ミシュラン騒動、揺れる当事者の胸中 檜舞台歓迎でも期待外れで課題多し

2007.12.03 336号 7面

ミシュランガイド東京が創刊。150店もの星獲得で一般メディアは祝福ムード一色だが、業界内では早速、異論が噴出している。「そもそも、わずか5人の調査員が1年半の短期間で1500店の実力を調査できるのか」という疑念から、「ある特定評論家の主導評価ではないか」との憶測が飛び交っている。「4月にはガイドブックに掲載する広報写真の借用依頼が来た」(星獲得店)とすれば、調査期間は実質1年にすぎない。騒動に踊らされた当事者たちの胸中やいかに。

星獲得の60%を占めた日本料理界には、「日本びいきの評価はうれしいが、どれだけ日本料理の本質を理解しているのか疑問」という疑念が渦巻く。「オリンピック化した“柔道”の二の舞はごめん」との懸念感が強い。しかも、三つ星獲得を打診されながら事前に拒否していた有名店が現れたことが、賛否両論の溝を余計に深めている。

星獲得わずか5店にとどまった中華料理界では、「驚きよりあきれた」との声しきり。世界最高を誇る日本の中華料理で、たったの5店も意外だったが、それよりも衆目一致の名店が外されたインパクトが大きい。「日本の中華はおいしいから食べ過ぎて店を回りきれなかった」とのジョークにも信憑性が増すばかりだ。

かたや、ミシュランをフレンチ復活の切り札として歓迎していた仏料理界。こちらも「フランス人好みの味と感性が評価された」と、完全にお手上げムード。先人たちが築いてきた“日本独自のフレンチ”や、低迷下に耐え忍んだ“カジュアルフレンチ”は、あっけなく却下された格好だ。

星獲得8店に甘んじたイタリア料理界の重鎮は、「調査もなにも、仏ワインの無い店は蚊帳の外。星獲得には仏ワインの充実が不可欠」と、図星を指摘する。なるほど、中華料理が苦戦したわけだ。

“ミシュラン通”の見識者からは、編集内容に対し不満が挙がった。「ミシュランの醍醐味は、リーズナブル価格の推奨店を示す『ビブ・グルマン・マーク』なのに、星付き限定の編集では拍子抜け。そもそも一般人には理解できない高級店ばかり」と手厳しい。

一方、星獲得店の名誉意識も微妙だ。「1つ星(117店)が多すぎてうれしさ半減」という本音が多く、中には「3つ星、2つ星の店名を見て、どうでもよくなった」と、プライドむき出しの料理人も少なくなかった。

創刊パーティーで、日本ミシュランタイヤ(株)のベルナール・デルマス社長は、「正直、東京はパリやニューヨークに比べてレベルが高く、店数も業種も多すぎる。手始めにリストアップしただけで完全に調査したとはいえない。これを皮切りに充実させていきたい」と、慎重な物言いに終始。及び腰を垣間見せた。

米国版ミシュランといわれる「ザガットサーベイ」の日本版で、格付けトップの経験がある日本料理「分とく山」の野崎洋光氏は、「格付け評価されるのは名誉なことだが、それからが大変。一見客が殺到して常連客が離れ、メディアの中傷も増え、従来のリズムが完全に崩れる」と警鐘を発し、「日本料理を日本国内で評価するなら日本料理の礼儀や格式に配慮して、調査基準を透明化すべき」と釘を刺す。

ミシュラン東京は、料理人が脚光を浴びる檜舞台として、大いに歓迎されるべきだ。今回は、料理界をリードしてきた鉄人世代の有名店が軒並み落選する中、日本料理店と小規模店が健闘し、料理人の世代交代と伝統復活を印象付けた。だが半面、偏重と星乱発の違和感は、どうしても否めない。落選組のひがみといえばそれまでだが、ミシュランの権威を尊重するがゆえの不満であることは明白だ。

格付けの場合、双方納得の歩み寄りは困難だろうが、野崎氏が指摘する調査基準の透明化は、料理界側の誰しもが望むところだ。

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