ短い営業時間の中で、業績の良い店では街中の飲食店の数倍の坪当たり売上高を上げる超繁盛店なのである。

具体的には、東京駅にあるJR東日本系列のおむすび店「ほんのり屋」では、一日に約六〇〇〇~七〇〇〇個の商品を売上げるというし、同様に小田急線新宿駅の改札脇にある小田急電鉄が経営する「おだむすび」は、一〇坪ほどの店舗で売上高は優に一〇〇〇万円を超すことで知られている。どちらも駅構内の改札外店舗であるが、首都圏ターミナル駅の圧倒的な販売力を見せつける見本だ。

また、JR恵比寿駅の改札内にある立ち食いうどん店「さぬきうどん」は、現在は吉野家グループの傘下に入ったファストフードのうどん店「はなまる」が、ブームの火付け役となった渋谷店を出店するよりも一足早く開店し、駅構内にありながら行列のできるうどん店として話題を呼んだ。

その他、駅ナカには現在、「スープストックトーキョー」「ハーゲンダッツ」「ベーグル&ベーグル」といった、駅以外で勢いのあるファストフード系の有力ブランド店舗も続々と出店を進めており、この傾向は、今後も加速すると見られる。

さらに、フード関連のビジネスとしては、食品メーカーが駅ナカの販売力に注目し始めたことが挙げられるだろう。JRの駅売店であるキオスクでは、大手メーカーと商品の共同開発や、新商品の先行販売といったかたちで、独自のマーケティング戦略を打ち出している。

スナック系商品やキャンデーなどの携帯菓子類は、ターゲットによってはコンビニよりも素早くユーザーの新商品に対する反応が分かることで、各メーカーとも駅ナカ販売の重要性を十分に認識しており、キオスクの要望に応じて駅売店での先行販売を前提に共同開発した新商品をスーパーやコンビニでの全国発売前に投入するなど、メーカーとしてのテスト販売も兼ねた市場調査の一環として活用している。

近年では、カネボウフーズが発売し大ヒット商品となった「甘栗むいちゃいました」もキオスク専用商品として売り出されたものであり、現在でも多くのメーカーがこうしたヒットを狙って専用商品の共同開発を行っているということだ。

◆将来性に課題はないのか

駅ナカには、すでに従来からある飲食店や雑貨売店のほかにも、ネイルサロンやエステ、マッサージ店、理髪店、ビジネスコンビニ、銀行ATM、食品スーパー、外貨両替所など、これまでとは異なったさまざまな業種やブランドの店舗が次々に出店し始めている。

しかし、現状、駅ナカに出店している店舗の多くは、実質的には各鉄道グループの系列会社が運営するものが中心だ。知名度の高いブランドの店舗が出店している場合も、その多くがフランチャイズやライセンス方式、もしくはそれに類する契約形態を取っているケースが多いのである。

本来、駅施設がある建築物は商業テナントを誘致するために造られたものではないため、駅構内は一般の商業ビルのように賃貸用のテナント区画として明確に区分されているわけではない。また、交通機関としての駅構内の構造は、鉄道会社自身や利用客の使い勝手が優先されているため、駅ナカ(特に改札の内側)に鉄道会社の系列以外の一般企業が店舗を構えることは、店舗の運営管理の上でさまざまな制約が課せられることになる。

また例えば、店舗のすぐ近くにあった入口や階段、エスカレーターなどが、ある日突然閉鎖になったり、別の場所に移転したり、駅の工事のために長期間使えなくなったりするという事態が発生する可能性もあり得るのだ。

そうした場合に、鉄道会社として、そのたびごとに影響を受ける店舗に対して営業補償などを行うわけにはいかない。鉄道各社が駅ナカ開発に力を入れ始め、増床などにより新しい店舗スペースが増えつつあるのは事実だが、駅構内という限られた範囲で飛躍的に多くのテナントスペースが発生するわけではなく、駅ナカ店舗というのは、通常のテナント契約のような賃貸契約を締結することは難しいのである。

こうした諸々の理由から、現状では駅ナカに外部の一般店舗を賃貸テナントとして誘致するという考え方は少ないようだ。このため、首都圏の大手私鉄の中でも駅ナカの具体的な開発計画はないというところもある。

つまり駅ナカとは、あくまで鉄道会社が自社グループ内で開発を進めることを前提とした商業スペースなのである。どんなに駅ナカが活性化しようと、駅ナカが従来の駅ビルのように一般テナントによって構成されることは考えにくい。

さらに進んでJR東日本に見られるように、安定したテナント賃貸事業から脱皮し、あえてリスクを取って自社経営による駅ナカ開発を進めるというビジネスモデルが模索されている以上、駅ナカは将来的に、多くの飲食企業にとって脅威となる強力なライバルとして生まれ変わる可能性があるのかも知れない。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら