トップインタビュー:デリシステム・プランニング代表取締役社長・中澤建也氏
中食の実践指導を手掛けるコンサルタント集団・(株)デリシステム・プランニングが発足し、脚光を浴びている。同社の中澤建也社長は、西友フーズの総菜部長を皮切りに中食一筋三〇年。惣菜チェーン「若菜」を事業化するなど、中食経営の第一人者として知られる。中澤社長に中食市場の動向について聞いた。
‐‐昨今の中食市場全般の動向について。
中澤 ようやく、中食というカテゴリーが確立してきた感がある。七~八社は上場を果たした。若年層による中食利用頻度も、飛躍的に増加。多くの企業が、中食の利便性に可能性を見出し、参入の機会を狙っている。中食は、市場規模が未だ正確に把握されていない。
しかし、伸びる可能性・将来性を秘めている。中食市場はまず、CVSの日販によって成長が始まり、百貨店が現在、市場けん引役を担う。ただ、「デパチカ」市場依存では、大幅な市場伸長率は見込めない。代わって量販店をはじめとするSCなどによる市場伸長率増が期待できる。
一方、フリースタンディング惣菜専門店の動向が大いに注目される。首都圏で四~五社が参入。市場活性化の一翼を担っている。
参入業者の経営手法を概観すると、非常に興味深い。外食の経験を生かす、あるいはCVSの経営手法を生かす企業等々。各社、試行錯誤を重ねており、中食市場の潜在可能性を立証している。
路面店に関する限り、「オリジン東秀」の独走状態に異論を挟む余地はないだろう。フリースタンディングの場合、単独客動員力の強さが成功のキーとなる。その点で、「オリジン東秀」のフォーマット完成度の高さは評価に値する。同社に、他社が追いつくことが難しいことも事実だ。
‐‐中食市場は百貨店の何に触発されたのか。
中澤 品揃えの多様さ。商品開発のユニークさ。やや「非日常的」な食材を使用し、魅力的な商品開発を行う。これらの点に触発される。「柿安」なども売りにしているように、最終調理を店舗で行う。このたぐいのパフォーマンスは見逃せない。
また、お客さまの来店頻度の飛躍的上昇に合わせ、メニュー入れ替え頻度もはるかに高くなっている。
以上、今後、デパチカに代わり市場けん引役の一翼を担うSCは、百貨店に学ぶべき事柄が多い。
量販店は本来、地域社会の中で「台所的」機能を担う。この機能は、高い地価という立地条件を余儀なくされる百貨店のものではない。本来、住宅街に隣接する量販店のものだ。量販店が主体となり、中食市場を大幅に変貌させていくだろう。
‐‐新たに立ち上げた貴社の事業内容は。
中澤 製造小売業としての、惣菜業発展のサポートを主眼とする。事業内容主軸は三点。
一点目、惣菜業は少量多品種生産業。バックヤードでの製造が基本。したがって、初期投資が少なく、投資リスクが低い。この点を強調。中食市場での経験豊富な実務者を現場へ派遣。マーケットニーズへの、素早い対応を可能とする、差別化されたコンサルティングを当社は推進する。
二点目、大きな可能性を秘める、フリースタンディング店舗展開。路面店運営サポートとして、商標「八季」供与と付帯ソフト・ノウハウを提供。
三点目、短期間で店舗オペレーションを習得・実現し得る人材のトレーニング受託・派遣。惣菜業にとって、「出来たてのおいしさ」の提供は生命線。最終調理過程がしっかりとした店舗展開には、優秀な人材登用が不可欠。したがって、事業内容中、人材育成に最大限の力を注ぐ。優れた人材育成・派遣なくして、惣菜業発展はあり得ない。
‐‐メニューニーズの潮流については。
中澤 ヘルシー志向も追い風となり、和食惣菜はベーシックな商材として、堅実なニーズを保持している。今後の売上げ増も期待できる。
一方、洋食惣菜は、和食惣菜より一段下の位置付けに置かれている感があった。しかし、百貨店が、サラダを主として、ヘルシーさをアピールできる洋食惣菜開発・販促を、積極的に推し進めた。結果、洋食惣菜全体の良さが見直された。ただ、洋食惣菜需要の伸びは、百貨店でのものであり、SCでは需要増は顕著ではない。この違いに着目すべきだ。
中華惣菜の供食スタイルには変化は見られない。換言するなら、一昔前も現在も、中華惣菜は安定したニーズを獲得しているといえる。また、米飯が需要を大きく引き上げて来たことは事実だ。「簡便的主食」。つまり、弁当が市場けん引役を担ってはいる。弁当の売上げ増なくして全体の売上げ増はあり得なかった。売上高全体の三~四割、店舗によっては六割近くを弁当が占める。
しかし今後、米飯主導の延長線上に中食の将来はないと断言できる。少子高齢化の時代にあっては、魅力的な惣菜開発が、とにかく必須だ。年代の高い消費者にとり、「飯を炊くこと」は苦にならない。主食は家で準備できるが、おいしいおかずが欲しい。この状況故に、魅力的な惣菜開発が、今後、中食市場に一層求められよう。
‐‐包材活用については。
中澤 包装資材に関しても、大きなイノベーションが進行している。商品開発と包装資材開発は一体。食卓にそのまま乗せて見栄えのする容器と、魅力的な惣菜開発を同時進行させていかなければならない。
また、使用後廃棄しても、有害物質を排出しない包装資材の開発にも、力を入れて取り組むべきだ。
‐‐オール電化厨房による経営改革を推奨しているが。
中澤 オール電化厨房は、量販店の惣菜販売のレベルアップに最適。熾烈極まる競合を勝ち抜くためには、メニュー開発以前に「経営効率のアップ」「作りたての提供」など基礎改革が不可欠。現状はそれらをおろそかにして、メニュー開発ばかりに気を取られている。
中食はとてもシビアなビジネス。ロス率、値引きなどを加味すると、惣菜単体での経営は難しい。いわば、量販店の惣菜売場の実態は“客寄せ”にすぎない。今後、惣菜単体で利益を捻出するためには、厨房改革が最優先。その有効手段がオール電化だ。
‐‐どのように有効か。
中澤 使い勝手良い厨房レイアウトで作業動線を効率化、熱源の数値コントロールで調理技術を標準化、ドライ厨房で衛生管理を徹底、など数多くある。とくに直火の削除は大きなメリット。直火は室温を著しく上昇させるほか、労働災害にも直結する。そのような労働環境では、今後は良い人材が集まらない。昔と違うので。
「良い人材を集め」「長続きさせる」。それがレベルアップの近道であり、経営改革の王道。その実現にはオール電化が不可欠。もちろん当社の教育センターもオール電化だ。
‐‐ありがとうございました。
◆プロフィル
なかざわ・たてや=昭和42年東京水産大卒。(株)西友ストアー、(株)西友フーズを経て、平成4年(株)若菜の代表取締役に就任。惣菜店「若菜」をチェーン展開し、三七〇店舗・年商三七〇億円の事業に育て上げる。15年(株)デリシステム・プランニングを立ち上げ独立。中食事業の総合指導を手掛ける。
◆企業メモ
(株)デリシステム・プランニング(通称・DSP)=中食事業の経営改善指導、プランニングを手掛ける。三〇年間の現場実績に基づく経営管理手法、小売から生産までの各種マニュアル、品質管理システム、データベースなど、ソフト&ノウハウをトータルで提案している(本社=東京都渋谷区南平台町一二‐一三‐七〇九号、電話03・5459・6268/教育センター=東京都台東区台東三‐四一‐四、加藤ビル五~六階、電話03・5688・7030)